サーベイランスマニュアル

サーベイランスマニュアル (GA文庫)

サーベイランスマニュアル (GA文庫)

ストーリー

山咲亮輔は一人暮らしで大学に通う学生。早いうちに父と母を亡くし、親戚に引き取られて育った。
そんな彼が密かに想いを寄せていた義理の姉・朝緋からある時連絡が入る。「わたし、結婚するの」と。正直陰ながら恋しく思っていた姉の突然の結婚話に驚愕と、失望を隠せない亮輔だったが、姉のたっての頼みで結婚相手と会う事になった。
姉の幸せを願う一方で、密かに沸き上がる嫉妬の念を抑えつけながら家を出た亮輔だったが、その出来事が彼の運命を大きく動かす事になる。街角で偶然であってはいけない存在——野生の虎——との遭遇を切っ掛けに、次々と亮輔の前で詳らかにされる隠された事実。
政府によってその存在を隠された新型ウィルス・レックスによって生じた存在に人は晒されていたのだった。そしてそれに巻き込まれていく亮輔の日常・・・。
ある日を境に生き方そのものが変わってしまう事になる若者の姿と、病に犯された人達の悲劇と僅かな希望を描いた青春作品です。

オヤオヤ?

これは当たりでしたね!
ライトノベルの主人公の年齢設定としては比較的珍しい部類に入る「大学生」という立場の若者・亮輔が主人公ですが、これが結構成功しているような気がします。流石に大学生ともなると子供とは言い難いだけあってある程度ムチャな事はしなくなっている関係で、ひねてはいるもののどこか落ち着きのあるごく当たり前の若者として主人公が書かれています。
スーパーマンでもなければ無能でもない。勇敢ではないけど根性無しでもない。好奇心旺盛ではないけど無関心でもない。目の前で起こった非日常には即座に対応が出来ないけど、それにも少しづつ慣れていく・・・という微妙なさじ加減がいいですね。

それでも

ライトノベルらしい所は十分にありまして、ヒロイン(?)ではないかと思われる少女・(ねい)がとても可愛らしいです。
その小さな子供のような外見とは裏腹に、落ち着きを感じさせる振る舞い。しかし時として僅かに顔を見せる子供じみた行動・・・微妙なアンバランスさにちょっとクラッっと来ました。何しろ寧の決め台詞は、

「ほんとうに、かわいそう」

です。
面と向かって小さな少女にこんな事言われたら、私なら自分の余りの情けなさに泣いてしまいそうですが、まあ確かに「ほんとうに、かわいそう」なんだから仕方がないですね。

さらには

寧と対比されるように登場する大男・(ともえ)がいい味を出しています。
不遜で傲慢で口が悪く気が利かない・・・ように見える彼ですが、実は非常に思慮深い人物だったりします。まあその・・・第一印象は最悪ですが。
とにかく彼ら二人に導かれるようにして亮輔は今までは想像もしなかった世界に足を踏み入れる事になります。

この作品中で

主人公の亮輔はずっとと言って良い程自分の存在価値と意味と無力さを痛感し続ける事になり、その度に彼は自分を責める事になりますが、じゃあ彼は役立たずで出来の悪い若者なのかというと・・・いやいや、私個人の感想としては「非常に優秀」という印象ですね。
想像を絶する世界に情報不足のまま放り込まれたにも関わらず、彼はその実直で真面目な人柄をもってして(若者らしく少しは腐りますけど)僅かな逡巡を見せるだけで歩き続けます。時には自分以外の弱者を励ましすらします。
うん、この状況で俺ならパニクって逃げ出すな・・・と素直に認められたので良い感じでしたね。見所のある若者を見るのは楽しいもんです。

総合

星4つ。続きが出る事も予定されているようですので期待して待つ事にします。いや〜続きが楽しみなシリースが新たに出てくるって嬉しいですねえ・・・。
タイトルに「サーベイランスマニュアル」とある通り、「サーベイランス」と名付けられた役割が一体どう言うものなのか、亮輔に期待される能力とは一体何なのか、という辺りが丁寧に語られます。一般的に「サーベイランス」と言えば、悪いところを見逃さないように監視する事を指します。で、この話には「ウィルス」というものも出てくる訳ですから、そうなると当然想像する事は「感染者の監視」という事になりそうですが、事はそれほど単純ではありません。その辺りが見所、ですかね。

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