かむなぎー不死に神代の花の咲くー

かむなぎ 不死に神代の花の咲く (GA文庫)

かむなぎ 不死に神代の花の咲く (GA文庫)

自分でまとめた、読みが4音のタイトルのラノベ、多くなった?ってエントリでやり玉に挙ったのを切っ掛けに興味が湧いてしまった作品・・・という事でしばらく前に読んでみた。
・・・面白かった。

ストーリー

日本を守護する神器(象徴的な意味ではなく、実効力を持った神器)としての定めを背負った一族・草薙家に生まれた少年・草薙真幸(くさなぎまさき)は、家の跡継ぎとして霊威の力を振るう一族の一人で高校生。
そんな草薙の家に同じ三種の神器の一つの力を持つ八坂家の一人娘・八坂千尋(やさかちひろ)という年端も行かない少女が預けられる事になった。
千尋は生まれながらの数奇な運命によって、存在しているだけで怪異に力を与える能力をもっている。そのため、千尋は怪異に付けねらわれる宿命にあった。
普段は母の千破矢が千尋を守護しているのだが、新たな子を身籠ったため、千尋の守護が一時的に出来なくなったという。その間だけ千尋を守護して欲しいという依頼を受けるのだが、背後には千尋の力を狙う陰謀が蠢いていた。
襲い来る怪異に立ち向かう草薙たちの奮闘と、千尋の運命を描いた作品。

キャラクター:個人的に好感度高い

草薙真幸

まだまだ幼いと言える年齢であるものの、優しく強い父と母の薫陶を受け、また草薙に課せられた使命から逃げる事もなくストレートに育った好青年、という印象を受けますね。まだまだ実力が伴わない所があるとは言え、その姿勢は謙虚かつ真摯という感じですか。それでも暴走はしますけど・・・まあ若いから仕方ないな〜って感じでしょうか。

「俺が護る。俺の目の前で、預かりモンのあいつに疵ひとつつけさせるもんかよ」

しかしこの真幸少年がこうして育っている理由は彼一人の力によるものではないというのは上で書いた通りです。
それは本編にほとんど出っぱなしで、千尋を可愛がる真幸の母・沙耶子の存在感が大きく、また親として十分な精神的な強さを持っているというのが印象的でした。

「愚問ですよ。それが人徳というものです」
「人徳? 年の差じゃねえの?」
「亀の甲より年の功というでしょう? 経験がもたらすもの、歳月によって磨かれたその積み重ねを徳というのよ」
厭味を大上段からの一刀でばっさり斬られ、真幸は唸った。

終始こんな感じですかね。
これも自分のエントリでなんですが、ライトノベルに見る親子関係の稀薄さで取り上げたような「希薄さ」の真逆を行っているような作品です。
真幸は力自体は母の沙耶子より強いですが、人間としては頭が上がらないものの、沙耶子も真幸ないがしろにしている訳ではなく、慈しみながら育ててきたという感じがひしひしと伝わってくる感じですね。
・・・ところで、ここまで父の話が出てきていませんが、どうやら草薙一族の使命のために国中を飛び回っているようです。そうすると父の存在感が薄いという印象になってしまうと思われると思いますが、真幸が話のあちこちで父の教えを思い出し、そしてそれによって新しい自分を発見して行くので、登場はしないですが影が薄いという印象はありませんでした。
実際に父が登場していても「いないのと同じ」みたいな作品と比較すると抜群の存在感ですね。

八坂千尋

・・・可愛いんだこれが!
和服をちょこんと着こなしたという印象で・・・いわゆる幼女のヒロインですが、有名所の「紅」の九鳳院紫や「円環少女」の鴉木メイゼルと一線を画する存在です。
千尋はいわゆるラノベでしかあり得ないような「ちょいエッチな可愛らしさ」や「都合の良さ」という所がなく、そのままストレートに小さな女の子として可愛いのですね。
生まれながらに持った力のせいでどうも内気で引っ込み思案なのですが、しかし優しくて世俗に汚れていない素直さを持った少女です。
その外見こそ、

淡い桜地の京小紋は彩りも鮮やかな手鞠模様で、濃紅の帯は可愛らしい文庫結び。それは彼女にとてもよく似合っているのだが、母親そっくりの顔立ちは子供にしては小綺麗に整いすぎて、どこかしら無機物めいた雰囲気を醸し出している。

なんて表現されていますが、その内面は柔らかくて甘いお菓子のような少女です。

「……ありがとう。でも、わたしにかかわらないほうがいいから……。おばさんはいいひとだから、きっと、使われちゃう。あんまりいいひとでなくても、使われちゃうと、とても、くるしいから、おばさんには、そうなってほしくないです。わたしにはちかよらないのがいいです」

ちいさな花のような唇を噛みしめて、こくんと千尋はうなずいた。胸のうちで何度も何度も、強く己に言い聞かせる。これから、草薙という遠い親戚に預けられるけれど、きっとそこのひとたちは母ほどには強くない。だから、あまり側によってはいけない。
自分があんまりこころを寄せたら、きっと、そこのひとたちも乳母のように、悪いものにとりつかれてしまう。そうしたら、今度こそしなせてしまう。

自分が怪異に狙われるという事を知っていて、かつ怪異は時として人に取り憑いて千尋を襲う。そのため千尋は人を思って寂しさに耐えながら人を遠ざけている・・・健気なんだコレが。
しかし、千尋が草薙の家に徐々に慣れて行って、心を少しづつ開いて行く過程もまた楽しい。
最初こそ真幸との関係がぎくしゃくしていた訳ですが、千尋の可愛らしさにほだされて、真幸はこんな事を考えだします。

子供がこんなに可愛いのは、なんか、反則な気がする。これじゃ、わがままを言ってもなんでも聞いてやりたくなる。子供は遊ぶのが仕事。甘やかされるのが商売と言うが、まったくだ。遊ばせて、甘やかして、思う存分楽しい思いをさせてやりたくなる。

・・・メロメロですね。
なんか私の頭の中にある「幼女ヒロイン」の一角にどっかんと出てきた感じすらします。

話の展開:渋くて堅実

想像を超える超展開(例えば「モノケロスの魔杖は穿つ」みたいな)というものはないですが、しっかり、はっきり、くっきりというライトノベルの王道的な展開をしてくれます。安心して・・・本編内は激動の展開ではありますが・・・読めます。

味があるんでは?という語り口

ライトノベルの文体?ネタについて って話がやっぱりしばらく前にありましたが、この本はちょっと渋い語り口が目立ちますね。上記で千尋の服装について説明している文章も渋いですが、その他にも古典的な描写が目立ちまして、それが妙な味わいとなっております。

ひとに言葉を教わるよりさきに、千尋は彼らの雅び言葉を覚え、古い時代の戯れ歌を覚えた。八坂の屋敷においてすら、六年前の予言のゆえに、怯懦をもって接せられる千尋にかまいつけてくれたのは、千破矢と乳母と怪しのものたちだけだった。

見るからにちいさないとおしむべき存在は、真幸の中に存在すら危ぶまれていた庇護欲をかきたてた。この子供が笑って過ごせるような世の中でないことが、真幸には不憫に思われた。世が世であれば縛魔の家系である八坂の傑物として家名を上げたであろう才覚が、この時代にはただそぐわない。

・・・SFではないけど、id:ggincさんにちょっと読んでもらいたいような気がする。どんな印象を持つかな? ひょっとしたらオススメかもしれませんね。

総合

星4つはがっちりと付けますね。
ちょっと言葉使いが渋くて容易に読めるとは言い難いですが、それでもこの味わいは他のラノベでは中々味わえない類いのモノではないでしょうか。
真幸の真っ直ぐさを楽しみながら読んで良し、千尋萌えで読むもよし、神道陰陽道系の独特の言葉や文化にどっぷり浸かって読むも良し、という贅沢な本ではないでしょうか。・・・読んでないなら読まないと意外に損かも?
睦月ムンク氏(どんなペンネームだ)のイラストも口絵カラーを始めとして作風にがっちりとあっている感じでいいですね。もうちょっと背景とかはちゃんと書いて欲しいとかおもったけど・・・まあ十分かな。

感想リンク

booklines.net  ラノベ365日  積読を重ねる日々
booklines.netさんとラノベ365日さんは双方とも「主人公がムカつく」というような結論に達している所が面白いですね。私は幼さと無鉄砲さ含めて好ましく思ったんですが。その辺りは積読を重ねる日々さんと同じだな。