Kaguya 〜月のウサギと銀の箱船〜

Kaguya—月のウサギの銀の箱舟 (電撃文庫 か 14-4)
Kaguya—月のウサギの銀の箱舟 (電撃文庫 か 14-4)鴨志田 一

アスキー・メディアワークス 2008-04
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おすすめ平均 star
starKaguyaってそういうことか。
starこういう話なのね

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ストーリー

その日、高校生の真田宗太は道ばたに座り込む一人の少女を発見した。
素肌に真っ白なシーツを巻き付けただけの銀髪の少女。どう考えても訳ありとしか思えない少女だったのだが、宗太はお人好しのせいでその少女を保護することにする。
少女の名前は立花ひなたといった。全盲の少女だったが、彼女はその身に秘められた力を持っていた。それはアルテミスコードと呼ばれる力・・・ひなたは重力を自在に操ることが出来るのだ。
かくいう宗太もアルテミスコードの持ち主だった。しかしその力は弱く、自分の視覚を他の人間に送り込めるというもの。しかし全盲のひなたとは相性がよい・・・結果、宗太とひなたが秘密裏に所属していた「公安特課」すら巻き込んで二人は一緒に暮らすことになる・・・。
超能力に振り回される少年少女を描いた異能ライトノベルの1巻です。

見せ方が下手!

これにつきますかねぇ・・・。
ムーンチャイルドとか、アルテミスコードといった「ちょっとくさい」名前の付いた設定が説明もなく先に散りばめられる関係で、序盤は読んでいてついて行きづらかったですね。
特にアルテミスコードに関する説明が序盤は殆どされずに、中盤以降で出てくるのでそれまでは読者がその方面でほったらかしにされてしまうのが苦しいです。
出会いに関する流れもご都合主義が多すぎてちょっと苦笑してしまうというか・・・。そんな感じでした。

実はこの話

第三章に入ってからが実際の話の始まりとも言えます。
そこまでが非常にスロースタートの印象・・・というかやっぱり見せ方が下手じゃないかなと思います。
1、2章と3章では全く違う話になってしまうくらいには印象が違うんですね。1、2章が日常⇔超能力の軋轢系の話だとしたら、3章以降は事件もの・・・敢えて言えば火曜サスペンスノリです。そのサスペンスの間にちょっとお色気とかそんな感じです。
いずれにしても後半は完全に火サスになってしまうので、だったら序盤からにもう少し話の全体の雰囲気を匂わせる挿話みたいなものを入れておけばいいのに〜とか思いました。

あと

現実描写に色々と違和感を感じるシーンが多かったですね。
後半で殺人事件が起きるんですが、それの犯行予告がテレビでいきなり公開されるとか・・・変じゃない? 報道協定とは言わないだろうけど、こういった犯行予告じみたものについては情報規制とかあるのが当たり前だろうし・・・普通そういった重大な情報は伏せられるのが当たり前で・・・。流石に違和感があったりして。
他にも、

「属するメンバーがあかされていないのは、公安特課の存在自体が、機密性が高いものであるためだ」

なんて描写があるんだけど・・・って嘘じゃろ? 余計な情報が末端までだだ漏れじゃん。
末端の人間が自分の一存と思える状況で自分の所属を明かしていたりするし・・・しかも公安関係者の人間とクラスメイトが一緒にいるところを学校で*1目撃されちゃったりする*2ような組織に、まともな機密性も何もあったもんではない・・・と思ったのは私だけかなあ?
それに、宗太達がどこまで警察権力(公安特課)と結びついているかといったところも不透明なまま話が進むので、途中で不思議な気持ちになります。
宗太達が一般公開されていない容疑者確保の状況を知っているとか・・・。そういうものはいくら力があるとはいえ子供には公開されないのが普通ではないかと思ったりするのだけど。

さらに

ぶった切ります。
この話で気に入らないところが幾つかありまして、例えば上記のような無駄な情報は出しているのに必要な情報を出さず、指示も出さない公安特課という上層部のやり方が非常に不可解なところです。
中盤でひなたと宗太では日常の密度に差があったことがわかるのだけれども・・・これは上の責任だと思う。現場レベルの話じゃなくて、上が無能というか、宗太の保護者かつ上司の黒田の監督不行届です!

「立花ひなたはいつもお前を見てた。目なんて見えなくても、ちゃんとお前を見ていた。なのに、お前はなにをやってたんだ」

仕事の一環としてひなたを宗太に預けたのであれば、その程度の観察指示は予め上司が指示しておくのが当たり前です!
しかし本編では、

「相互理解を深めるための共同生活だから」

としか言っていません。それでは指示範囲が曖昧すぎてさっぱりです。
例えば友人になれなのか、バディ(あるいは相方?)と呼べるまで信頼関係を築けなのか、あるいは・・・恋人同士まで行ってしまえなのか・・・全くわかりませんね。
そんな状況でしたから、宗太が以下のように答えるのは当たり前です。

「詮索しない方がいいとは思いました……だって、色々あっただろうことは、なんとなく想像がつきましたから」

ね? 当たり前です。詳細な指示もなく年頃の娘と放り出されているんだから・・・。
まあ・・・「報告・連絡・相談」のよく身についた結構出来る社会人なら「どうしたらいいのか?」といった詳細な指示を自ら上に仰いだ可能性がありますが、宗太はご存じの通りまだ子供です。

例えばですけど?

過去に何かを背負っていて、超常的な力を持ち、そこから逃れてきたであろう少女。
その少女を保護する立場になった時、全く事前に情報が無ければ人はどうするか? おそらく、慎重に相手との距離を詰めようとするのは当たり前の反応だと思われます。対人能力が優れた人物ならなおさらいきなり相手の懐に踏み込もうなどとは思わないでしょう。
しかし、宗太はその微妙な時期を上手く乗り切りました。「ひなたの人間性」という最重要な情報を伏せられた「完全な放任」と言える状況で全盲の少女の世話をし、それでもひなたの世話を止めずに上手くやっていたのです。
ひなたに信頼される関係を築いた宗太は、その人間力を褒められるべきであっても非難される謂われは全くないですね

しかし

そんな宗太に黒田はこう言います。

「聞かないことがやさしさのことも当然ある。けど、聞いてやることがやさしさのときもあるってことだ」

え〜、当たり前の事ですが・・・。
もしそういった精神面での欲求がひなたにあることを知っていたのであれば、その情報をやはり初期段階でいちばん近くにいることになる宗太に提示した上で、世話をするようにという指示を出すべきです! お願いでなく仕事であるならなおさら
それについて宗太が責任を感じたりしているのだけど・・・これは明らかに宗太の責任じゃない。黒田が放任かつ無責任であると言うことですね。こいつ、本物のバカなんじゃねえの? という疑惑がムクムクと頭をもたげました。

さらには

挙げ句の果てに、

「お前まで、俺たちと同じ汚い大人にはなってほしくないな」
「身勝手な言い分ですね」
「ああ、そうだよ。だが、今のお前は俺たち以下だ」

こんなことを口走りやがりますこの黒田は。このバカは宗太を最低だと切って捨てますが・・・違います。

  1. 必要な情報を与えず、余計な情報ばかりを与え、
  2. どのようにすればよいのかを経験不足な部下に指示ぜず、
  3. 部下が経験不足であることを分かっていながら現場に出して、部下がミスをしたら部下の責任にし、
  4. その上開き直って「とにかく失敗したお前は俺以下だ」と言ってのける・・・。

断言しよう。
最低最悪の上司をキャラクターにしたらこの黒田になった・・・といって間違いない。ここまで仕事において無能かつ無責任で傲慢な人間はそういない。・・・よく恥ずかしげもなくこんな言葉を口に出せるなあ・・・この黒田ってサイアクのバカは。
このシーンは本来、黒田が部下である宗太とひなたの無事をただ喜ぶべき局面です。
・・・もし将来*3こういうタイプが会社で上に付いたら会社を変えることを検討した方が良いですねぇ・・・。

総合

ぎりぎりの星3つ・・・いや2つにしました。
上で色々言っていますが、最初の方の宗太とひなたのボケボケなやりとりや、動物園の一幕は非常に愉快で楽しめました。学校でのシーンとかも楽しかったですね。これはひなたのキャラクターとか宗太とかのキャラクターがちゃんと立っていると思うからです。つまり、作品の一部を「点」で見た場合には非常に光るものがあるようにも思うんですね。
しかし「線」で見るととたんに微妙になります。特に日常と非日常が交差するシーンになるとかなりその楽しさが怪しくなります。細かい設定とか描写とかも余りにもツッコミどころが多すぎる感じですね。
星は2つにしましたが・・・一応現在2巻が出ているようですし、確か評判もそこそこ良かったような・・・? と記憶していますので、その辺りを楽しみにしつつ2巻を読んで見ようかな? なんて思います。

*1:主人公にとは言え

*2:誰が公安関係者か、主人公には直ぐ想像が付きますよねこれ?

*3:あるいは現在?