レヴィアタンの恋人(2)

レヴィアタンの恋人 2 (2) (ガガガ文庫 い 2-2) (ガガガ文庫 い 2-2)
レヴィアタンの恋人 2 (2) (ガガガ文庫 い 2-2) (ガガガ文庫 い 2-2)赤星 健次

小学館 2007-12-18
売り上げランキング : 53872


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

2077年、現代文明が一つの破滅的なウイルスによって跡形も無く破壊されたあとが物語の舞台。
そんな世界においても人間達はしたたかに生き残っていた。ウイルスによって激変した生態系を自分の体や社会構造そのものに取り込みながら増えつつある人類は、小さな共同体があちこちに乱立する「群雄割拠」の時代になっていた。
ストーリーの中心にあるのは過去・調布と呼ばれた場所。ここで暮らす久坂ユーキ。彼女は「特進種」と呼ばれるウイルスによって超進化を遂げた人類の一人。そしてもう一人はタマと名付けられた若者。
彼らにまとわりつく過去、現在、そして未来を案じさせながら綴られる近未来ストーリーの2巻です。

いやーよかった

続きが出なかったらどうしようと思った訳ですが、どうやら3巻も出る事が確定しているようなので取りあえず一安心という感じですね。
1巻で大枠の世界観やら人物関係が語られていますので、この2巻は幼い頃のユーキの「虎の穴時代」を描いたパートと、現在のユーキを取り巻く環境を描いた作りになっています。その辺りの時間軸を行ったり来たりする作りは1巻と同じですが、キレイに書き分けられていて混乱する事が無いのは好印象ですね。
ユーキがかつて「簒奪王」と呼ばれた霧崎キリヒトの片腕であった澁澤美歌子に見出されて、そして鍛えられたという事がこの2巻で明らかになります。この辺りの展開はどうやら今後の伏線として機能しているようですね。

「わたしを憎め。殺しに来い」

これは澁澤美歌子がユーキに言い放った言葉なのですが・・・どうも一筋縄ではいかないキャラクターとして書かれるようですね。

で、現在のユーキですが

妹みたいに可愛がっている声を出せない娘・リオと同居している所は変わりませんが、そこにタマがしょっちゅう転がり込んできて、なんだか奇妙な身内感というか、友人関係というか、不思議な関係を作っています。
恋人か? と問われたら二人そろって否定するであろうけれども、どうもそうは見えないという・・・微妙な距離感。

「ところで久坂さん」
「はい?」
「タマさんとは既に、婚前交渉はお済みですか?」
どごっ。
鈍く重い音が風呂場に響き、ユーキは壁に打ちつけた側頭部の痛みと共に、ぶくぶくぶく……と泡を吹きつつ風呂釜の底へ沈んでいった。

実は今回新たに出てくるキャラクターで羽染静(はぞめしずか)という19歳の特進種の女性が出てくるのですが、このキャラクターの冷静さと天然性が実に良いのです。何故かいつも微妙なタイミングで出てくる所が良いですね。
で、この風呂場での一件のあと、ユーキがタマに向かって怒る訳ですが・・・照れ50%、腹立ち50%の複雑な心境だったりします。

「お前のせいでっ! 子供がっ! こなれた演技でお芝居っ!!」
「へ?」
「お前がそんなだからっ! ぶくぶくとかぶえーとかっ! お芝居とかっ!」
「だからお前、なに食ったんだよー。なに言ってっかわかんねーよー」
「へらへらするな馬鹿っ! しゃんとしてろっ!」
「うるせー馬鹿。おなら女。うんこ女」
「小学生かお前はっ! 品のないことを言うなっ!」

うーん、ウブで可愛い。

タマはといえば

大体において上の引用部分のようにいい加減極まりなく、下品に生きていまして。ユーキをからかっては、

「生理とか言うなああああああああああああああああっ!!」
「やめろゲフッ! 死ゲフぬやめゲフろゲフッ!」
「訂正しろおおおおお!!」
「やめろやめろやめろマジで死ぬ〜〜〜」

こんな感じです。しかし時々彼の過去の経験が冷徹とも言えるこの世界の真理について語らせたりします。

「それならはじめから負けることなんか考えるな。負けたら終りなんだよ。負けたら全部、敵に奪われるんだ。リオも、町の連中も、お前の命もへそくりも、この町が持ってるもの全部なにもかも根こそぎぶんどられる。だから負けたら絶対に駄目なんだ。大事なものを失いたくないなら勝つしかないんだ。相手を全員くそみそにぶっ殺して、二度と立ちあがれないくらい踏みにじるしかないんだ。軽く踏みつけたら反撃されるけど、徹底的に踏みつければ反撃はない。自分の持ち物を奪われたくないなら相手のものを奪え。大事な人を殺されたくないなら相手を皆殺しにしろ。それがルールだ。どこまでも単純で、どこまでも情け容赦ないルールだ。そのことを自覚してなきゃ、戦には勝てないんだ」

長々と引用しましたが・・・今の時代にも立派に通じる部分があるのが、良いような、悪いような・・・。

今回

別の土地の連中ときな臭くなってきた関係で、ユーキにある危機が訪れてしまうのですが、その辺りは上手い事描写してくれます。
もちろんその危機に真っ先に駆けつけるのはタマなんですが・・・その結果としてちょっと良い事というか・・・お色気というか・・・そんな感じの展開があったりもします。

見上げるユーキの目線と、タマの目が合った。
洞の外からの月明かりが、お互いを蒼く染めていた。
ユーキは微笑んだ。
そして、そっとタマの胸に頭を預ける。
「タマぁ。タマぁ」
名前を口の中で転がしながら、彼の胸へ頬をすりつける。

オヤオヤ? これは、どうなってしまうんでしょうね!?

総合

うん、がっつりと面白いので星4つ。
今回は戦闘行動が殆どないので、血塗れシーンはほとんどと言っていい程ありませんのでグロ指数が大幅減ですが、キャラクター描写が全体的に優れいているので安心して物語世界に入り込めます。
また3巻の販売が決まっている事もあるせいか、伏線や種を蒔くといった印象の強い2巻となっていますが、それでもちゃんとそれぞれに見せ場が用意してあって面白いですね。うん、間違いなく3巻も読む。
今後も性暴力系鬱展開がない限りは読もうかな〜と思ったりします。そういうの私は苦手ですからねえ・・・。
イラストは赤星健次氏です。キャラクター描写は悪くないのですが、相変わらず近未来世界に関する描写が全くと言っていい程ないのでちょっと失望しています。もうちょっと周囲の風景に付いて描こうとか考えて欲しいなあ・・・絵師のせいとは言い難いのかもしれませんが、何とかして欲しい所。「もったいない」×3位にはもったいない。何考えてんだかなあ・・・。