BLACK BLOOD BROTHERS(2)

BLACK BLOOD BROTHERS(2) ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区鳴動― (富士見ファンタジア文庫)
BLACK BLOOD BROTHERS(2) ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区鳴動― (富士見ファンタジア文庫)あざの 耕平

富士見書房 2004-12-18
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おすすめ平均 star
starぐいぐい引き込まれるストーリー

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ストーリー

「九龍の血族」との突発的な戦闘などに巻き込まれつつも、なんとか特区入りを無事に果たした望月ジローコタロウ兄弟。とにかくまだ暮らす場所も定まらない二人は、カンパニーの調停員の葛城ミミコの部屋を一夜の宿とするハメになったのだった。
彼らはミミコに導かれて特区の1から10までの区を歩き回り、その中で大きな力を持つ血統に間借りを依頼しに出かけるのだったが、現在の特区内の勢力図は微妙な均衡の上に成り立ったものであり、その均衡を脅かしかねない力を持つ吸血鬼「銀刀」の二つ名を持つジローの存在は特区内に「パワーバランスを崩しかねない火種」として受け止められていた。
血の宿命、避けられない過去の因縁、そして特区内の勢力を交えての暗闇での暗闘と駆け引きが始まる2巻。

ただでさえ色々ある所に

特区内での勢力がまた独特でイカしていますね。表の経済圏などはともかく、裏社会では少なくとも4つの力がせめぎあう形で特区は成り立っています

カンパニー(オーダー・コフィン・カンパニー)

もちろんヒロインの葛城ミミコが所属する組織ですね。人間と吸血鬼の間を取り持ったり、問題を解決したりする傍ら、問題行動を起こす吸血鬼達には武力行使を行う事も出来る組織です。
苛烈な一面を持ちつつも意外に懐の広い所も見せたりする謎の多い組織です。葛城ミミコは一介の調停員ですが、その他の重鎮/関係者として

  • 尾根崎ミタカ(おねざき)
  • 張雷考(ジャンレイカオ)
  • 陣内ショウゴ
  • バトリック・セリバン
  • 赤井リンスケ

などが関係者です。

欧州系勢力

新市街区に拠点を置く欧州からの資本を基本とした勢力で、特区経済の中枢とも言える「マリーン・バンク」を持っています。トップにはウォーロック家という強大な血統を持つ吸血鬼のケイン・ウォーロックと呼ばれる強力な吸血鬼を置く組織です。

大陸系勢力

旧市街区に拠点を置く大陸からの資本を基本とした勢力で、トップに長老と呼ばれ、特区でも最大の力を持ち、「東の龍王」と呼ばれるセイという強力な吸血鬼を置く組織です。

夜会(カヴン)

吸血鬼優良主義者達の集団。人間を明らかに見下しており、組織立ってはいませんが危険な集団として存在しています。トップには「緋眼」と呼ばれるゼルマン・クロックという強大な力を持った吸血鬼がいます。
危険思想を持ったこの団体には

  • オーギュスト・ワイカ
  • 白峰サユカ

などが所属しています。

ざっと見ただけで

これだけの組織やら思惑が入り交じっている訳ですが、その勢力図の中でミミコはなんとかジローとコタロウに安住の地を与えるべく奮闘するわけですが、そう簡単には行かない状況となっているのは勢力争いの事もありますが、他にも幾つも理由があるようです。その辺りの細かな背景は色々ありますので是非本編で。

ところで

大まかな勢力図はともかくとして、キャラクターの描写も一段と深まって、魅力を増していきます。

ジローはやはり

深く暗く厳しい過去を持ちつつもやはり紳士で優しく労りの精神を持った吸血鬼です。最初想像したより遥かに思いやりの心を持った人物ですね。

「ミミコさん。あなたは本当に優しい方ですね。でも、どうかよく聞いて下さい。その優しさは、あなたにとって必ずしも良い結果を招きませんよ。あなたが『カンパニー』に勤め、調停員という仕事を続ける限り」

ジローは彼ら兄弟に肩入れするミミコの身を案じて、注意を促そうとします。彼はどう見積もっても非道な吸血鬼ではないのですね。

またコタロウもですが

やはり何も考えていないようで物事の本質を一瞬で見抜く眼を持っています。

「だったらすごいじゃない。そんなにたくさんの人たちが、ぼくらのことを気にしてくれてるなんて。しかも、仲間になって、って言ってくれてるんだよ? 理由なんかぼくにはわかんないけど——そんなに必要とされてるって、すっごくいい気分じゃない?」

コタロウは基本的に考え無しなのですが・・・それでもジローには決して出来ない見方でこの特区を見渡しています。

そして葛城ミミコですが

まあ、お人好しという事もあるんでしょうが、ただの人間なのに物語の深い所まで関わってくるであろう匂いを漂わせています。いきなり彼ら吸血鬼を部屋に泊めたりしてしまう訳ですが・・・。

「ほら、あたしって孤児だったでしょ? この仕事始めてからも、ずっと一人暮らしだしね。晩ご飯の相談なんか、ちょっと新鮮だったりするの」

突然訪れる事になった二人の危険な異邦人を目の前にしながら、奇妙な安心感と安らぎと明日を思うミミコ。

「ジローさんは特区に住めるわよ! 絶対に住めるっ! あたし、ジローさん特区に住まわせてあげるって約束したじゃないの!」

彼女がここまでジローとコタロウに入れ込むのは1巻のアレが原因かもとか妄想したりしてしまうんですが・・・とにかくただの迷惑かけられキャラに収まらない、懐の深さと芯の強さをかいま見せます。

今回は

色々な思惑を背後に見ながらも、伏線を新たに張りつつ、さらにその背後に見え隠れする「九龍の血統」の足音が響いてくるような話と言いましょうか。
いわゆる1巻のような派手な展開には欠ける話ではありますが、ビックリする程よく練られた勢力図/人間関係図が物語を良くできたタペストリーのように見せています。見所と言えば、実は私の場合はミミコの決意の程を知らされた所でしたかね。

あと

実は読み進めていくと分かりますが、この話は長くは数千年という寿命や、血統というものに脈々と息づいている宿命の物語——というより、その長い年月によって育まれた、人間には分からない程深く、広く、濃い、愛と憎悪の物語と言う事が出来たりします。
憎悪はともかく、吸血鬼と愛・・・ってなんか相性が悪そうですが、よくよく煮詰めて考えていくとこれ程相性のいい関係もありません。ある意味無限の命、そして吸血鬼になる事で必ずしも失われるとは言えない人間性は、彼らの命と道程を「闇のように苦しい愛と憎悪」で彩ります。それ故に彼らは罪深く、それ故に彼らは強く、それ故に彼らは儚く、それ故に彼らは脆い。
吸血鬼というモチーフがこの世界に生み出されてどれだけの時間が過ぎたのか分かりませんが、いまだに人々の心を捕らえて離さないのは、人が吸血鬼の持つ深淵に恐れと憧れを感じるからではないでしょうか。

総合

星4つ。今後への2巻は種まきの匂いも結構ありましたので星は一つ減らしました。
個人的に吸血鬼というテーマに入れ込んでいる私は星が甘くなる傾向があるかと思いますが。、それを差し引いても十分に面白いですね。この話で吸血鬼に魅力を感じられた人は「夜明けのヴァンパイア (ハヤカワ文庫NV)」「夜叉姫伝〈1〉吸血麗華団の章―魔界都市ブルース (ノン・ポシェット)」などの吸血鬼モノの本を読んで見る事をお薦めします。また違った妄想をプラスアルファしてこのBBBシリーズを読めるかな? とか思います。
特に「夜叉姫伝」はこのBBBと似ている環境での話ですので悪く無いのではないでしょうか。ただ・・・魔界都市シリーズの一つとして出版されており、アプローチも全く違いますので、いきなり読むと訳が分からないかも知れませんが・・・。ストーリーの構成や見せ方とかはともかく、吸血鬼周りの妄想力、幻想力(血の匂いとでもいいましょうか?)を高めるという意味では、菊地秀行が国内最強だと思います。