リヴァースキス
リヴァースキス (電撃文庫 さ 12-1) | |
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ストーリー
末村善(すえむらぜん)は目が覚めるとひとりの美少女になっていた。
そして、その隣では自分が寝ていた。
寝ているうちに身体を何者かに乗っ取られていたらしい。その何者かは自分をトモヨシと名乗るなんか大雑把な感じの誰かで、どうやら事故で死んだらしい。でも未練が大き過ぎてなんとなく善の身体をとってしまったらしい。そして身体を乗っ取られた善は何故か少女の姿でこの世に出現したのだった。
とにかくトモヨシが成仏する条件は「好きな相手とキスする事」らしいのだが、その相手は美少女になってしまった自分(善)だという・・・訳の分からない状況に混乱する少年(身体は少女)の善にまっとうな未来はあるのか!? というストーリー。
「電撃hp」短編小説賞<大賞>受賞作。
軽妙なテンポが見事
話の作り全体と、リズムの良いやりとりは読んでいて心地よいと言っていい。
短編小説賞<大賞>受賞作の名に恥じない出来と言って良いと思う。馬鹿みたいなやり取りの中に恋心の意味不明さを可笑しさを交えて語っているあたりはもう見事、本当、読む価値あり。大有り。
「運命だね」
「知るかよ!」
「運命を、信じる?」
「信じねえよ!」
そんな運命、すっごい嫌だな!
とか言いつつも、キャラクターの作りや、表現も実に的確でそれぞれの個性を上手く生み出していると言っていいなあ。主人公の末村善を初め、トモヨシ、和歌、やっさんといったそれぞれのキャラクターの役所や、伏線の張り方なども上手だと思う。
トモヨシは石像を人差し指で差して、
「善ちゃん、石像と」
それから中指を立ててブイサインを作って、
「二次元と」
最後に手を開いて自分の胸に置いた。
「死んだ人には勝てないよ」
妙な説得力がある言葉が可笑しい。そーか、二次元は結構強いんだな・・・(え、当然?)。とまあこんな感じの会話の応酬が楽しめます。全編に渡ってこのリズムを保持していると言って良いでしょう。
でもお!
ごめん。マジごめん。うげえ・・・。
全力で気持ちが悪かった!
最高に読了感も悪かった!
なんなんだこの展開! もうなんか中盤以降全力で許せない気持ちで全開出力でした。
- 自分の身体を他人(トモヨシ)に乗っ取られた挙げ句
- 気持ちの悪い事(自分の顔したトモヨシとキス)を要求され
- 自分はなりたくもない少女になって(何故か美少女)
- さらに周りに誤解(理解?)されまくり
- 恋心に対する理解が無いと諭されたり
・・・って・・・キスをセックスに変えたら大変な事だ〜! うおー! 自分自身にレイプされているようだー!!(DMC)
俺なら自分の体でも殺す。いや、自分の姿を奪った他人だからこそ積極的に殺す。気持ち悪さに耐えられねー。
ああ
この作者の別の話は読んでみたい。絶対に面白い話を書いてくれるだけの筆力があると思う。だけどこの話はだめだ。コメディ調なのが尚の事辛さを助長してくれたという不思議な感じ。これはシリアスなら苦しまなかったなあ。・・・この間の逆だ。
総合
星1つ。・・・またもめなきゃいいけど。私の評価はこうなりました。仕方がないです。嘘ついてもしょうがないですし。
正直なところ「前途ある有望な」といっていいと思える見事な筆力をもった作者で、恐らくテンポとか言葉選びだけの話で言えば大好きな感じの作風だけど、ムリだ。
全編に渡ってストーリーの作り出す生理的嫌悪感がバリバリで、耐えられなかった。別のシリーズを書いたらまた読んでみようと思う。でも・・・このシリーズの続編なら・・・読まないな。
正直、性転換ものは何故か鬼門なのかもしれないと思い始めた今日この頃です。
追記
主人公の身体が女になっただけなら多分嫌じゃなかったな。多分不愉快なのはトモヨシという肉体の簒奪者の存在そのものだね。きっと。
それに投げっぱなしはどうかと思うので、以下に簡単ですが、私の脳内で発生した例え話をしてみます。
- Aさんが家の周囲に不法侵入が出来ないように壁を張り巡らせていた
- しかし、そのAさんの家に突如空から振ってきたBさんが割り込み、Aさんは別の物件に押し出されてしまう。
- Aさんはもの凄く、Bさんもそこそこは「元居た場所に戻りたい」のだけど、それにはBさん側に条件があり、Bさんはその条件が満たされないと家から出たくても出られないと主張。
- その条件はAさんがBさんに「心底したくない事を一つしろ、またはさせろ」という条件。Aさんにとってはとても飲めるような条件では無かった。
- Aさん、Bさんの条件が飲みたくないので他の方法を探す。
- Bさんは「条件通りじゃないと意味がないよ」と消極的。
- Aさん、大事な家を取られてしまっているので、あまり強く出られない。
- Aさん、友人のCさんに協力してもらいたいが、Cさんは「Aさんは今の物件にいる状況の方が自分にとって好ましい」と協力を拒否。むしろBさんに協力的。
- Aさん、偶然合った友人D、友人Eにも理解を示してもらいたいが、双方ともあまり真剣さはない。
- Dさんは「いいから条件を飲め、でないとこっちも都合が悪い」と主張、Eさんは「面白ければいいや」と他人事。
- 偶然、Aさんの家(Bさん在宅)に家を壊そうとする犯罪者が襲来。Bさんと一緒に家もピンチに。
- Aさんの家とBさんはちょっと壊れそうになったけど、なんとか無事。
- Aさん「家をBさんに不法占拠されていたけど、それは犯罪者から自分を守るための出来事だった」と自分を納得させる。
- Aさん、上記の理由からBさんに感謝の意をあらわして、「心底嫌な事をしてもいい」とついに許可をだす。
- しかしBさん、最後に来て「Aさんの出したその許可」には魂が籠っていないと、Aさんの許可をはねのける。
- Bさん「自分はいつまでもこの『Aさんの家』にいても構わないんだよ?」とAさんを脅す。
- Aさん大慌て。
- Bさんはさらに要求をつり上げ、「Aさんが今まで心底嫌だった事を『自分からしたい!』と思えるようになるまでここにいる」と言い出す。
- Aさん、誰かなんとかしてくれ。
こんな感じかなあ・・・。Bさんの「外交」は見事でしたが、Aさんに感情移入していた私にとっては最悪の展開でしたね。
感想リンク
Alles ist im Wandel まいじゃー推進委員会! 灰色未成年 booklines.net ライトノベル読もうぜ!
ちなみに他の感想系サイトでは高評価のようですので、是非そちらも(もし読んでいなければ)読んでみて下さい。全然違った評価をしていますので。