銀色ふわり

銀色ふわり (電撃文庫 あ 13-23)
銀色ふわり (電撃文庫 あ 13-23)有沢 まみず

アスキー・メディアワークス 2008-07-10
売り上げランキング : 253

おすすめ平均 star
star認識の話。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

僕はその日、町中で一人の少女を見かけた。
銀色の髪をして、美しく、儚げで、まるで淡雪のような少女。僕は、彼女を見つけた。そして、彼女も僕を見つけた。それが——物語の始まり。
”僕”の暮らすこの時代、世界全体で出生率の低下が叫ばれていた。このまま出生率が下がり続ければ遠くない未来に人類は斜陽の時を迎えるであろう、いやもう既に斜陽を迎えているのだと言われていた。
そしてその現実と平行するようにして”黄昏の子供たち”と呼ばれる特殊な存在が世界に現れつつあった。彼らは「普通の人からは直接認識することが出来ない」という特徴を持つ。そして、”僕”が街で見かけた少女は、そんな”黄昏の子供たち”と呼ばれる子供のうちの一人だった・・・。
この話は、少年・安住春道が、少女・エスタデーと出会うことで始まる不思議な物語。優しくて、悲しくて、それでも希望のある物語。

どうしても

読んだその日に感想を書かなければならないと思う本がたまにあって、これはそのうちの一冊という事になりますかね。読了は、さっき。明日も早いのだけどこれはもう書かないと明日はやってこない・・・という気持ちでタイプしています。
書かないとこの風花のような思いはきっと夏の日差しの前に一瞬にして消えてしまうに違いないからですが。

この話の

登場人物達は特に個性的という印象は受けません。主人公の春道も、ヒロインとなるイエスタデーも。
でもその二人は心の奥底で強く抱え持っている”想い”があって、それが匂いとなって読者である私の中に染みこんできます。
読んでいる今は夏なのに、雪景色の匂いを運んでくるこの話は・・・折角だから冷房でもキンキンに利かせた部屋の中で読んであげて欲しいです。でないと彼らの中にある淡くて儚い想いは読者の心にたどり着く前に大気に溶けてしまいそうです。
その匂いとは・・・孤独の匂い。
夜の底で膝を抱えるその時に感じる匂い。祭りの終わりのその時に漂う匂い。途切れそうなラジオの声に耳を澄ませている時の匂い。雑踏の中で一人立ち止まったときの匂い。微かな囁き・・・。

その匂いは

多分、誰でも一度は感じたことのある匂いじゃないでしょうか。
本来自分の側に居るはずの人がいない・・・その人一人分の孤独。空白。空虚。 ・・・言葉は何でも良いです。その「無」に対して感じる形容の使用のない寂しさ。それをこの登場人物二人は等しく持っています。
春道はその育った環境の特殊さによって。
エスタデーはその体質の特殊さによって。
でもそんな彼らを見ていてイライラする人も中にはいるのかも知れません。自分で前に進めばいいじゃないか。自分から口に出せばいいじゃないか。自分から求めればいいじゃないか・・・。
もどかしくてつい手を出したくなる・・・そんな具合に感じる人もいるかも知れません。

でも

そんな人は自分の心を昔に返してください。そして自分がまだ子供だった時、黄昏時に一人公園から帰る時の気持ちを思い返して下さい。
家路を一人辿って・・・家の明かりが見えて・・・玄関の扉を開けて・・・夕食の匂いがしてきて・・・その時に感じるあの安心感を思い出してください。そして、それがもし——無かったとしたら、今の自分はどうなっていただろうと想像してみてください
あの時、あの昔、子供で無力だった自分が今、この本の中に残されているのです。あの時の、あの寂しさを抱えたまま。
これは、そういう本です。

総合

星5つですね。文句なしです。
多くは書きませんし、本編にはほとんど触れていない感想ですが許してください。
正直、この物語の構成や登場人物の心の説明には幾つか不明点というか・・・勢いに任せて書いた結果の説明不足というか言葉足らずな部分があるように思いますが、読み進めるにつれてその不足は埋まっていき、最後にはちゃんと心の中に結晶してくれると思います。
でももし・・・この話を読んだ結果感じるものが何も無かったとしても、それは多分・・・その人にとって幸せなことです。それはきっとその読者の心の器がいつも何かで満たされていたという事の証明でしょうから。
この話はまだ続く余地も残っているようですし、続きが書かれるような事があとがきにもありましたが、ここで終わっても別に不満はないですね。ちょっと余韻があるくらいでちょうど良いかもしれません。
それから、僕はとても自分勝手な言葉を登場人物達に贈りたいと思います。本当に自分勝手で、やりきれない気持ちになりますが、これ以外に僕は彼らに語る言葉を持ち合わせていません。少なくとも、現時点では。

頑張れ。

強く強く、そう願います。あの時の”僕たち”よ、頑張れ、と。

感想リンク