地を駆ける虹(3)
地を駆ける虹3 (MF文庫 J な 3-3) | |
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ストーリー
憧れだけを胸に抱いたまま愚痴ばかり。そんな青春時代のツケを身をもって払う事になった少年・ネイブ。
大事なものを自分の手で全て無くした後に、その事に気がつく事の繰り返し。後悔に次ぐ後悔・・・しかしその痛みが少年を少しづつ成長させる。かつての自分の罪を背負い、かつての自分のような人間が滅んで行く様を見つつ、そして優しくも厳しい仲間に支えられながら戦場を歩いて行くネイブ。
今回彼は戦士団を抜けようとします。それは「エレメントの発動を無効化する何か」があるという情報を手に入れたため、戦士団と別行動を取りたくなったからですが、そう簡単に戦士団は出たり入ったりできるものでもなく・・・。
足踏みと躊躇をするネイブと関係ないところで状況は動き続け、ネイブの所属する薔薇輝石戦士団は、同じ戦士団ながら離反した別の戦士団・海王石戦士団と対決を余儀なくされることに。
そんな中、敵戦士団との接触をした際にネイブの仲間であるエルザが突然火がついた様に行動を始めてしまう。その動機も何も分からず戸惑うネイブ。強気のエルザにも隠された過去があり、その過去がエルザに追いついてきたのだった・・・。
痛々しい少年であるネイブを中心に語られるファンタジー作品ですが・・・?
おやおや?
ちょっと前にまいじゃー推進委員会!さんのところで感想をチラ見したんですが、そこで
なんかこう……すごく、普通です。
って書いてありました。
えー? あのサイアクでヘタレのネイブを主人公にした物語が「普通」ってそらないでしょー? とか思ってたんですが・・・いや、確かに結構な感じで普通でした。普通というかあんまり痛くないというか、青春の醜さが足りないというか、ああもっと俺の古傷を掻きむしるような展開は無いの? とか思ったくらいです。
というか、ダメどころか結構立派になった所を見せつけてくれます。
いつからだろう。こんなに融通が利かなくなってしまったのは。思ってもないことは、もう口にできない。
昔は違った。息をするように嘘をつくことができた。でも、もうできない。もう嘘はつけないんだ。不便だな。だから、こう言うしかなかった。
「わからない」
この思考に至る過程と、導き出した言葉そのものが彼の内面の成長を端的に表していますし、引用こそしませんがこれに続けて発せられる彼の一言は「見事」と言って良いものですね。
・・・まあ主人公が過酷な現実と戦ってきた結果という事なんでしょうけど、成長しなければしないで苛立つもんですから、これは当たり前の展開なんでしょうね。
今回は
主人公のネイブくんは結構頑張っているというか痛いところが少なくて、他のキャラクターが痛い所担当・・・かと思いきや、それもあんまり無いですね。
敵役の野郎は最悪極まりないですが、それを除けば結構な感じで普通のファンタジー作品となっています。エルザも今回暴走こそしますが、それなりの訳あってという事で違和感もありませんでしたし・・・うーむ。
強いて言えば
今回、ビトーというどうしようもないダメ男が出てくるのですが、コイツが結構痛い奴です。
『ねえねえ、名前なんての?』
動揺した。
おかげで、言いそびれてしまった。
『オレ、ビトーっていうんだ』
言ったら、どうなっていたのだろう。
考えるだけで、それだけで、ほら、心が弾んでいる。
ひょっとして。
ひょっとして、『ビトー』って、呼んでくれたのかな。
あー、ダメだ、ダメ過ぎる。
モテない男が女の子に初めて声をかけられた時のような反応です。こうした卑屈さって時として誰も幸せにしませんねぇ・・・。まあ「分かっちゃいるけど止められない」という所なんでしょうが、この手のダメさ加減を書かせたらこの作者は見事ですなあ。
総合
3ですかね? 普通に楽しめた、という所でしょうか。
この作品特有の痛々しさは1巻とかと比べると4割減という感じで、グッと手に取りやすくなっています。それどころか、1巻を「痛い」と感じた人こそネイブの成長を喜べるんじゃないかとも思いますし(あるいは嫉妬するのか?)、強烈な拒絶反応が無ければ1巻でギブアップした人も読んでみる価値があるかも知れません。
変な話ですけど「痛いキャラ探し」をしながら読んでいる自分に気がつきまして、ひょっとして自分ちょっとマゾっ気でもあるんかいな・・・とか思ってしまいました。