鉄球姫エミリー第二幕 修道女エミリー

修道女エミリー―鉄球姫エミリー第二幕 (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-2)
修道女エミリー―鉄球姫エミリー第二幕 (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-2)八薙 玉造

集英社 2007-12
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おすすめ平均 star
star悪口といい女度は衰えず
star下品なお姫様

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ストーリー

輝鉄」と呼ばれる鉱物がある。この鉱石は人の感情に合わせて通常では信じられない程の力を与える事を可能とする鉱石だ。
そしてこの「輝鉄」を文様として鎧に組み込む事によって、鎧に「生身の状態より素早く身体を動かせるようになる俊敏さ」を与えたり「鉄塊を振り回すだけの豪腕」を与えたり、「視覚や聴覚などの全ての感覚の鋭さ」を与えたりする事が出来るようになる。そうした鎧・大甲冑を着込んだ騎士を重騎士と呼ぶ。
王女でありながら大甲冑を装着し、鉄球を振り回すエミリーは「鉄球姫」と呼ばれた。しかも根性悪、尊大、傲慢、そして下品でもある。
既にエミリーは辺境に追いやられた身ではあったが、王位継承権争いに巻き込まれた結果、大切な忠臣と呼べる者達を一度に多く失ってしまう。そんなエミリーは後悔と共に自らの態度を改め、かつてマティアスに薦められた通りに修道院に入る事になる。しかし、権力闘争はエミリーを見逃してはくれなかった・・・。
血だるまファンタジー作品の第二弾。相変わらずネタバレ全開なんで注意して読んでね〜。

1巻を読んでいる人に

改めて説明する必要があるかどうかは疑問ですが、この話は基本的に「笑顔の裏には嘘がある」がキーワードの血だるまファンタジーです。
優しい真実など何一つ無く、抉られ、潰され、千切られ、もぎ取られる人の命と強者の論理が徹底して描かれます。そこに容赦の二文字はありません。それぞれが生き残るために奪い合い、しのぎを削る・・・そこに一切の正義はありません。その辺りに注意して読んでください。
そして、その法則は不文律となってこの2巻でも貫かれています。

うーん

個人的には「まあそうだと思っていたけどあんまりだ」という印象ですね。
1巻において生死不明になっていた人とかもいましたが、容赦なく結論が出たりします。なんというか一体なんなんだ!? と言いたくなるような展開ですね。確かに順当と言えば順当なんですが、そこを裏切らない辺りがこのシリーズの良さであり悪さであると言えるんじゃないでしょうか。
1巻で退場したキャラクターの替わりに、今回は新キャラとしてノーフォーク公爵家の三男がエミリーの護衛騎士として配属される事になります。

ここで

「おや?」と思った人は良くできました。
1巻において「亡霊騎士」と呼ばれる暗殺部隊を送り込んで、エミリーの家臣達を容赦なく殺し尽くしたのがノーフォーク公爵家だからですね。
ただし、今回護衛騎士の任を受ける若者・グレンはその辺りの背景を一切知らず、エミリーに憧れる(実体を知らずに)基本的に実直な若者です。結果としてその無知さがエミリーの逆鱗に触れたりする訳ですが・・・。

「色々な意味で貧相な小倅。貴様如きは妾には必要ない。帰って、父親に伝えろ。『話を聞く耳は持たぬのですね? さすが阿呆ですね』と妾が言っていたとな」
「な……。え?」

ビックリするグレンですが、そら裏を知っていれば罵倒されても不思議ではありませんな。
ところで個人的にはこのグレン、好きになれませんでしたね。徹底して情を排しているのがこのシリーズの一つの魅力だと思っているのですが、グレンはそれを捨てきれているキャラクターではありません。そしてその情を捨てないまま話が進む所が気に入りませんでした。

ところで

エミリーは修道院に入っても性格は相変わらずですが、やはり前作での喪失を踏まえて成長しています。
性格は相変わらずですが、

「い、院長! そ、そこは!」
「小さい! しかし、感じられる! 修道服の下にある女の証! むしろ、修道服の上からという一種の背徳感が妾を加速させる! どこか遠くへ! 何か出るのか? 出るのか?」

・・・相変わらずのセクハラ三昧ですね。
しかし、人として二周り程一気に成長しました。

「ここは妾の修道院だ。ここにいる連中は妾のものだ」
自分のために誰かが死ぬのが我慢ならなかった。ここまでの毒殺と違い、万が一、亡霊騎士自身が直截的な暗殺行為に出たなら、この修道院にいる者は皆殺しにされる。修道女たちに思い入れなどはない。ただ、エミリーがここに来た時に存在したというだけの者たちだ。
「奪わせん。二度と、妾の前では誰一人として」
それでも、見知った顔がもの言わぬ屍と化すことは許せない。

傲慢かつ尊大なのは相変わらずですが、そこにはかつて無かったものが生まれており、そのために彼女は「戦える者」としての力を惜しみなく振るう事になります。

総合

うーん、星3つ、だなあ・・・。
相変わらずのお下劣かつシリアスな展開は見所であるのは間違いないのですが、個人的に夢が無さ過ぎて好きになれないんですよね。
読み終わって楽しい気持ちになれないというか・・・そういうリアリズムを私個人がライトノベルに求めていないという所があるんでしょうね。キャラクターの作りも良いし、話の展開も安定して読ませるし、ストーリーを描くための視点も良いのですが、肝心の物語そのものが好きになれないという所ですかね。
良くも悪くも人は世の中の激流に飲まれるしか無いという所がどーもね・・・。唯一流れに竿立てて遡るかのように頑張れそうな人材が主人公のエミリーだけというのが悲しいです。今後グレンがそういう位置に付く可能性もありますが、それはそれで一巻の某若い騎士とかが余りにも浮かばれないというか・・・。
イラストは瀬之本久史氏ですね。うんうん、全体的に良い仕事をしているのではないかな〜なんて思います。口絵カラーの丁寧な作りは特に好印象ですね。

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