煉獄のエスクード(2) The Song Remains The Same

ストーリー

1巻の事件から約8ヶ月後、深津薫(ふかつかおる)はフィンランドのとある田舎の村に訪れていた。もちろんただの旅行という訳ではない。その村に魔族と人間達が探し求める魔道書「外道祈祷書」の一部が隠されており、しかも魔族らしきものがこの村で確認されたという情報をつかんだためだ。薫は村に対して潜入操作を試みる事になる。
しかし捜査自体は難航、村に到着するなりアイリスと名乗る少女に気に入られたまでは良かったが、少女に引っ張り回される事で中々捜査が進展しない・・・。そんな薫の事を村人達は監視するような態度で接した。そしてその背後にはやはり危険な影がつきまとっていたのだった。
教会の「エスクード(盾)」としての戦いをあらためて開始した薫の前に立ちふさがる困難を描いたシリアスファンタジーの第二弾。

1巻よりいいね

物語全体はこじんまりとしている(田舎村から一歩も出ない)のだけど、全体に良くまとまっていてとても好感触でした。とくに今回は1巻の主要なキャラであるレイニーが登場しないし、潜入捜査という形式をとっているため薫以外の登場人物が少ない事もあって彼の活躍ぶりやら性格がよく描写されます。彼女はとても魅力的なんですけど、魅力的過ぎて完全に主役の薫を食っちゃうんですよね。
また前作から8ヶ月という時間を置いたために薫自体が「エスクード」として成長を見せている事もあって、戦いにおいても見せ場が多いのが悪く無いですね。その性格もやっと掴めてきたかなと感じました。・・・まあ、どこまでいってもある意味クールなのですが、普段は情に流されやすく、また非常に優しい人物といって良いでしょうか。
とにかく主人公が頑張る話は悪く無いですね。

新登場のキャラ

特に真澄の師匠であったという魔術師・クラウディアは結構良いですね。状況を引っ掻き回すのが得意というか、どこまで本気でどこまでふざけているのか分からないキャラではありますが、なんというか「迷惑製造機」というポジションはそう悪く無いです。
あと、上にも出て来たアイリスですが、彼女も良いですね。いかにもいそう、とまでは言いませんが程よくキャラクターが立っている感じがして、こちらも好感触でした。

不満を言えば・・・

この「煉獄のエスクード」という話自体はどう考えても「魔族」=「吸血鬼」の発展系でして、吸血鬼ものの話といえばどうしても私の場合「吸血鬼ハンター"D"」を思い出してしまうんですね。
かの作品は芝居がかった、華美とも言える言い回しで読者に対して「吸血鬼」というものの美しさと恐ろしさ、その存在自体の悲劇性、あらがう事の出来ない呪い、と言った部分の強烈なイマジネーションを喚起させるような造りになっている訳ですが、あちらと比べると表現という意味でどうしてもちょっと劣ってしまうかなあ・・・という風に思ってしまいます。
ただし、これはもう単純に私にとって「吸血鬼ハンター"D"」という作品世界が「吸血鬼」という分野をシリアスに扱った作品の原点にある事が理由になっていると思いますので、そうではない読者にとっては十分楽しいのではないでしょうか。

しかしですね

今回は話のベースになっている悲劇がとてもある意味美しくて、その辺りがとても良かったように感じました。

「それが恋じゃなくてなんだと言うの?」

これはある人物がある人物に対して言った言葉ですが、喜びと悲しみ慈しみとに満ちたとても素晴らしい言葉だったと思います。やっぱり吸血鬼ものには悲劇が一番似合うと思うのですが、どうでしょうね。何となくですが「D-妖殺行」を思い出させる作品でした。

総合

星4つですね。
教会(バチカン)とイギリス国教(魔術師:クラウディア)との間でのやり取りはあまりにも緊張感に欠けるきらいがあって、ちょっとそこだけ突然コメディっぽくしてどうするよ・・・とか思わないでもありませんでしたが、それでも物語自体の美しさを評価したいですね。・・・ま、オマケ要素として微妙にエロいのも悪くなかったですが。
ともぞ氏のイラストも良かったですね。ただ薫が手袋を右手にはめていたかと思えば、別のシーンでは左手だけにはめていたりとか、なんとなく「何かの伏線?」とか思わなくも無かったですが・・・意味は特になかったようで・・・書き間違い?

感想リンク

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