Astral

Astral (電撃文庫)
Astral (電撃文庫)今田 隆文

メディアワークス 2003-08
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おすすめ平均 star
star悪霊じゃない幽霊物

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ウパ日記さんがなかなか良かったみたいな感じだったので読んでみました。印象はひょっとしたらかなり違うかもしれないけど、楽しめた。
ちなみに作者名が「今田隆文」となっていますが、これはペンネームを途中で変更しているためです。

ストーリー

主人公の少年・須玉明は交通事故が原因で幽霊が見えるようになってしまった。その力をもって世の中を見渡してみると、あちこちに死んだまま彷徨っている人々がいる事に気がつく。
事故を通して命が如何に素晴らしいものなのか感じた明だったが、それに反して目に入ってくるのは死者の姿。本能的に初めて見た「彼ら」が生きている存在ではないという事に気付き、彼らに目を付けられないように暮らしていたが、ある時目があった少女の一言で彼の暮らしは幽霊と向き合う暮らしに変わって行く——。
4人の死者と4つのエピソードで綴る、死者と生者の交錯する物語。

派手さはないです

主人公の須玉明少年は幽霊が見えるだけで、他に特殊な能力も無ければ、特に目的を持ってその能力を活用しようとかも思っていない、ごく普通の少年と言えそうです。熱くもなければ、空疎でもなく、普通というにはあまりにも普通過ぎる位の印象を受けました。
どちらかと言えばちょっと人が良い感じがありますが、それでも滅私奉公とかそういう常識はずれな所も無く、本当に至って普通という感じの少年ですね。あんまり怒ったりする事もなさそうな、変な安定感のある主人公ですね。

しかしですが

そんな主人公だからこそ対面する事が出来たと言えそうな基本的に悲しい話ばかりです。
この話は既に死んでしまった人達——4人の少女たちとの別れの物語だからですね。「基本的に」とあるのは彼女達はそれぞれ理由があって現世に留まってしまっているのですが、彼がそれに一筋の道を見つけてあげるからですね。

ただ

上記の通り、明少年は幽霊が見えるという意外に特に変わった能力がある訳ではないので、幽霊と話をしたり、彼女達の無念の元になっているものを苦労して解決したりする訳ですね。
あの有名な恋愛映画「ゴースト/ニューヨークの幻」のウーピー・ゴールドバーグのポジションと言えば分かりやすいですかね。あの映画の彼女は何とも愉快な所がありましたが、あれと似たような振る舞いをします。
上で「道を見つけてあげる」と書きましたが、どんな道を彼は見つけてあげられたのか——彼女達の一人が残した、一番印象的な言葉を引用しておきます。

トットッて、ものすごく軽く走れて、背中を押されているみたいで、おもしろくて……このまま空も駆けあがれるんじゃないかって、そんな気がしたの」

陸上に青春をつぎ込んだ一人の少女の残した言葉ですね。

総合

個人的に好みかな。星4つ。
多分ですけど、読んだ人の多くは「全体的にパッとしない」って印象を持ちそうですね。特に最近エロ全開で有名な「ラブ★ゆう」とかを読んで、同じ作者だからという理由で手を出したりすると余りの印象の違いにビックリするかも知れませんね。
しかし、キャラクターの内面を丁寧に書いている所は良い感じだと思えましたね。うん良作かな。
イラストはともぞ氏です。なかなか良いのではないでしょうか。

感想リンク

ウパ日記