鬼切り夜鳥子(3)みちのく血煙慕情

鬼切り夜鳥子3 みちのく血煙慕情 (ファミ通文庫 ま 2-1-3)
鬼切り夜鳥子3 みちのく血煙慕情 (ファミ通文庫 ま 2-1-3)桝田省治  佐島 真実

エンターブレイン 2007-06-30
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おすすめ平均 star
starファンディスクっぽい
starファン以外の方にお勧めしたいです。
star実際の平安末とはちょっと異なります

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待ちに待った3巻ですな。

ストーリー

時は現代を遥かに遡る平安時代、場所は東北。1、2巻の主人公である桂木駒子(かつらぎこまこ)久遠久(くどうひさしは登場せず、もう一人の主人公である「夜鳥子(ヌエコ)」が実際に生きていた時代の話になっています。
全身に入れ墨の形で式神を宿らせて戦いを繰り広げる「夜鳥子」が生きていた時はどういった人物だったのか? そしてどのような生涯を送ったのか? 名前だけ出て来た事のある「求道」とはどういう人物なのか? といった辺りが物語を通じて語られます。
・・・1、2巻とはちょっと違う趣のある話に仕上がっていますが、それでもちゃ〜んと「鬼切り夜鳥子」のテイストはあるので既刊本を読んでいる人なら安心して読めますね。
購入時、本のオビには「3巻から読んでも大丈夫」とか書いてあったと思いますが(作者もあとがきで同じ事を書いている気がしますが)、やっぱり1巻から読んだ方が面白いと思います。つまり、1巻から買いましょう。

抜き身の刃のような

という表現が合っているかどうかは別として、「鬼」に成り果てた人間や妖怪と戦いを繰り広げている夜鳥子の姿がいきなり描かれます。
しかしそれが求道という僧侶との出会いを通じてどんどんと変わっていく所がとても素敵ですね。既刊を読んでいる方は勿論知っているかと思いますが、桂木駒子は夜鳥子の生まれ変わりであるし、久遠久は求道の生まれ変わりでもあります。
しかし・・・性格は違うもんですな〜。

「そんなこと言わないでさ。俺と組もうよ、ヌエちゃん♡」
「胸糞の悪い、その呼び方もお断りだ!」

夜鳥子は今までも登場の機会がありますから、まあ予想の範囲内ではあったのですが・・・驚くべきは久遠(求道)の方ですね。意外や意外、昔の久遠(求道)はこんな性格だったんですな。
実は根っこの部分では現代の久遠と大きく変わらないんですが、どっちかと言えばちゃらちゃらした感じの言動を繰り返すし、夜鳥子と比べた場合に色々と世慣れているところが多く、基本的に夜鳥子の一歩先を歩いてフォローが出来る大人ですね。
その辺りは現代の久遠少年と比べた場合に違いますが・・・駒子と出会う前に女遊びをしまくっていた久遠という感じ(?)でしょうか。

二人の関係は

やっぱり現代に通じるものがありまして、非常にお気に入りの関係ですね。
夜鳥子と求道の関係はそのまま現代の駒子と久遠の関係に当てはまります。駒子と久遠は幼なじみなのでお互いの事を良く知っている関係ですが、夜鳥子と求道はそうではないので、出会いのシーンから物語が始まります。
そしてお互い不器用ながらもゆっくり、そして確実にその距離を縮めていく感じは妙に初々しくて、読んでいて楽しいですね。

——儂は、この男の女房、……にされてしまった。
否定しても否定しても勘違いされた。三日目あたりで精根尽きて説明をあきらめた。

なんて事を夜鳥子が述懐するんですが、その後意外にモテる求道にすり寄る女どもに妙な嫉妬をしてしまう夜鳥子が可愛いですね。
そして本編全部を使って夜鳥子の中で求道の存在が徐々に大きくなっていく過程が丁寧に描かれていきます。どこに惹かれたのかといった事や、その時どんな事を思ったのか・・・などなどです。

ヌエちゃんと呼ばれるのは虫酸が走る。だが、求道が他の女を、ちゃん付けで呼ぶのは”理由はないが”もっと嫌だ。あぁあぁ!! もぅぉお!!

——儂は、もう、一人ではない。

二人の関係はとても素敵な関係になって行きます。
これは一方的な思いではなくて求道の側についても同じ事が言えます。それがこのシリーズの良い所ですね。二人の関係がとても強くて、揺るがない。安心できる礎が本の中にガッシリとある感じ。

——止めなきゃ!! あの女にこれ以上、人を殺させちゃなんねえ。
なぜそんなことを急に思ったのか、求道自身、よくわからない。

「俺、ヌエちゃんの手が血にまみれるとこ、もう見たくないんだ」

——それに、破門になれば、おまえとずっと一緒にいられる。

やっぱりいいなあ・・・この二人の組み合わせ。

今回は

話を引っ掻き回してくれるキャラクターとして、「」という名前の少女が出てきます。
色々と訳ありな少女なのですが、これがお色気方面でも活躍してくれまして、訳ありとは言え求道に「なんだかスゴい気持ちいいマッサージ」やら「スゴい事になっている所を見せちゃったり」とかをしてくれます。それにやきもきする夜鳥子がまた可愛いんですなこれが!
・・・所で、「舞」という名前に聞き覚えありませんかね? ある人はやっぱりこの3巻、読まなければダメでしょう。
あ、あと夜鳥子の持っている二振りの刀についても謎が解けますよ。

総合

大好きなので星5つ。
夜鳥子の過去(1、2巻でもちらっと出て来た)話なので、明るい話になりようがないかな・・・とか思っていたんですが、読了感も個人的に良く、やっぱり楽しませてもらいました。ファンだったら間違いなく買いという感じの出来になっています。
・・・ところで話の作り方がなんとなくRPGゲームっぽいのは作者の今までの仕事によるものですかね? 刀鍛冶周りの話ではそんな事を考えながら妙にニヤニヤしてしまいました。
イラストは1、2巻と同じく佐嶋真実氏です。カラーページ一枚目はいきなり大男(九十九乱蔵みたいな)の裸の背中が描かれていて「うぉ!?」とか思いましたが、しかしこれが夜鳥子や駒子が好きな背中なんですねえ・・・。
氏のイラストは動きも雰囲気もあって実にお気に入りですね。妄想力を高めさせてくれる夜鳥子の可愛い表情のアップなんかも描かれてますし・・・いや〜ごちそうさまでした。

追記

なんとしても作者の人には続きを書いてもらいたいと思ったりします。
駒子と久遠が夜鳥子と求道のように「同じ所まで深まった関係になって、幸せになる」ところまで読まないと安心できません! ぜひ、その辺りまでじっくりたっぷり描写してもらった続きを書いてほしいと思います! 消費者はとても貪欲なのです! 次! 次を読ませて! ハリーハリーハリー!
・・・あ、そういえば「ハルカ」の感想まだ書いてなかった・・・。

感想リンク