煉獄のエスクード(1) RAINY DAY&DAY

煉獄のエスクード RAINY DAY & DAY (富士見ファンタジア文庫)

煉獄のエスクード RAINY DAY & DAY (富士見ファンタジア文庫)

ストーリー

解読を試みただけで何人もの人間が死に、あるいは発狂したとされる一枚の紙片があった。フー・リテレール(狂人文学者)紙片と呼ばれたそれには、教会が人類の歴史から「全てを犠牲にしてまで」ひたすら隠し続けて来た”扉”の場所が記されているという。”扉”は「向こう側」と「こちら側」を繋ぐ唯一の道。これを解放された場合、「向こう側」からの恐るべき侵略があるという。”扉”の向こう――すなわち魔界。
そしてこの度一千年の時を経て、新たな”扉”がこの紙片によって発見されたのだった。場所は、日本。そして一千年の時の経過によって解けかかっている”扉の封印”をやり直すために「レディ・キィ」と呼ばれる少女が秘密裏に来日する事になったのだった。
時を同じくして、一人の少年が教会に招集される。深津薫(ふかづかおる)というその少年は、退魔の妖剣ブラディミールに選ばれてしまっており、その為に今回の「レディ・キィ」の護衛役として行動する事になる。しかし、その任務は過酷かつ、凄惨。
「レディ・キィを護衛しきれないと判断した場合は、彼女を殺せ」
人類の影で続けられるおぞましい物共との死闘と運命を描いたファンタジー作品。

面白いんじゃないっすか?

いや、皮肉とかではなくて。
ただちょっと残念なのは主人公の深津薫の性格が今イチピンと来ない所でしょうか。冷静すぎるというか、冷酷すぎるというか、冷淡すぎるというか、そんな感じ。17歳でこの性格はどうなのかな〜とか思いつつ読んでいましたが、まあいいかな・・・位の気分でもあります。そういう奴もいるか、位で納得する事にしました。
まあ一番変だと思ったのは、最初の剣道の試合の助っ人として呼ばれた挙げ句、その試合ぶりを見て部活の顧問が「アレは殺人剣だ」と言って怯える辺りでして・・・ちょっと笑ってしまいましたが・・・そんなもんたかが試合で見て分かるかい!剣の道を舐めんな〜(わたしゃ一応有段者なんで)。
この作者の書く文章は何となく固くて叙情的な感じがしない文章で、個人的には特に魅力がある文体という訳でもなかったのですが、「真実を語らずに適度に匂わせる」とかいった「欠落」を作り出す事で、「読者や登場人物に勝手に背景を想像させる」事で、なんとなく未熟な表現力を十分補っているという感じです。
つまり、問題無しかな、という・・・なんか不思議な評価になってしまいましたが・・・。

設定もね

何となく菊地秀行辺りが考えそうな感じですが、要はネタの料理の仕方でして、その辺りは結構見事だったんではないでしょうか。
「人類の歴史そのもの」みたいな大げさなネタを持って来ているわりには「突拍子もない」という感じをそれ程受けなかったので、やっぱり上手じゃないでしょうか。色々と小ネタ、小技を仕込んでリアルさを丁寧に補強している感じは良かったですね。作者の苦労が偲ばれます。

キャラクターは

主人公以外のキャラがいい味を出していますね。レディ・キィ、レイニー、桂木真澄、リラフォード、ギーエン。そして「奴ら」。個人的に気に入ったのはレイニーとギーエンですかね。
あとこう言っちゃ何ですが吸血鬼のネタが仕込んであって、その吸血鬼がアッチのケがある美形なんで、BLが好きな人もある意味楽しめるのではないかという・・・あー、まー、私は「ちょいキモ」位でした。

総合

良かったと思います。星3つ。すっごく魅力を感じた部分もあるんですけど、それに言及すると激しいネタバレになるので避けます。
所々乱暴に思える展開があったと思える事を除けば十分楽しめる要素を持っていると思います。この本を書いた段階でまだまだ新人と呼べる作家みたいなんで、今後の伸びが楽しみですね。
ともぞ氏のイラストは、結構良かったかな・・・キライではないですね。ちょっとやっぱりBLの匂いがするけど・・・。