ドアーズ(1)まぜこぜ修繕屋

個人的に神坂一独特の文体が好きではない。でも傑作だコレ、と言ってしまえる作品ですね。読まないともったいない。

ストーリー

曾根崎美弥(ミヤ)が朝起きたら、家の中が大小数々のドアだらけになっていた。
妹の曾根崎智紗(チサ)、しっぽが5本あるリスになっていた。しかも本人はその事に全く違和感を感じていないらしい。
外に出かけたら、大型トラックは無数の足が生えてじゃがじゃがと走る物体になっていた。
赤信号は蠢く赤い触手に、青信号は青色の羽虫の群れになっていた。
同じ様な感じでほとんど何もかもが変な事になっており、しかもそれについて「変だ!」と感じているのはミヤ一人らしい。
全くもって訳が分からない状況だったのだが、突然「シュリン」と名乗る男が現れる。とっつかまえて話を聞いてみると、あらゆる異世界の常識がぐちゃまぜになってしまった事がこの変な現象の原因らしい。
シュリンによると、各世界に異変の原因は散らばっており、他の世界を巡って異変の原因になった人物の頭をシュリンの持っている棒で3回叩けばムチャクチャになった世界が少しずつ直るという事だったが・・・。
世界が直るのが先か! ミヤの常識が崩壊するのが先か! めちゃくちゃな世界を修理するミヤとチサの旅がスタートするシリーズ1作目。

とにかく

脳みそのどこから出てきたんだろうこの話、というのがまず最初の一言。
きっとボーッとしている時か、風呂入っている時か、便所か、なんかそんな全然関係ない時に最初の着想があったんだろうなあと思ったりする。とにかく考えれば考えつく展開ではないというあたりに、神坂一の才能——という言葉で一括りにして良いのかどうか分からないけど——を感じる。

教室が全部、やたら細長いカウンター席になっていて、場所によっては黒板が読めなかったのが不便だったが。カウンターの上を滑らせてプリントを回すのは、あんまりおしゃれじゃないと思う。先生指して『あちらの方からです』とか言うな。

のっけの方にあるこの一文でガッツリと物語に引き込まれてしまった。しかもそれがどんどんと連続で向こうから襲ってくるのだ。喰われて当たり前と言うか、もう骨も残らないというか。

そしてさらに

異世界を渡って世界の修正に走り回る展開が、それぞれの異世界の「変なところ」を運んでくる。ここまで読み進めるともう骨どころか魂も残らないというか。

「あれよね。来航したペルリ提督の東方殲滅黒船艦隊を、もののふキャノンで一掃して、日本が世界進出をはじめるきっかけになった事件」
ありえない歴史をさらりと語られて、智紗はぱたぱた手を振って、
「いやない。うちにはそんな歴史ないから。
もののふキャノンて。何その世界大戦連覇しそうな超戦闘力」
「さすがに大戦連覇はないけど。
第四次スーパー世界大戦では負けてるし。五次と六次は圧勝したけど」
「——大変なんだ。この世界も」

一事が万事この調子。
しかも苦労して世界を少し直せたと思ったら、その余波をくって——

某月某日。
妹が触手になった。
だめです。
これはだめだと思います。

これである。もう次のページの展開は予想不可能。もう身を任せて読むしか無いシロモノである。

総合

星5つ。
まだ読んでいなければ読まないと絶対に損する作品だと思う。
恐らく一作目のライトノベルとしてもお薦め出来る作品だと思うし、最初に簡単な状況紹介が付いているのも嬉しい。面白い・・・でも「じゃあこの作品はコメディ以外のどこの分野に入るんだい?」と聞かれたら「うーん、分類不可。というかライトノベルという以外の何者でもない」という感じの得体の知れない所がまたいいですね。
イラストは岸和田ロビン氏です。カラーイラストだけでなく、本編内イラストの殆ど全てが秀逸・・・というか絵にしている所が良いという感じかな。唯一の不満と言えば、触手になった妹のイラストが無かった所なんだけど・・・しかしそれがまた触手感を高めている様な気もするし・・・うーむ・・・。