モーフィアスの教室(2)
モーフィアスの教室 2 (2) (電撃文庫 み 6-21) | |
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ストーリー
両親を共に既に亡くしている高校生・岸杜直人の日常はある日を境に悪夢と隣り合わせになってしまった。それは彼の生まれと、自分の犯した過去の罪によるもの。
彼は「扉の民」と呼ばれる夢と現実の間に立つ一族の一人であり、そして彼の幼馴染みの少女・久世綾乃は夢の世界の住人であった。そして彼——扉の民——を付けねらう「赤い目」と呼ばれる謎の存在が身近に存在する事も彼らは知る事になる。
「赤い目」の連れてきた一つの悪夢は「ヨミジ」と呼ばれ、彼の学校のクラスメイトを巻き込みながら凄惨な悪夢を現実にもたらした。直人は一つの悪夢・「ヨミジ」を辛くも撃退するものの、結果として幾つかの取り返しのつかない現実だけが残った。
しかし一息つく間も与えず、再び悪夢の世界が現実を浸食する気配が漂い出す・・・。それに対処すべく動き出す直人と綾乃。彼らの動きを不審がるクラスメイトの倉野棗。そして綾乃に対して苛立ちをつのらせる直人の妹の水穂。
凄惨な現実と、空虚な夢、僅かな希望のある現実、希望の枯渇した夢の世界を描いたファンタジー作品の2作目です。
・・・暗い
一言で言えばこうなりますかねぇ・・・。
つまらないという事はないんですが、なにぶん暗い。まあ扱っているテーマが悪夢ですからどう考えても幸せ一杯夢一杯とはなりっこ無いんですけどね。
でもなんとなくシリアスというよりは「暗い」が形容する言葉として相応しいという感じがします。場面の全てに雨が降っている感じとでも言えばいいでしょうか。
まあ
その理由には、主人公達が基本的になんの超人的な力も持たない普通っぽい学生だというのがある訳ですが。
直人は公にできない秘密を抱えた若者ですし、それはヒロインの綾乃も同じです。ですのでこの現実にまではみ出して襲い来る「悪夢」と戦うには夢の中はもちろん、この現実でもなんとも力不足という感じでしょうか。クラスメイトの棗に助けてもらってなんとか一人前という感じです。
しかも今回はその棗との間もちょっと微妙な感じになってしまいますし、直人と妹の水穂の関係もぎくしゃくすることになってしまいます。彼らの間を隔ててしまうもの。それは誰でも当たり前に持っている感情——だからこそやっかいな——嫉妬という感情です。
今回の敵は実は悪夢の世界から訪れる敵ではなく、この当たり前で根の深い感情ですね。主人公二人は若さ故にこうした感情のやり取りが実に拙いのですが・・・一部の大人の手助けもあってなんとか乗り切ろうとする感じです。
それにしても
現実的な要素が強く出たラノベですね。
確かに適当なご都合主義的で片づけられてしまう話よりナンボか好感が持てるのですが、全体的に血なまぐさい展開が待っていますので読む人を選びそうなのが心配です。
また、キャラクターの作り方もナチュラルな仕上がりになっている所がありまして(多少はラノベ的に常識はずれですが)、分かりやすいセリフや類型的な発言とかは極力排されているという感じです。
「……それで、どの部屋を使えばいいのかしら」
綾乃はそう言いながら、直人の肩越しに廊下の奥を覗き込む。
「なんの話?」
「いやだわ。だから住むのよ。今から」
・・・まあいきなり主人公とヒロインが同棲モードに突入しますけど、この位はこのシリーズでは十分に許容範囲内ですかね。少し位は物語に血の色以外の潤いを与えてくれないとラノベじゃなくなりそうな感じですから。
まあ、その辺りも好みが分かれそうに思いますが個人的には嫌いじゃないです。
総合
星3つかなあ。でも敢えて付け加えるとすれば「次も買う」星3つです。
なんというかどろどろ青春ドラマと言う感じです。好意。疑心暗鬼。羨望。嫉妬。愛情。恋慕。後悔。贖罪。・・・色んな感情がごちゃ混ぜになって何とも言えないマーブル模様を描き出しています。
別にトリックとかミスリードとかが無くても、この「感情」というどんな値が代入されるか一歩先の未来では分からない不確定要素があるおかげで、妙な緊張感に満ちている作品ですね。次の3巻が一体どうなってしまうのか、それもさっぱり分かりません。そこがこの本の魅力とも言えそうですが。
イラストは椎名優氏です。表紙の綾乃は実はオビを外すと形の良いお尻がナイスな感じで書き込まれていまして、尻フェチとしては良い仕事しましたね〜と言っておきましょう。カラーイラストも良かったですね。