ルカ—楽園の囚われ人たち—

ルカ―楽園の囚われ人たち (電撃文庫)
ルカ―楽園の囚われ人たち (電撃文庫)七飯 宏隆

メディアワークス 2005-02
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おすすめ平均 star
starシリアスとギャグで揺れてるシナリオ
star井の中のイルカ
star世界観

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ストーリー

地底の底に作られた閉じた楽園<ペルシダー>。
そこに一人の少女が住んでいた。名前を”まゆ”という。楽園の始まりの日に一匹のピレネー犬と共に姿を現した一人の赤ん坊の名前。
<ペルシダー>には”まゆ”の他にも彼女を見守り、育てようとする複数の大人と子供達が存在していた。しかし”まゆ”を除いた彼らの身体は時として透明で、存在が危うい人達でもあった。
そしてもう”一人”——外界から100億いたはずの他の人類の情報が届かなくなって10年、楽園<ペルシダー>の中に人知れず存在し、彼らの生活を観察し続けていた”あるもの”がゆっくりと自己主張を開始し始めていた。
この話は、人類が滅んだと思われる世界で綴られる一人の少女の成長物語、特に少女の「反抗期」をクローズアップした記録である。

良かった・・・

買った挙げ句、放置しておいた期間が実は随分あるのだけど・・・。
結果として、この「記録」を開いて読んでみた事が「作品の一部」として考えられるような、不思議な体験をさせてもらったという感じ。
記録自体は一人の傍観者の視点で語られるのだけど、視点が行ったり来たりしない分、一定のリズムが全編を支配していて心地よいのがまず魅力的。そしてそれに加えていわゆるSFテイストとファンタジーテイストのいいとこ取りをした世界観とその描写がまた良い。

「程よい〜」という作品

  • 程よい謎
  • 程よい人物描写
  • 程よい幼さ
  • 程よいいい加減さ

これ以上書き込んだり細かく考えたりすると一定の読者を置き去りにしそうだけど、それを抑えて誰でも入り込める描写に終始している所は評価できると思う。
・・・まあ、逆に言えばそこを物足りないと思う人はいるだろうけど・・・得にSF好きな人は所々で物足りなさを感じるんじゃないかな? かく言う私は「ちょっと物足りない」と感じた人でありますが・・・。

「戦略拠点32098 楽園」を思い出した

作品としては全く違うのだけど、アレに似た雰囲気があるかな。もの寂しさに温かさ、仄かな希望といった「印象」でくくれる部分になにか共通する匂いを感じましたね。
しかし、個人的な評価で言えばちょっと劣るかな? ただ100点 vs 98点位の僅差で、もう単純に「読み手の好み」の範囲の作りだと思う。
個人的には風景描写という点で戦略拠点の方が美しかったと感じた位ですね。しかしまあこれは単純に舞台装置の差でしかないので、話の優劣をそんな部分で語るのは野暮ってものでしょうか。

総合

星5つ。
映像的なイマジネーションという意味でもう一つあれば個人的にもっと素晴らしく感じたかもしれないけども、仕方がありませんね。物語の語り手が語り手です。あまり叙情的に綴られてもおかしいでしょう。そこがまたある種のリアリティを醸し出しているとも言えそうです。
また、それが好みに合おうが合うまいが、閉じた世界で巻き起こる人間ドラマは必見だと思います。
とにかく一人一人のキャラクター(特に女性陣)が魅力的に描かれている所はいいですね。そして中心人物の一人の中で大事な”あるもの”が目覚めていく過程がまた楽しいです。いや、読んで良かったと思える一作でした。
ただ・・・正直イラストが非常にもったいないと感じた作品であります。描写するべき部分は他にも沢山あるであろうに、人物の描写に終始していて全く風景や<ベルシダー>内部の広がりを描く事に成功していません。描く時間が無かったのかな? と思える出来です。
特にカラーページの浪費には目を覆いたくなります。まあ、これも「”記録”の一部だから」という事で納得しましょうか・・・。

さて

これって悲劇的な物語でしょうか?
私は実はそう思いません。なぜならこの記録を私が読んだからです。彼の残した記録は時を超えて今多くの読者の手元にあり、バタフライ効果のようにきっと少しづつ未来を変えて行く事でしょう。
一つのストーリーはここで終わりました。しかしまあ、未来の可能性はこの記録を読んだ読者の分だけ分岐するでしょう。
・・・じゃあ、次の未来へ行きましょうか?

感想リンク

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