ミスマルカ興国物語(2)
ミスマルカ興国物語 II (角川文庫—角川スニーカー文庫) | |
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ストーリー
中原に存在する歴史ある国、ミスマルカ。国そのものは豊かで穏やかなものの、南と北に大国を持ったミスマルカは微妙な位置に存在する国だった。
そんなミスマルカの現在の王子はマヒロ。現王も元気に活躍中なので、国政において王子に特に出番はなかったのだったが、それを良いことに・・・と言うか、もう性格的な問題のせいか、極めて役立たずな王子なのであった。
しかし、実はその王子マヒロはかなりの切れ者。一見無能で馬鹿に見えるがその頭の中では非暴力の精神が充ち満ちており、常に自分以外の者の命を脅かす事態を避けようとする事を考えていた。
そして現在、帝国の侵攻を一時的に食い止めたミスマルカ王国は「伝説の聖魔杯」を探しだし、これを用いる新たな一手を打とうとしていた。それにかり出されたのは王子のマヒロ。聖魔杯の探索に名乗りを上げる勇者の面々に対してマヒロのとった行動とは・・・?
残念ながら2巻にして「合わないなあ……」と思ってしまいましたです。
いやあ
思想的に合わないですねこの作者とは。
コメディパートでは笑わせてもらったりするんですけど、それ以外のあっちこっちで押しつけがましい程の「暴力への蔑み」と、暴力を蔑む余りに歪められた結果としてのご都合主義的な展開が目につきますね。
1巻の時にマヒロがやった事は一種「奇策」という事でおもしろおかしく読んでいられたんですけど、この2巻は完全なる「ただの暴走」という風に感じましたしね・・・。
この話は
マヒロの「暴力を蔑む姿勢」を一番引き立たせるための物語を作ろうとしている感じがもの凄くするのです。
そのため、周囲に存在している「暴力を振るう人間」が「暴力を憎む」マヒロに殆どついて行けないように書かれています。その結果周囲のキャラクターが必要以上に無能に書かれているという感じがしますね。
「三十六もの計を弄したところで、逃げるに勝る一手はないそうです。翻ってこれは、無益な争いを避け、後の上策に繋げよという意味だと言います。僕はこの言葉を信じます」
いや、そうかも知れませんけどねえ・・・それで逃げられちゃうんだから周りが余りにも無能すぎですねえ・・・。
でも
違和感が増したのは物語が後半に入ってからですね。
次から次へとマヒロにとって都合の良い展開が起こる。魚心あれば水心とばかりに待ち構えているんですよね。
帝国が攻め込んできた理由が”何故かマヒロにとって都合の良い内容”であることが明らかになる下りとか・・・あるいは、帝国の上の人間が”何故かマヒロの説得に都合良くやり込められる展開が待っていたり”とか・・・悪いけど失笑してしまいました。
この辺りになると物語を読んでいると言うより、作者・林トモアキによって書かれた都合の良い思想書みたいに感じてきてしまいました。
そして
決定的に感じたのはラスト付近のマヒロのこの辺りのセリフですね。
「……言葉を以て話し合うことと、暴力をして傷つけ合うことと。どちらがより理性的で、人間的な活動でしょうか?」
「話し合い」
ユリカの出したごく当たり前な答えに、マヒロが素直に首肯した。
「そうです。傷つけ合うことなら犬猫にもできる。ならば僕は、それを行う者を人だなんて思いません。それは……」
笑った。
「ただの馬鹿でしょう?」
「……」
「傷つけ合うだけなら犬猫でも出来るというのに、戦犯であれ、英雄であれ、そんな人より劣ったケダモノたちだけが歴史上に祭り上げられていくのです。人が、人の姿をした猿や、犬猫や、虫けらの下で飼われ、領土を奪い合うことで、まるで餌を奪い合うようにそうした生態の真似事をさせられる。ならば戦争が始まるということは、世界がそうしたケモノたちによって動き出すことに他ならない」
いや暴力を嫌う気持ちは分からんでも無いですが、ここまで「他者を害すること」を憎めば、口を開くどころか文字すら書けませんよ。
・・・「ペンは剣よりも強し」といいます。僕は何かを書いているときこの言葉を時々思い出します。そして時々
「剣の方がペンよりマシなんじゃないか?」
という思いにとらわれます。
何故なら、剣は向けて傷つける相手を選ぶことも出来ますし、時と場合によっては手加減すら出来ますが、現代において言葉は一度発したが最後どこに向かって飛んでいって、誰を傷つけ、どんな被害を生み出すか分からないミサイルと変わらないからです。
話し合いと暴力・・・どちらがより理性的かは別ですが、どちらがより上等なのかなんて分からないと私は思っています。どちらも等しく扱い方によるからです。
言葉を発する者も、暴力を振るう者も等しく愚かで罪人です。そもそも犬猫や虫けらより人間が上等な生き物などと誰が断言できるんでしょうかね?
「正しく清らかに生きたければ口をつぐんでひたすら生きよ」じゃないかと私は思います。
総合
星2つですな。
なにしろ「暴力は人間未満の証」という主張の匂いが強すぎます。それは私の考えるところと全然違いますのでもうついて行けませんね。特に主人公のシリアスな主張に全く同意できないとなれば、評価はこんなものでしょう。
私も暴力は嫌いですがこの作者の主張程には否定しません。時に生きるために暴力を振るい、時に生きるために奪い、そして時に生きるために言葉を交わして、時に愛し合う・・・その全てが「人間であるために必要なもの」だと思っています。
暴力にせよ人間の生き方にせよ、極端な憎悪による排斥の向こうにあるのは——ただの選民思想です。暴力を振るう者をただ貶めるような主張を混ぜ込んだ作品を楽しむことは出来ませんね。それも一種の「言葉による暴力」ですから。
ま、実際にこの物語がどんな結論を紡ぐのかは分かりませんが、2冊も読めば上等でしょう。これ以上ついて行くつもりは無くなりました。以上!