DDD(2)

DDD 2 (講談社BOX) (講談社BOX)
DDD 2 (講談社BOX) (講談社BOX)奈須 きのこ

講談社 2007-08-10
売り上げランキング : 26012

おすすめ平均 star
star難解、奇怪、愉快、痛快
star野球をしていたころを思い出した。
star一巻より・・・

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高校野球というものは、マスコミやらなにやらが一丸となってサワヤカなものに仕上げてやろうという匂いをある時からモリモリと感じる様になってしまって、どうも妙な気分だった訳ですが、本書を読んで妙にすっきりしたキモチ。
ああ、情熱の裏側にある黒々とした怨念が美しい。とにかく「野球はサヤワカな青春」というイメージに一役買っているであろうと思われるあだち充あたりに読ませてやりたい
・・・え? もちろんこの本「DDD」の2巻をですよ?

ストーリー

アゴニスト異常症候群——通称”悪魔憑き”と呼ばれる疾患がある。
罹患した患者は精神と肉体を自分の願望のままに作り替える能力を持つ。発症の形態は様々であり、一目で分かるようなものから、人間社会に潜伏可能なものまで様々だった。
石杖所在(いしづえありか)は、かつて”悪魔憑き”に自らの左腕を食われ入院。その障害は精神にまで及び、昼に起こった出来事は夜には忘れてしまうという問題を持っていた。しかし病院をなんとか退院し、現在は自分よりさらに大きな障害をもった人物の介護をして生活をしている若者だ。しかし、その要介護者がくせ者だった。
両手両足が無く、義手、義足での生活をしている少年・迦遼海江(かりょうかいえ)は、一言で言えば正体不明の不気味な存在であり、悪魔的な美貌の持ち主であり、そしてまた悪魔的な精神と気配の持ち主だった。
彼ら二人と、彼らの過去、現在、そして未来の前に横たわる、舞台となる街に蔓延る、悪魔憑き達の影。
悪魔達と人の邂逅を描いた作品の第2弾。

野球のお話

夏発売ですしね。
ネタとしては非常にタイミングが良かったという感じがしますが、ここまでストレートに野球してくれるとは思わなかった。
作品内には野球に関する(とくにピッチングとバッティング)に関する蘊蓄が散りばめられていて、読みながら「へー、スライダーってそう言う事なんだ」とか「スクリューなんて球種があるのね〜」とか思いながら読んでいました。
で、この話のメインになっている「シンカー」についての説明も勿論あります。
SVSという賭博にもなっている草野球試合。それはピッチャーとバッターだけで成り立つシンプル極まりない野球。アンダーグラウンドで開催されるその試合に現れた正体不明の「シンカー」と呼ばれる殺人投手。読んで字のごとく、比喩でもなんでもなく「自分の球を打てなかった打者を殺す」ピッチャーだった。
主人公のアリカはもちろん、1巻でもちょっと登場し、また言及もされていた霧栖弥一郎(きりすやいちろう)とが過ごした青春時代に時間を巻き戻すかのような物語です。それは彼らが野球少年であったからだけではなかった。

血なまぐさい青春

幾つもの理由と、不幸と、悪意が重なって燃え尽きることが出来なかった青春の熱は、いつしか冷えきって時を止め、凍えるような冷気を生み出した。それは人々の排斥と醜さ。しかし、そうした逆境の中でも消える事のない夢と、そしてそれを超えた所で交錯する意地。
バッターが、

「——よう。待たせたな、シンカー」

と言えば、ピッチャーもそれに応える。

音が聞こえる。
ここはとてもうるさい。
まるで炎天のフライパン。
水色の地獄で、今日も私は孤立する。
——なんて懐かしい。
カン高い、鉄打つような雑踏が聞こえる。
遠く細く、残響のような歓声が聞こえる。
じゃあボールを握らないと。
行けるか?
行けるとも。もう冬は終わったのだ。息苦しいほどの灼熱の夏。焦げる肺。霞む球場。……ドキドキする。あの眩むばかりの夏が、もう一度、この右腕に戻って来た。

なんて一瞬、なんて刹那、美しく、そして儚い。
しかしそれ故に鮮烈で永遠に残る幻。
悪魔憑きで、かつ人死にの出るどちらかと言えば陰鬱な話なのに、妙に清涼感があるのは何故だろうという気もする作品でしたね。
・・・この話は美しいとは言い難いけど、間違いなく一つの青春の終着点を書ききっていると思います。

吸血鬼のお話

こちらも1巻で話に出ていましたね。吸血鬼と呼ばれる悪魔憑きの登場する話です。
人殺しでろくでもない奴なのですが、異常にコミカルな上、ユーモアまで持ち合わせているので変に憎めない奴・日守秋星(ひのもりしゅうせい)が活躍してしまう話です。
活躍と言っていいのか悪いのか、ちょっと分かりませんが、やっている事だけ見たら最悪の生き物だからですけどね。つまり、現時点で理由の分からない殺しを繰り返している(事になっていて、本人も否定しない)奴だからですが。
まあ変に面白い話です。爆裂刑事のトマトさんこと、戸馬的(とうままと)と日守秋星の対決シーンも見逃せないですね。

白昼夢だけど現実な話

ある人が帰ってくる話で良いのかな?
誰が帰ってくるのかはまあ本編で読んでもらって、一章に一枚ついているイラストが結構イカしていたんですが、1巻の方が良かったなあとか思った私。やっぱり血まみれで妖艶に微笑む美少女って・・・そそりません? え、そうでもない?

それと

なんだか分からないけど全体的にスラスラと読めてしまった。
どうも奈須きのこの本は読み辛いという話も訊くのだけど、今回はミスリードにも全く引っかからずに読めてしまった。意外と相性が良いのかもしれない。
作品の時間軸は1巻の最初の話より前の話という事になっているのだけど、それもあまり違和感が無かったかな。1巻が手元にある人は巻末の年表を見てみると2巻のメインの作品である「SVS」がどの辺りに位置する作品なのか分かると思うので、要確認ですね。

総合

面白かったなあ・・・星5つにしちゃう。
全編を覆い尽くしているなんとも退廃的な雰囲気と、不気味な気配がちょうど自分にあっている感じかな。
野球の話も青春していると言えばしているんだけど、それでもやっぱりドロドロとしていて、汚れにまみれていて、それでも美しくて・・・いや、汚れているからこそ美しいのか? よく分かりませんけどね。
同じ事が吸血鬼の話にも、「ある人」の話にも言えるのかな? 汚濁にまみれながらも純粋——狂気という純粋
とにかく次が待ち遠しいです。ラストの流れからすると3巻は大波乱の話になりそうな気がするし。
イラストはこやまひろかず氏ですが、いい仕事しているんではないでしょうか。稚拙な絵のような気もするけど、ピッチャーとバッターの一瞬を切り取った見開きの一枚が一番よかったかな。
あとは巻末の対戦成績表かなあ・・・ある意味すごい怖い。すごい狂ってる。朗らかなのがとても怖い。必見・・・だと思う。