携帯電話俺
- 作者: 水市恵,なぽる
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/06/19
- メディア: 文庫
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ストーリー
ある朝目が覚めると、大学生の薮沢大地は一台の携帯電話になっていた。
しかもどうやら薮沢大地(本物/偽物不明)もちゃんと存在していて、携帯電話の薮沢大地は「人間の薮沢大地の所有する携帯電話」になってしまっているらしかった。訳の分からない状況のまま、助けを求めたりするのだが、誰にも携帯電話の薮沢大地の声は聞こえないのだ・・・。
八方ふさがり状態の「携帯電話の薮沢大地」だったが(ちなみに人間の薮沢大地の方は今まで通り普通に生活をしていたりする)、ある時携帯電話になった彼の声を聞く事の出来る存在が現れた。
なんだか良く分からない状況のまま始まって、良く分からないまま終わっていく不条理な(?)ストーリーです。
ネタバレ全開で感想を書くので、続きを読むにしておきます。
ある意味とんでもね〜
表紙イラストと背表紙に書かれたあらすじ以上にシリアスな展開をする本だなあ・・・と思ったり。
携帯電話になった・・・あ〜面倒なので以下「携帯の薮沢君」に統一しますが、彼の特徴を列挙しますと・・・。
- 携帯についたカメラでしか外界を見る事ができません。
- 電源を落とされると意識も消えますが、基本的に意識ははっきりしており、自分から眠る事は出来ません。眠くなりません。
- 食事は充電です。
- 通話口があるので音は拾えますが、音は自分では出せません。
- 自分では動けません。
- 触覚らしきものは無いようです。
- 生命体としての定義から外れています。
普通こんな状況に人間が追い込まれたら数日で発狂すると思います。ええ、普通に。感覚剥奪系の拷問ですかコレは?
携帯の薮沢君は
携帯電話にある機能を流用する事でしか外部に接触できないんですが・・・。それに加えて幾つか、「いかにもむりやり」といった感じの適当さが目に付きます。
- 電卓機能は使えるようになる。
- メールも打てたりする(でもそれで助けを求めたりはしない)。
- でも音は出せない(出さない?)。
- 通話機能も使えない(使わない?)。
- バイブ機能も使えない(使わない?)。
とかですね。なんだかなあと思わないでも無いですが・・・。
本当にこれは単純に一人の若者が「ある意味歴史上に無い程残酷で、死よりも恐ろしい体験をする話」と言えそうです。
しかも
そういう状況に陥った理由が「精神の複製を作って、そのデータを別のものに宿らせる」という一人の魔術師の興味から出た実験だったというのがまたどびっくりだわね。
ある意味殺人以上に残酷な扱いだと思う。生命倫理って、大事だなあと思ったり。
自我を持ちながらも「複製」つまりコピーであって、あくまで本人ではないんですね。それがまた悲劇です。もはや存在自体が生き物ではない挙げ句、意識と宿り木だけ存在するけど、自分から出来る事はほとんど無いという・・・。
脳みそだけ取り出されて意識を持ったまま保管されるような感じ? これはエグい。
さらにさらに
彼(本体の方も含む)の運命がまた悲惨で・・・。
- 薮沢君のコピーが作られる。
- 本人にコピーの自覚がないまま日々を過ごす。
- そうこうしているうちに薮沢数一(人間)が事故で死亡。
- 携帯の薮沢君、人間の薮沢君(自分本体)が死んだと魔術師に知らされる。
- 魔術師は「どうせ死ぬ運命だと分かっていたからやった」とコメント。
- 携帯の薮沢君、自分の存在そのものに疑問を感じて、消えた方が良いかもなどと思ったりする。
- 自分の葬式にまで参加することになり、やつれた家族や友達などを見るハメに。
えーと、コレが最悪な類いの残酷物語でなくて何が残酷なんだ? と言えそうな展開です。
まあ実際の物語の綴られ方は、携帯の薮沢君が異常なまでのクールさ、冷徹さ(ある意味コンピュータと言っても良い程です)を発揮して、「まともな人間だったらゼッタイに割り切れないし、許せない」と思える所を次々と許してしまうので、そう悲惨に見えません。なんだかストーリーの方も出来事の割には淡々としています。
この話は
ある意味不条理を楽しむ本なので、感情移入などしてはいけません。
作者が間違いなく読んでいるであろうカフカの「変身」をネタにした猛烈不条理残酷物語なので、その辺りが多くのライトノベル読者に受け入れられるかどうかが興味がありますね。一部からは大反発を喰らいそうな気もします。
総合
星3つかな? と思ったけど2つにダウン。
まあ、ネタとして楽しめたという感じですかね。私がもし同じ状況に陥る事があったら即座に殺してもらう事にしますけど、薮沢君はなんだかそれなりに納得してしまえたみたいなんで(信じられませんが)、まあ良いですけどね。
イラストはなぽる氏です。うーん、絵にする所に苦労したでしょうねえ・・・主人公が携帯ですから。まあ絵としては動きが無いし奥行きも無いんで好きではないですが、仕方がないのかな・・・?