日本上空いらっしゃいませ

日本上空いらっしゃいませ (HJ文庫 (さ02-01-01))
日本上空いらっしゃいませ (HJ文庫 (さ02-01-01))佐々原史緒  タスクオーナ

ホビージャパン 2007-11-01
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ストーリー

少年はかつてその将来を嘱望されていた。400M走の日本記録を叩き出した過去を持っていた。
しかし、今は完全に走る事を止めてしまい、ただの一人の若者になっている。そこには幾つかの理由があったのだけど・・・。
少年の名前は峰岸光(みねぎしひかる)。その「幾つかの理由」によって普通の高校を卒業出来なくなった彼は、高校卒業資格を入手すべく、別の学校で勉強を続けていた。このまま行けば、彼の人生はそれなりに平凡に終ったはずである。
しかし、そうは問屋が下ろさなかった! ある日突然日本上空に現れた浮き島——彼らは自らを「上つ國」と名乗った。そして堂々の宣言をおっぱじめた。

『我らに侵略の意思なし。繰り返す、我らに侵略の意思なし!』

『我らは次元をさすらう種族、万世の流浪の民。魔法と秩序の大國である』

日本の上に突如として現れた謎の浮遊都市。そしてそこを治めるのは・・・女王「スズキ・イチロー」であった・・・。
ただし、峰岸光少年にとって、この「上つ國」の出現は腰砕けの大本営発表では終らなかった! 彼の元にまさしく「降ってきた」ある一人の少女がいたからである。彼女は自分を「上つ國」の王女と名乗り、そしてさらには自分の名前を「ミネギシ・ヒカル」と名乗ったのだった・・・。
突然空から少女が降ってくるというある種の王道を踏襲したファンタジーラノベの、多分1巻。

お笑い感溢れる設定がグー!

とにかく「上つ國」に関する設定が笑える。

  • 「上つ國」は浮遊大陸である。多くの人が某ラピュタを想像するであろう。私の場合はイースだったりする。
  • 「上つ國」は結構適当な感じで魔法が使える。人が空とかを普通に飛んだりする。
  • 「上つ國」は定期的に次元を移動してしまう。これは止めようがないらしい。
  • 「上つ國」は移動先の民と上手くやっていくために、予め移動先の風土/習慣などに付いて調べ、それに自らをあわせる。名前とかも変える。
  • 「上つ國」は移動先の事を知るために、『貴糸の姫君』という優秀な魔法使いを育て、その者に移動先の物を取り寄せさせる。
  • 「貴糸の姫君」の引き寄せる物体はランダム。なんか色々。そのため移動先に付いての学習は偏る可能性大。

などなどです。

で、

今回の『貴糸の姫君』はまさしくミネギシ・ヒカルであって、彼女が引き寄せたのはスポーツ新聞であった。そのため、スポーツ新聞から取った名前が女王初め「上つ國」の重臣連中に蔓延しているという事態に発展したのである。
性別やらイメージやらを完全に無視した名前が炸裂しているため、ニヨニヨとした笑いが止まらない感じ?
ちなみにヒカル王女のお付きの護衛騎士(見事なまでに女性)は峰岸光少年から「ゴン子」とあだ名を付けられた。某サッカー選手と関係があるのは言うまでもない。

キャラクターは

「上つ國」の人達はとにかく「カッとんでいる」という印象です。
名前が脱力系なのに加え、妙に緊張感の欠けた性格のキャラクターが目白押しのために、ダジャレを聞かされているような感じとでも言えばいいのか・・・うーむ、なんとなく「読むと脳細胞が少し死滅する系」とか「今まで使っていなかった部分の脳を使わねばならん系」とか、そんな印象かな。

「ああ、どうしましょう! 憧れの勇者様とこうしてお会いできるなんて!」

自分の名前の元になった人間を「勇者」とするのが風習らしい・・・。

「その姫様が、なんで予備校の学食なんかに湧いて出るんだよ。平安装束着込んで、屋根突き破って」
「この服は、少しでも光様に親しみを持っていただこうとおもってまとってみました」
「いや、親しめないから。十二単の実物見るのなんか初めてだから」
「それと、こちらの世界では、殿方と恋に落ちる異世界の女というものは、空から降ってくるのが様式美であると聞き及びましたので」
「よ、様式美……」

・・・その様式美を真っ向から否定出来ない自分が悲しいというか。

主人公は?

ライトノベルとしてはなんとなく珍しいというか、萌え系の作品にあるような鈍感系ではなく、結構恵まれた感じの「愛され系」として生きてきたであろう描写があちこちに散見されますねえ。

「けど、光様はかなり酔ってらっしゃいましたし。し、正体をなくしてとかそいういうことは、その」
「アホか。確かによってたけど、そういうことがあったかなかったかぐらい、起きたときの体調とかで判るだろうが」
「そ、そうですか。そういうものなのですか」
ぱぁっとヒカル子の表情が明るくなる。
が。
「……そういうことが判るということが判るということは、どういうことなのでしょう?」

嫉妬心全開。
まあ、分かる人だけ分かれという投げっぱなしトークではあるな!

ストレートな青春ものかな?

うん、捻くれた印象のない直球ど真ん中という作品ですね。
反抗とか、反体制とか、中二病気質とかをあまり感じない・・・いや無い訳ではないのだけど、オタク的捻曲がり時空を感じない爽やかさがあるというか・・・青春時代にこんな主人公が身近にいたら「ケッ! ペッ!」とかまでは行かないまでも「モテめ・・・!」とか思っていたであろう感じではある。周囲を固めるキャラクターも基本的に陰鬱な空気を感じない作りなので、そういった意味では安心してご利用頂けます。

総合

続きが出たら間違いなく買う。でも星3つ。
えー!? という印象を持たれるかも知れないけれども、なんとなく喰い足りないという感じなんですね。
つまらないとかは無い、むしろ面白いんですが、なんというか私の青春も別に春まっさかりでもないというか基本的に暗黒時代の方が長かったので、基本的にルサンチマンが無いと燃えきれないというか、あるいは若者特有のアナキズムみたいなものとか、大人社会への反抗/反骨精神みたいな物が見え隠れした感じとか、強大な相手に立ち向かう無謀さとかが無いと没入しきれない感じがあるんですね。
いや、そうした要素が無い訳ではないのだけど、もう一押し欲しい・・・しかし基本コメディだしなあ・・・難しいバランスを要求しているとは思いますが、なんといいますか「とらドラ!」的な情熱爆発をもう一つ感じさせて欲しい・・・といえば伝わりますかね?
もうこれは単純に読み手の私個人の問題なので、基本的に美味しく召し上がれる作品ではないかと思ったりします。それに続刊がでるとしたら、恐らく色々大変な事が待っていそうなので、その辺りも期待出来そうです。
イラストはタスクオーナ氏ですね。カラーページ、白黒ともに一定のクオリティを・・・というかぶっちゃけ結構好き。
もう一つよかったのはシリーズタイトル「日本上空いらっしゃいませ」のフォントまわり含めたデザインかな? なんかイイ。