征服娘。

征服娘。 (集英社スーパーダッシュ文庫 (か12-1))
征服娘。 (集英社スーパーダッシュ文庫 (か12-1))神楽坂 淳

集英社 2008-01-25
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おすすめ平均 star
star相変わらずタイトルで損している気がするが、内容は損させない作品

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スーパーダッシュ文庫の面白い作品って気合いの入った女性の出てくるシリーズが多いような気がするけど、コレって気のせいか?

ストーリー

貴族の生まれ、貴族の育ち、そして貴族の立ち居振る舞いを身につけ、そして死ぬ時もおそらく貴族であろう一人の娘がいた。
その名をマリアという。彼女は貿易で栄える名門貴族の末の娘であったが、優れた頭脳と、信頼に足る友と、高いプライドと、自分の手で動かせる金と、そして人より遥かに大きな野心を持っていた。
この世界では貴族の女性は嫁いで子を成すものとしか見られていなかったのだが、マリアにはそれは馬鹿らしくも我慢ならない事だった。いつか自分が支配する側に——そんな思いを描きながら、雌伏の時を過ごしながら牙を研ぐ日々。
そしてそんなマリアに訪れた権力を手にするチャンス。まだ幼い少女のマリアが自分の命すら天秤にかけながら、最後に手にするのは栄光か、それとも死か。
一人の野心家の少女の企みを絢爛に描いた異色のライトノベル作品です。

変わり種ですが

面白いですね。取りあえず「娘」の後に「。」を付けるの止めませんか。某アイドルグループみたいに先細りになっても悲しいし。
とにかく中心に存在する主人公のマリアの造形が実に良いですね。

ぞくり、と。背筋が総毛立つ気配がした。
恐怖ではない。マリアの心を支配したのは快感であった。能力のない長兄に憎まれるという、その憎しみの視線を浴びた時になんとも言えない快感を感じたのである。

こういう娘です。まだまだ力が足りない所があるのですが、素質十分と言った所でしょうか。発想が人と違い、行動はさらに人と違います。マリアに献身的に仕える唯一の友と言えるアッシャとも、こんな会話をしています。

「誰かのために死ぬ。それは一番いい死にかただと思うわ。それがあなたのためならなおさらいいの。わかる?」
「わからない。私は誰かのためには死にたくない。私のために誰かを殺しても」
マリアはきっぱりと答える。

吹っ切れてますね。その吹っ切れ方は一種の異才と言っても良さそうですし、決して素晴らしいとも思いませんが酷く魅力的です。
その後に続くアッシャの発言もイカしてますね。

「それでいいのよ。マリア。でも、覚えていてね。世の中には、たった一人くらいは命をかける相手がいるものなの。そして、それが一人もいない人は……」
アッシャは言葉を区切って、ゆっくりと噛んで含めるように言った。
「死ぬか、支配者になるか、よ」

この二人の小さな運命共同体がこの後どうやって進んでいくのか興味津々ですね。

主人公のマリアが

魅力的なのはなにも優秀な野心家であるというだけではありません。
マリアは時として自分に足りないものを的確に捉えて、人の傾聴に足る言葉に耳を傾ける事が出来るからですね。
「くだらないと思ったもの」を堂々と「くだらない」と言うのはなかなか勇気(蛮勇でしょうけど。)のいる事ですが、マリアはそう行動出来ます。そして同時に「くだらない」=「その価値が分からない」と感じた自分を恥じる事が出来るという所でしょうか。さらにその上で「価値の分からないもの」を「分からないなりに」扱う勇気を持っている所です。

「ちったあ年齢に似合った顔になったじゃないか。あんたね、いくら能力があったって、早くから老けこんじまうとせっかくの美貌がだいなしだよ。どうせ、本来のあんたの年頃に楽しむようなことはなにもしてないんだろう?」
「そんなものは必要ないわ。くだらない」
「違うね。人生は、くだらないと思うことが一番大切だったりするのさ。そうじゃないと人の気持ちがわからない大人になっちまう。わかるか? あんたにジャンヌの気持はわからないだろ?」
痛いところをつかれて思わず黙りこんでしまう。

マリアは子供ですが、それでも馬鹿ではありません。高慢ですが、傲慢ではない。そんな娘です。
常に前を向いて何かを吸収し、何かを感じ取って、自分の進むべき方向を最良の方向へと向けようと努力し続けます。自分の結婚話すら上手く扱い、自分の野心を後押しする力に変えていこうとします。
まあその、間違ってもいわゆるラノベ的に可愛らしいタイプではありませんが、魅力的ですね。

総合

星3つ。
話の方向的に私の好みではないので星は3つという平均値という感じになってますが、次の話が出たら確実に買ってみようという気持になりました。不思議な気分ですね。フレンチ嫌いだけどこの料理は好き! みたいな感じ?
全体的に殺伐としていて、陰謀渦巻く(主人公が陰謀家ですし)作品は好きでは無いのですが、それでも次が読んでみたいです。2巻を同じレベルで書きあげてくれたら確実に星4つ行きそうですね。
とにかくマリアという主人公を含め、周りのキャラクター(特に女性陣)が良いです。しかも誰一人として「萌えない」のですが、それでも面白い・・・というかだからこそ面白いのかも知れませんね。
とにかく読んでみる価値は多いにあるんじゃないでしょうか。ピッタリはまれば最高に楽しい作品の可能性がありますよ?

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