クダンの話をしましょうか

クダンの話をしましょうか (MF文庫 J う 3-5)
クダンの話をしましょうか (MF文庫 J う 3-5)内山 靖二郎

メディアファクトリー 2007-10
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おすすめ平均 star
star話は1本ですがショート集
starそれは、悲しい宿命をもつ少女の物語

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ストーリー

一人の少女がいた。セーラー服を着て、変な帽子をかぶって占い師を街角でやっている小さな少女——名をクダンという。
彼女には人の未来が見えた。しかし、彼女に見えるのは「他人の災いに関する未来」だけ。しかも、その占いをした相手とは完全に「縁」が切れてしまい、クダンと親しくなった人も彼女の事を忘れてしまう。そんな悲しい宿命を背負った少女。
彼女は今日も自分の呪われた運命を打ち消すために「鵺(ぬえ)」と呼ばれた存在を探す。その中で幾人もの少年少女と重なっては離れていく彼女と、彼女を取り巻く人間模様を描いた作品です。

うんうん

ちょっと変わった所があるけど、切り口も新鮮でなかなかに楽しい作品と言えそうです。
クダンは鵺を探して学校を点々としている少女なのですが、あくまでも特殊な能力があるだけで他は普通の少女であるところが魅力的ですね。そしてクダンと関わる事になる少年少女も特に変わったところがある訳でもなく、普通に今の十代にいそうな感じがします。
本編は3つの短編を中心にして、クダンの私生活の一部を切り取った更なる短編を間に挿んで・・・という感じの構成です。

ひとりぼっちのヌエ

直辰は高校生になってから疎遠になってしまった幼なじみの少女・つぐみを追って、彼女が街で派手な格好に着替えて出歩いているところを目撃する。そして彼女の訪れた先にいたのは・・・というお話。
すれちがいが生んでしまっていた「悲しいこだま」を、勇気を出して受け止めてあげて? というちょっといいお話。彼らの未来に幸あれという所でしょうか。

天然甘党影法師

ありがちなのかそうでないのか、ちょっと分からないけれど、周囲から「天然」と言われる自分が不満な少女が、学内で流行っている匿名掲示板で「自分がこうあるべき」という姿を見つけて有頂天になり、そしてそれの歯車が徐々に狂っていくことで追い詰められて・・・というお話。
自分の中に潜むネガティブな感情を匿名掲示板の中で「影法師」を名乗る人物——ただし自分——に見つけ出してしまい、そしてそれが自分自身を追い詰めてしまう。
ネットの中の人格「影法師」は、自分に反する意見を持つものを攻撃し、一歩も引かない・・・天然と呼ばれる自分にはない強さを持っているように見える。
・・・しかしそれが現実を浸食し、それが自分を覆い尽くそうとする。・・・ブログなんてやっている人間からすると、そういう事が他人事に思えないですね。

「だから……私は影法師になりたかった。あの強さが憧れだったの」
「違う、あの影法師だって似たようなもの。周囲に悪意を発することでしか——悪意の渦の中でしか自分の在処がわからないのよ。だけど、渦の中心って、実はからっぽだったりするものよ。外から見ているとわからないけどね」

「YES」を言えない人間は、いつか自分を喰い尽くす・・・そんな物語。

なりすましドッペルゲンガー

知性派の少女が主人公となって、奇妙な万能感をもったまま奈落に向かって疾走してしまうお話。
彼女は自分の生き方を変えることが出来たのかな? という展開ですね。掲示板の管理人となって、人の人生をもてあそぶ彼女の生き方は、実は酷く空虚。

「ま、どうでもいいけどね」
飽きたオモチャに用はない。

自分の書き込みで、人の心理を書き換えることができれば、他人を操ることだってできるかもしれない。

こんな風に言ってしまえる少女もやはり、自分の臆病さに気がつかない少女。クダンはそこに切り込んでいく。

「あなたは自分だけが見たいのでしょう。人からは見られたくない。それは自分を知られてしまうことだから。あなたの心を見透かされてしまうから」

「あなたは誰にも見えない遠く離れた場所から、一人でみんなを眺める。それで理解したつもりになっている。本当に理解するという意味も知らずに……」

「人を理解するということは、互いの心をさらけ出すこと。一人、自分だけが他人を理解できるなどと思うことは、風景の写真を見て、自然を満喫していると思うくらい滑稽なこと」

他者と接触するという事は基本的に「何が起こるか分からない未知のもの」で、本質的にそこには恐怖が隠れている。
今の時代、ネットを利用すれば、その恐れを自覚しないまま、自分の姿を隠して観察だけすることが出来るようになった。でもそれは・・・臆病さと寂しさの現れでもある。
さて・・・クダンのこんな発言を見た後にネットをやると・・・違った見え方がしてくるから不思議ですね。「自分」はどうだろうか?

総合

星4つは固い。タイムリーな感じで、色々と考えさせられる内容でしたね。
それぞれの短編も興味深いですが、クダンの私生活を描いた話がまた良くて引き込まれますね。
貧乏で甘党だからケーキ屋でバイトしたりとか、雨の日は占いが出来ないから儲からないと嘆息するクダンの姿は、少年少女達の心の奥底に踏み込む一撃を繰り出すクダンとは、全く違う少女のようです。変な生き物も出てきますし。
人から忘れられてしまうという悲しい宿命を負いつつも、それでも自分の力を使って優しく人を導くクダンは、なんだか苦行を続ける僧侶みたいですね。彼女の未来が明るいことを祈りたくなってしまいました。
イラストは朝未氏ですね。カラーイラスト、本編内の白黒イラスト共に良い出来じゃないかと思います。うん、好きですね。
感想を書いている他のブログを見渡してみると・・・ビックリする位読者によって印象が違うみたいですね。それだけでも読む価値があるんじゃないかと思わせる一作でした。

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