ダークエルフの口づけ(2)

ダークエルフの口づけ (2) (富士見ファンタジア文庫―ソード・ワールド・ノベル (21-82))
ダークエルフの口づけ (2) (富士見ファンタジア文庫―ソード・ワールド・ノベル (21-82))川人 忠明

富士見書房 2007-02
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おすすめ平均 star
star汚泥の中でこその輝き
star半年振りですね!
star待ちかねた第二段!

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ストーリー

貿易商ギルドの警備主任であるエルフ女性・ベラの下で働いている警備兵・アマデオ。彼が故郷を旅立ってから2年の月日が経過した今、アマデオは再び故郷の土を踏む事になったのだった。理由は単純は事で、アマデオの故郷を収めるララサベル公爵家クララエビータの二人をベラとともに護衛する事となったためだった。
しかし部隊は暗黒神ファラリスの信仰すら許された国・ファンドリア。関係者全てにとって、ただの旅行、ただの遠出、ただの里帰りですむはずも無くアマデオの故郷すら巻き込んだ巨大な陰謀と血なまぐさい戦いの始まりでもあった。
闇よりさらに深い闇と、血よりもさらに濃い血を世界が求める、ダークファンタジー作品。

アマデオと幼なじみの少女・ウリエラの話

といっても良いでしょうね。
とにかく冒頭からアマデオの過去が語られる事となって、故郷の村に残して来た仄かな恋と過去が語られます。アマデオはその過ぎ去った過去と今回対峙する事になるのですが・・・切ないですね。そして悲しい。
全てを望みたくとも、それを望む事を自分に許す事も、勇気を出す事も出来なかったアマデオの幼なじみの少女であるウリエラのやりきれず、言葉にならない言葉が全編を覆い尽くしているようです。
果たして、アマデオにとって、ウリエラにとって、最良の選択肢とは「何なのか」・・・過去にまで遡れば「何だったのか」・・・絡まった蜘蛛の巣のような情念が、何もかもを解きにくくしてしまっているようです。

まるで意思を奪われたように、アマデオは立ちつくした。息が苦しかった。胸が裂けてしまいそうな気がした。
「あなたがほしかったの。あなたを抱いて、あなたに抱かれて、唇を重ねて、ひとつになりたかったの。あなたの匂いを嗅いで、あなたの匂いに染まって、眠りたかったの」

何もかもが過去形で語られる「もしかしたら」の夢のような世界。

相変わらずの陰謀劇

一体そこまでして何を手に入れたいんだと思える程に爛れきった世界と言えるんではないでしょうか。・・・しかし恐るべき事に、現実の世界でも形を変えて今作のような(ぶっちゃけもっと深い)闇があるのでしょうが。いずれにせよ、そこを生きて来たベラやクララ、そしてラミアなどにとって、世界はどのように見えているのでしょうか?
もはや真実を知っているのか知らないのかすらも見えない世界で生きている人達ですが・・・ひょっとしたら一周して非常に美しいものに見えているのかも知れません。少なくとも正義や邪悪などといった単純な括りで見ていない事だけは確かでしょう。

「主任を憎むなんて…………そんなこと」
驚いたように顔を上げるアマデオ。
ベラは薄く目を開いた。
「ないとは言えないでしょう?」
「…………」
アマデオは答えられなかった。
昨日までなら、どんなことがあっても、そんなことはあり得ないと胸を張って言えたはずなのに。
それが悔しくて、アマデオはうつむいた。

アマデオが未熟とか、ベラが達観しているとか、そういった括りではない何か。特にベラですが、そうした表面的なものを超えて深い所に流れている彼女の血のような何かを感じる問いかけ。そしてそれに沈黙する事にならざるを得ないアマデオ。いつかベラの心の底がアマデオの前に晒される日が来るのでしょうか?

総合

星4つ。
悲しくて、切ない話なのですが、華麗なる闇の暗闘に感受性が自動的に殺されてしまうので、悲劇なのに鬱展開とも思えない所がなんか凄いですね。星5つにするためにはもう一つ何か後押しする要素が欲しいですが、その辺は今後の展開に期待したい所です。とにかく主人公のアマデオがもう少し強くならないとどうにもならないですかね。
今回は表舞台に立っているとは言い難いですが、何となく接近しつつあるエビータとアマデオの今後の関係も気になりますし、今回背後で蠢いていた陰謀の行き着く先も気になります。早く次が読みたいですね。