夜想譚グリモアリス3 魔女よ蜜なき天火に眠れ

ストーリー

桃原グループのトップに立つ事を約束されながらも妹と二人の慎ましい暮らしをする少年・桃原誓護(ももはらせいご)の元へ、またしてもアコニットが現れた。
彼女は異界において姫と呼ばれる立場でありながら、同時に教誨師グリモアリス)——異界から現れ、人に裁かれなかった罪人を裁く役目を負った者達——でもある。彼女が誓護の前に姿を現すということはすなわち・・・。
誓護やアコニット達の思惑はともかく、アコニットと共に確かに危機は訪れたのだった。しかもその危機とは、アコニットの暗殺。異界の権力闘争と陰謀を持ち込んだまま人間の世界に来てしまったアコニットに、周到に用意された罠が迫る。果たして誓護はこの危機を乗り越える事が出来るのか。
断片化された過去から現在の秘密を暴く、ちょっとミステリー仕立てのファンタジー作品の3巻です。

アコニット、現る

もちろん通常の場合は教誨師として人間の世界を訪れる彼女ですが・・・今回は物語の時間がバレンタインデー側という設定なので、ちょっと違います。

「この近くにお菓子の工場があるんでしょう? お城みたいな……」
「姫乃杜製菓の? うん、あるよ。よく知ってるね」
「そこで<お菓子の家>とかいう、いかにも人間が考えつきそうな、おばかで愚かしい遊びをやっているそうね?」
「ああ、そんな話を聞いたっけ。バレンタインのイベントがどうとか」
「その<お菓子の家>とやらで、その日その場所でしか手に入らない、特別なトリュフが売りに出されるんですってね?」
「へー、そうなんだ」
「一体どのくらい愚かしい趣向なのかしら? 少しなら、私も興味が——」
「よーし完成! ほーら、いのりも味見してみる〜?」
「…………」
「ぎゃああああああ!?」

鈍い誓護に怒りの電撃。
つまり・・・お菓子に釣られてお忍びでやって来てしまったという訳で・・・なんとも緊張感に欠けますが・・・。
結局彼らは<お菓子の家>とやらにいく事になり、そしてその上に張り巡らされた罠にかかってしまう事になります。

誓護のシスコンは悪化の一途

「誰か保護者を見繕え。そいつに妹を任せれば、二人きりになれるだろ」
「気を使ってくれてありがとう。でも別に」
「グダグダ言うな! いつまでも妹べったりでは、永遠に非モテだぞ!」
「嘘!? 永遠に!?」
「まったく……バレンタインだというのにコブつきで出かける阿呆がいようとは……」

相変わらずのダメ兄っぷりですが・・・そういう所が好きなんだな、結構。
ちなみにその上の会話シーンでは妹の祈祝と一緒にバレンタインチョコを作っていたシーンでもあります。一緒に作る、その理由とは「妹に悪い虫がついたらすぐに分かるから」とかいう理由だったりします。もうこの兄ちゃんはかなりダメだな。うん、ダメだ。でもそれが良いんだけどな!
しかし今回はその祈祝が攫われてしまい、さらにはアコニットもとある理由から戦力外に。誓護は閉鎖された状況で孤軍奮闘する事になります。

異界の勢力争い

今後のポイントになりそうですので、簡単にまとめておきます。

  • 三つの都を支配する銀髪の貴公子。ブレッドレア家の当主ストリクノス。
  • 四つの都を支配する紫と金の髪を持った淑女。ロードデンドロン家の当主アザレア。(通称「蘭躑躅『らんつつじ』の君」)
  • 一つの都を支配する金髪の淑女。アロカシア家のアロカシア。
  • 和装に身を包んだ黒髪の娘。ロビニア家の針槐(はりえんじゅ)。(通称「荊『いばら』の君」)
  • 小国ソムニフェルムの第二王子オピウム。
  • かつて麗王六花の筆頭であったが没落の一途をだどるアネモネのアコニット。(通称「花鳥頭『はなうず』の君」)

このような勢力図が異界には存在します。彼らは互いに微妙な関係を保ちながら現在の勢力を維持しており、一つ均衡が破れると危うい状態です。特に王座が空位アネモネの立場は名前に付いて回る権威と実力が大きく乖離している状態です。
そのような中、2巻にも登場した鈴蘭を仲間に引き入れるべく暗躍する(クララ)という危険な人物も登場し、アコニットの周囲は非常にきな臭い状況になっています。

それとは別に

敵対勢力の他にもアコニットの味方になった者も新たに登場します。
2巻で登場した軋軋(ギシギシ)はアコニットに衛士として召し抱えられており、それなり(?)の忠誠心をもってアコニットを守る立場として登場します。横暴というか直ぐに電撃を飛ばすアコニットに呆れているようではありますが・・・。
さらには色々な意味でアコニットのライバルになりかねない謎の少女・リヤナも登場してきます。どこら辺がライバルかというと・・・。

リヤナは「ふふふ」と楽しそうに笑って、それからこう言った。
「私、誓護が好きよ」

・・・どうもかなり本気らしいです。

総合

星4つ。十分に面白い。
ミステリというよりはミステリ要素のあるアクションファンタジーブコメというもうなんだか分からない分野に突入している感じがありますが、基本的に誓護君が持ち前の推理力と勇気をもって敵と対決するという話で間違いありません。
しかも本作からアネモネ家の没落の原因になり、アコニットと鈴蘭の間の確執を生んだ原因ではないかという謎人物もちらほらと姿を見せ始めていまして、実に目が離せません。もちろんシスコン誓護とツンツンアコニットの恋の行方も気になりますが・・・リヤナはちゃんとライバルになってくれるのだろうか? 今後に期待ですね。
イラストは松竜氏です。特に動きのある絵を描く訳ではないですが、表紙のイラストは魅惑的ですね。二人で何をやっているんだと問いつめたくなるというか・・・。

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