サイレント・ラヴァーズ

ストーリー

核による大破壊が吹き荒れてから200年、未だ続く核の冬の下、人類はまだ生き残っていた。食物の栽培が出来ない世界において、食料プラントは人々の生命線。プラントを求めて大規模都市カイオンが各地へ侵攻を開始してから6年、いつ終わるとも知れない戦争が続いていた。
ヒバナはそんな戦争に徴兵された一人の少女。VG――ヴァンガードと呼ばれる人型兵器の操縦が可能だったためだが、それは彼女に故郷の恋人との別離を強制させた。生きて帰れるかどうかも分からない戦場にて、彼女は思う。早く恋人に会いたいと。
しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった。彼女の危機に駆けつけた悪魔のようなVGには、ヒバナの恋人であったセツナの肉体から切り離した魂が込められていたのだった・・・。
戦場下で恐怖と孤独に苦しみ、微かな希望をたよりに戦う恋人たちの姿を描いた作品。

暗い・・・

ラノベとは言え物語の舞台が戦争ですからね。人死には幾らでも出る余地があります。味方が生き残るという事は敵が死ぬということであって・・・もうどうしようもなく暗いですね。明るい戦争なんぞあったらそれはそれでビックリですが。
もう取り返しのつかないような傷を負ってしまった者たちも出てきますし、彼らは一体コレからどうなって行くんだろうという気がします。

ヒロインのヒバナですが

一心に遠くの故郷にいるはずの恋人を思い続けています。見ているこっちが辛くなる程真っすぐに。戦地には彼女に思いを寄せる男性兵士もいたりしますが、それらの誘いをひたすらはねのけて、彼女は恋人――セツナの事を思っています。
でも真実はより過酷ですね・・・。

そして恋人のセツナ

さらに過酷な運命が彼を襲ったといっても良いかもしれません。肉体を奪われ、恐るべき戦闘機械に魂を封じられ、もはや人としての楽しみを全て奪われた状態で恋人であるヒバナの前に姿を現す事となります。しかも、元の人間の姿に戻る事は出来ないという・・・恐ろしく残酷な仕組みですね。
彼は自分がセツナであるという事をヒバナに告げる事が出来ません。ただもう自分の事を忘れて、他の男を愛して幸せになってくれ、自分はもう人間に戻れないのだから・・・と考えています。しかも心の形すら歪んだらしく、荒々しい言葉しか紡ぐ事しかできなくなってしまっています。こんなになった人間(といって良いのか分かりませんが)に一体この先どんな救いがあるのでしょうか・・・なんとも暗澹たる気持になりますね。
変わり果てた恋人たちの会話を抜き出してみます。

「君は、生きなければ」
ヒバナは泣きはらした目で、黒い怪物を見上げた。
「君には待っている人がいる。そうだろう」
「あなたには……?」
「俺には誰もいない。誰もおれを待ってなどいない」
「――――」
「俺の人生にはもう光はない。だが、君は違う。だから、生きなければ。あと一年半で君は除隊できる。生き残って、除隊して、リジンへ帰るんだ。必ず、帰るんだ」

ひたすらセツナの事を思い続けるヒバナ・・・本心を告げず、真実を告げず、何もかもを捨て去って恋人を守ろうとするセツナ・・・悲しいですね。

そして

戦争はその傷口をいっそう広げて行く事になります。
セツナの魂の宿る機体には「エデン計画」という大きな秘密が隠されているようですが・・・現時点ではそれがいったいどういうものなのか分かりません。そうこうしているうちにまた一つ大きな損失がでました。なんともやりきれないですね。

総合

星・・・3つかな。
いわゆる男のロマンだとか、美学みたいなものはあるような気もしますが、女性の側からしたら怒られそうな内容ですかね。
まあ私は男なんで、感情移入するのは難しくありませんでしたが、時々「過去はやり直せない」という厳然たる事実がもどかしい話ですね。あと、現時点ではあまりにも希望が小さくて、夢が見れなさ過ぎ。簡単に言うと、暗過ぎかなあ・・・。もう少しでも仄明るい感じがあれば、4つあげてもよかったんだけどねえ・・・。
イラストは表紙と口絵カラーが特に良いのではないでしょうか。絵に奥行きはあるので、もうちょっと動きを付けてくれるとなお良いですね。