アンダカの怪造学(6)飛べない蝶々の鳥かご迷路

アンダカの怪造学 6 (6) (角川スニーカー文庫 185-6)
アンダカの怪造学 6 (6) (角川スニーカー文庫 185-6)日日日

角川書店 2007-04
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ストーリー

古頃怪造高等学校に通う空井伊依(すかいいいより)もなんだかんだとありつつも、遂に2年生へと進級。先輩となる事になった。3年生だった虚島罠奈は卒業する事になり、彼女との涙の別れもあったものの、新入生を迎えて新しい学校生活が始まると思った矢先——とんでもない新入生がやってきたのだった。その名も志田桐涼女(しだぎりすずめ)。新入生の挨拶からぶっ飛ばしまくる彼女は学校に対してあるレースの開催を要求していた。
「魔王杯」——名前こそ裏があるかどうか分からないものの、このレースに勝ったものは学校の生徒会長の地位が与えられるようにするという。伊依に何故か異様なまでの敵意を見せる志田桐涼女は、伊依の親友であるはずの魅神香美の過去を知る少女でもあった。
果たして伊依は魔王杯を無事乗り切る事が出来るのか?の第六巻。

伊依と志田桐涼女

今回はのっけから喧嘩しています。
それは香美が生徒会長に指名されながらも全くやる気がなく、その権利の他の生徒に明け渡そうとしてしまう事からなのですが・・・何事にも常に消極的な姿勢を取り続けている香美と衝突してしまう伊依。そしてその衝突の最中に現れる志田桐涼女は、伊依を挑発します。

「友達? ははぁん、便利な言葉!」

まあこういう台詞を吐く辺り、5巻に出てきた無城鬼京と基本的に大きな違いは無いですね。「怪造生物は友達」という伊依に対して「奇麗な言葉で道具の事を語るのは止めようや」と言ったのが無城鬼京で、「御為ごかしはもうお腹いっぱい」と言うのが志田桐涼女ですね。そこに至る経緯こそ違いますが基本にあるのは同じ——不信です。人間不信。

カービィと志田桐涼女

基本的には「傷ついた経験から自己否定に走って、これ以上傷つかないための自分ルールを作っている」という意味で同じ様なものですね。そう言う意味ではこの二人がかつて手に手をとって傷を舐め合うように、親しい仲となったのは良く理解できますね。真実がなんであれ、相互依存の関係にあった——それだけの事なのでしょう。それが良い事か悪い事かなんて、誰にも言えませんけどね。
まあ・・・そういう状態に至るまでの理由づけはかなり弱い様な気もしますけど・・・得に魅神のほうですね。確かに彼女に与えられたものは大きかったでしょうが、それだけでああも主体性が無くなるモンかな? というのが一つと、どうして自分が動くと不幸を呼び込むなんて信じるに至ったのかが今イチです。まあ、志田桐涼女が抱える失望は分からんでもないですが。

結局の所ですが

これは主軸に「愛って何かな?」「人に優しくするって事って何かな?」「利他的なんて本当に存在するの?」という基本的な問いかけに対して、伊依が「答えにはなりそうも無いけど答えに至れそうな道筋を示す話」と言えるかも知れません。
しかしですが、その伊依の理想や目的に邁進する意思といったものが余りにも常人には眩し過ぎて、反発を招く理由でもあります。彼女は無自覚ながら「自分自身で立って歩け」「停滞する事無く信じて戦え」「愛は消えたりしない、愛に勝るものは無い」を強制しているようでもあります。
ある意味自分を信じて疑わない辺り、非常に面倒くさくてうさん臭い人でもあり、彼女に同調できないとムカつく事この上ないでしょうね。

しかしですが

まあそこら辺はいかにも少年漫画的ご都合主義とでも言いましょうかね。
奇妙奇天烈なキャラクターを「対立勢力の代表」として出しまくって、人間性をある程度剥奪した上で話を作っていますので、これらの命題に真面目に取り組んでいるように見せてはいますが、殆ど真面目ではありません。ある種童話的。
・・・一巻から繰り返していますが、基本的にこの話は一(伊依)対一(敵)の話なんですね。だからシリアスさはあまり無く、いつまでたっても少年漫画的です。彼女に敵対する信念を持つ者たちとの戦いは基本的に発生していないんですね。
そしてもう一つ特徴的なのは、敵対している人物たちの背後には形を変えただけの「愛」が必ず存在しているという事ですね。そしてそれによって敵対者たちは基本的に自滅しているのです。良く言えば非常に上手に、悪く言えばご都合主義的に「愛」を引っ張りだして物語を作っていると言えるでしょう。

良くも悪くも

若くないとかけない話かなあ・・・とか思いますね。
本当の意味で失望や絶望を知らない、字面の上でしかそれらを理解していない、すっごく悪く言うと薄っぺらい匂いが作者からプンプンします。・・・しかし、だからこその魅力も確かにある訳ですね。あっさりにはあっさりの食べ方がある・・・と言った所でしょうか。しかしながらこってりが食べたい人はもう単純に「安物くさい」と思いそうです。比較的楽しんで読んでいる私ですらそう思います。
脳みその箸休め的作品です。冷静に考えてこの本くらい「友情、努力、勝利」というジャンプ法則を地で行っている作品も珍しいかも知れません。一定以上の年齢に達した人に取っては「週刊誌を買って読む」位の気持ちで読み捨てるのが正しい付き合い方でしょうかね。

あら?

本編について殆ど触れていませんね。まあ、基本的に5巻の構造と同じです。姫をさらってしまう魔王に志田桐涼女、助けたいお姫様に魅神美香を排した童話です。しかし最後には勇者の伊依の必死の一撃で魔王の中に残っていた「本当の愛」が目覚め、によって魔王が敗北する話です。・・・やっぱり童話ですね。普通は人生そこまで都合良く出来てないですからね。
ヴェクサシオンの陰謀とか、ついに復活するアレとか、アンダカの色々とかありますが、このまま行けばまあ多分童話的に解決してくれるでしょう。

総合

星3つ。実際には3.5から3.9の間位かな?
ちょっと今回はこの作品を否定的に捉えて感想を書いてみました。
しかしながらまあ・・・何も考えずに読んでいられるという意味で私は楽しんじゃっていますね。感情移入らしい感情移入もしないで読んでいられるので解決の道筋が見えたときの快感も少ないですが・・・。まあ、読み捨て型の本でしょうか。
星が一個減っているのは単純に5巻と似た様な感じで話が進んでしまって新鮮みが欠けたからですかね。
エナミカツミ氏のイラストは実に安定して良いです。もう特に言及する必要が無いくらいです。