レヴィアタンの恋人

レヴィアタンの恋人 (ガガガ文庫 い 2-1)
レヴィアタンの恋人 (ガガガ文庫 い 2-1)犬村 小六

小学館 2007-06-19
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おすすめ平均 star
star生きていくものたち
star2巻・3巻に期待したいです。
star秀作

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今月のガガガの新刊は今の所「Re:ALIVE」と「携帯電話俺」とこの作品を読了したのだけど、取りあえずインパクトの強かったコレから感想を書きます。で、その感想ですが、まず作者によるあとがきから引用しましょう。

どこの編集部に持っていっても

「こんな血みどろなの出せるか馬鹿」
「もっと萌え入れろよ馬鹿」
「ストーリーじゃなくてキャラに力入れろ馬鹿」
「媚びろ馬鹿」
「難しい表現振り回すんじゃねえ馬鹿」

と言われて突き返されたこの原稿を

「うちは血飛沫とか内臓べろーんとか全然OK」

と拾い上げてくださったガガガ文庫
(読みやすいように改行と引用括りを勝手に入れてます)

おーい、ラノベの読者諸氏、我々読者は既存の編集部に完全に舐められてるぞ〜?
・・・まあ何処までこのあとがきに書かれた事が真実なのか分からない話だし、それに加えてそれだけの土壌を今まで時間かけて作ってると言えそうなんで仕方がないのかも知れませんけどね。
まあつまりそういう本です。

ストーリー

時は2077年、最悪の感染力と死亡率を誇るウイルスの蔓延によって一度地球人類がほぼ全て滅び去った後の世界。舞台はかつて東京と呼ばれた土地。
そこにはウイルスの猛威から生き残った人達が作り上げたコロニーが存在していた。
物語の主人公の一人は久坂ユーキ。気功を使いこなし常人の何倍もの破壊力を行使する超進化を遂げた人類の末裔。そしてもう一人はなもなき若者。彼らが偶然出会う所から物語は開始する。
この話は文明の滅び去った後、遺伝子に異常をきたした怪物達の巣食う世界で逞しく生き延びた人類、そして法治世界の滅び去った後の人達の争いを描いた血だるま近未来史です。

もー血まみれです

2077年の時代に至るその前に、実は「簒奪王」と呼ばれた人間がひたすら破壊を繰り返した時代があったのですが、その描写が開始直後にあります。その辺りから血まみれです。

バリケードの周辺には炭化した死体が幾十も転がっていて、腹腔からこぼれおちた臓器、頭蓋から飛び出た脳漿、ちぎれた手足、どこの部位なのかよくわからない肉片などがアスファルトを血の色で彩っている。

もちろんその後の描写にも普通に

およそこの世のものとは思えない号叫が鉄橋にこだました。二つに割られた股間から血潮と共に膀胱が尿道と一緒に顔を出し、真っ白な骨盤のなかからは直腸、大腸、小腸が次々とこぼれ落ちる。

こんなんでできます。
こういう描写が絶対ダメって人はもうここで本を閉じた方が身のためです。あ、念のために書いておきますが、暴行とか陵辱系の性暴力系の描写はありませんでしたので、そういうのがピンポイントでダメって人は大丈夫です。いえ、そう言った事が起こらない世界観という事ではなくて「今の所とりあえず書かれてない」って感じですけど。
北斗の拳が読めれば読める内容かなあ・・・?

キャラクターの描写は

あまり無駄がない印象を感じましたね。
久坂ユーキ中心で話が進む部分と、あと少年——実は名前がないので勝手に「タマ」と名前が付けられてしまうのですが、基本的にこの二人に注目して読んでいれば問題無い感じですね。なかなか良い感じでキャラクターを作ってるかな? とは思いました。
上記の通り描写がえぐい所はひたすらにえぐいですが、普通の場面では至極普通の人間同士のやりとりがありますね。ですので久坂ユーキとタマのやり取りとか、その他の平和的なキャラクター同士のやり取りは読むのになんの不快感も感じない・・・どころか、血まみれとのギャップもあってか爽やかですらありますね。

また

世界がこうなってしまう原因となった殺人ウイルスが蔓延した過去の描写がかなり細かく描かれますので、その辺り(ウイルスの開発や抗体の生成など)の蘊蓄含めて楽しんでしまいました。
この「過去と未来(現在)の描写の行ったり来たり」は実はかなり唐突に行われるんですが、描写されている内容が全く異なるので「あ、描かれている時間軸がここで完全に切り替わってる」というのがすぐ分かります。
まあそれでも、ちょっと工夫が欲しかったかな〜とか思わないでもないですけど。

総合

うーん、血まみれ星4つ。
グログロのゲロゲロで人間がまっぷたつにされる描写が丁寧に書かれちゃったりして、嫌いな人には堪え難い内容でしょうが、私は平気でしたね。血まみれですけど、ある意味正統な歴史ファンタジー作品とも言えなくもないです。
描写がちょっとエグい未来の世界ってだけで、やっている事は架空戦記物ですから、私にとってはいわゆる精神攻撃系の作品ではありませんでした。続きが出るかどうか分からないですが、出たら読んでみたいですね。
・・・ちなみに私に対して有効な精神攻撃は「寝取られ」「性暴力」が二大巨頭です(あ、両方とも女絡みだ)。
ちなみにイラストは赤星健次氏です。絵自体はキャラクターに動きとかがあって悪くないと言えば悪くないんですが・・・ホンネを言えば「絵のページを全部無駄使いした」位には思いました。
「荒廃しきって化け物がウヨウヨいる近未来世界」という魅力的なモチーフがあるのに、それを全く描写していません。・・・絵の上手い下手はともかく(というか私には良く分からない)、この絵の内容でゴーサインを出した編集はアホと違うか? 超が付く程もったいねー。