ドラゴンキラー売ります

ドラゴンキラー売ります (C・NovelsFantasia う 2-3)
ドラゴンキラー売ります (C・NovelsFantasia う 2-3)海原 育人

中央公論新社 2007-12
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おすすめ平均 star
starもったいないキャラの使い方
star3が2より面白いのもやっぱりハリウッド
starドラゴンキラー最終巻!

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ストーリー

糞の掃き溜めが大量に巣食っている最悪の街・バロールで便利屋を構える兵隊崩れの男・ココは小悪党。とにかく(酒を)飲む、(人を)撃つ、(女と煙草を)買うのが日常生活で、口を開けば罵詈雑言の性格破綻者なのだが、変に情に弱いところのある極めつけの馬鹿である。
そんな彼の事務所には現在「ドラゴンキラー」と呼ばれる超人が2人所属している。竜の肉を食べる事で人間を超越した戦闘力をもつドラゴンキラーは通常は国家レベルで所有される程の一騎当千の強者だったが、なんの因果かココの事務所に転がり込んでいた。
その2人はリリィアイロンだ。彼女達はアルマという少女を溺愛しており、色々な訳ありの挙げ句ココと一緒にバロールで暮らしていたのだが、そのアルマに今回危機が訪れた。アルマは・・・それなりに身分のある生まれなのだが、それを政治の道具にするべく動き出した連中がいたためだ。そして送り込まれてくる更なるドラゴンキラー達。ココ達はこのピンチを乗り切る事が出来るか。
一応完結らしい3巻です。

なんか読んでいて安心

ココの野郎は本当にどうしようもなくクソッタレで、敬語と丁寧語とかの代わりに罵倒語を繰り出すような輩ですが、彼の言い分はその分人間味に溢れていて愉快だったりします。ちょっとココの台詞を抜き出してみます。

「この辺りに、ドラゴンキラーが居るって聞いたんだけど、間違いない?」
「ああ、間違いない」
「話したことある?」
「ああ、何度かな」
「どんな人?」
「どんな人っつったってな。馬鹿そうな女と、ストレス溜めてそうな女だ。どっちも友達にはなりたくない人種だな。馬鹿って人種は思い込みが激しいから強情ってのが相場だし、ストレス溜めてそうな女は爆発するのを待ってる爆弾だ。」

・・・国が涎を垂らす程欲しがるドラゴンキラーをこき下ろしこき下ろし・・・いやいっそ痛快ですらあります。しかしココ自身について酒場の親父・ラダーマンの言葉を借りると以下のような感じです。

「腕は上の下で、それなりにいい線行ってると思うんだがな、悲しいかな頭が絶望的に悪い。ジャンキーって話は聞かねえが、なに、大差ねえよ。すっかりいかれちまってる。コオロギとゴキブリの区別もついてねえ具合だ。趣味は草刈り、特技は生卵の一気飲みだ」

あながちハズレとも言い難いところが笑えますが、一番笑えるのはココとラダーマンの会話だったりします。あまりにも好きなので長文引用。

「災難だったなラダーマン。俺の見るところ、運が落ちてんだな。そういう日をよりよく過ごすためにゃ、人に奢るのが最良だ。悪い日がちょっとだけ悪い日になる。さあ大将、俺の胃袋の受け入れ態勢は万端万全。分ったらとっとと酒寄越せ」
「手前の宗教に誰が付き合うってんだ。運なんてのは、人生がつまんねえ奴の言い訳だろうが。盛りのついたメス猫の鳴き声のほうが、よっぽど上等だってことに気づけボケナス」
「宗教じゃねえよ。信条だ」
「似たようなもんじゃねえかよ。そんで、似てるってことは同じってことだ。だから俺が言うことは一つだ。間に合ってます、だよココ」
「だったら不細工な面を抽象画みたっくしてねえで、愛想笑いの一つも寄越せよ。客商売だろうが」
「余計なお世話だ。むかつく時にむかつく面しねえでいつするってんだ」
「そりゃ客のいねえところでに決まってる」
「は、なんだそりゃ。ここは俺の店だ。俺がルールなんだよ小僧。ついでに覚えとけ、感情を吐きださなくなった人間は土くれと同じだ。生きてるだけ無駄な糞だ。そこらの犬っころだって、むかつけば吠えるんだぜ。人間様がやっちゃいけねえ道理がどこにある」

二人して馬鹿極まっている感じが清々しいですね! まあ挨拶代わりのトークといった感じでしょうか。

そんでもって

その正反対のような性格をしたドラゴンキラーのリリィと、心優しくもタフな少女のアルマが物語を逆方向から引き締めてくれます。
まあアルマはまだ子供なので(将来が期待出来る子供ですが)なんとも未知数ですが、リリィはちょっともうなんというか・・・毒に中ったと言うか・・・。

「そういうことではない。金の心配などどうでもいいことだ。私が言いたいのは、その、あれだ、そう、責任だ」

さてさて? あのリリィがどのような局面でこの言葉を口にするかは是非読まれて確認して下さい。なんだかんだ言っていつも馬鹿を見ているのはまさしく馬鹿のココであって、リリィやアルマはちゃーんと美味しいところを持っていっています。
ココの頭痛が酷くなればなる程、ココの懐が寒くなればなる程、リリィやアルマが微笑みを浮かべる展開になり、そして読んでいる読者としては楽しいという変な本ですね。女性はどの世界でも強いって事でしょうか。

総合

うーん、美しい幕切れに星5つ。
正直彼らの活躍をもっと読みたいし、さらに話をどうにかして作ってくれないもんかと思いますが、あとがきで「一旦終了」と書いてありますから、今後も続きが書かれる可能性がある訳で、その辺りに期待をしながら新シリーズに想いを馳せたいと思います。
まさしくローリングストーン人生のココですが、最終的には・・・まあ満足なんですかね? いずれにしてもこんな楽しい小心者小悪党のストーリーは他にはないので、まだ読んでなければこの年末年始あたりに3冊一気読みをお薦めしちゃいますね。

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