MAMA

MAMA (電撃文庫 こ 10-2)
MAMA (電撃文庫 こ 10-2)紅玉 いづき

メディアワークス 2008-02-10
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ヤバそうだって、思った。
たかが数百円の本の感想で、しかもネット上に同じ作品の感想が山程溢れるに違いなくて、しかも書いても一銭にもならない。
そんな殆ど捨てるようなものを一つを書くのにいちいち気を引き締めなくちゃならないなんて……正直にいって、イヤです。
しかも気を引き締めたってそんなもの所詮自分にしか分からなくて……その挙げ句の果てに何か報われるのかって言ったら、まあなんとか食べたものを消化出来たかな、っていう曖昧な満足感くらいのもの。
でも、読んでしまったら……書かないと駄目になってしまう。自分が、駄目になる。書かないと、きっと、後悔する。
そんな事を本を読む前になんとなく思っていた。で、その予想は外れなかった。

この物語を読んでいると

夜の雫が集まって細波のように頭の中に押し寄せる。
その夜の雫は、永く、永く、たゆたって……そして深い海——人が生まれたところ——からやってくる人の中に連綿と受け継がれるもの。遥か昔から……命から命へ……人から人へ……。
一言で言えば簡単だけれども、それは口にした瞬間に陳腐になる一つの心の形。「それ」が物語を覆い尽くしていると言えばもう他に付け加える事は何も無いような気がする。
上手く「それ」を表現しようとしたらきっと、私の人生そのものを差し出さないといけないに違いない。それでも自分にはそんな能力がないので失敗するのは目に見えているのだけど、それでもそうしないと、きっと、呪われると思う。
何に? 誰に? ——もちろん自分自身に。

歪んでいようと真っ直ぐだろうと

この話をひたすら支配しているのは「それ」で、結局一歩もそこから出ない。きっと読者も出られない。
正直なところ作品としての完成度というか面白さという意味では前作の「ミミズクと夜の王」の方が良いんじゃないかと思う。でも、読者である私は前作と同様にこの作品に対してもやっぱり「勝てない」と思ってしまう。
女性特有のしたたかで、粘り強くて、深すぎる「それ」の前に、決して「MAMA」になる事が出来ない男の私は沈黙をもってその偉大さを讃える他無い。何かをしたり顔で適当に言えばきっと菜箸か薬缶か、酷けりゃ鍋の一つもキッチンから無言で飛んで来るだろう。頭でっかちで狙いやすい私は当然打ち倒される訳だね。

総合

相変わらず星は付けません。便宜的に5つ星にするけど、実際は付ける意味なんてないと思う。
少なくとも私って男はさ、女性に特有の「それ」を真っ直ぐに書かれたら絶対に抵抗は出来ないって思っているフシがあるんだな……。抵抗すればするだけ「それ」に飲み込まれる。海の深さに逆らうなんて馬鹿げてる。正直にいって弱虫な私はこの本を読みながらもう狼狽するしか無い。だって溺れると分かっている海に好んで出かける馬鹿がどこにいるって言うんだ。
こんな事を書きながら、ふと傍にいた妻に目を向けた。
今のところ自分が彼女にとっての一番の位置を占めているだろうと思っているけれど、でも彼女がもし幸運にも「MAMA」になったのなら、間違いなく私は彼女にとっての二番目になるのだろう。そして自分もきっとそれを「当然の事」として粛々と受け入れるに違いないだろう。
彼女が「MAMA」になったその時、子供のためになら、自らの血肉すら喜んで差し出すに違いないと思う。彼女の「子」になりようの無い私は絶対にそこまで辿り着けない。だから永遠の二番目になるのだろう。……でもきっとそんな風に変わった彼女を見たら、とても誇らしいと私は思うだろう。でも同時に、そんな深い深い「それ」が彼女の奥底にも眠っているのを想像すると、畏れにも似たものが背筋を這い上がった。

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