ななてん。

ななてん。 (ファミ通文庫 (ふ3-2-1))
ななてん。 (ファミ通文庫 (ふ3-2-1))藤原健市  河原 恵

エンターブレイン 2008-08-30
売り上げランキング : 1876


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

私立高校天臨学園。なかなかに高い学業の水準と、僻地にあるが学費が安いことを理由に人気のある高校。そこに山吹灰史は通学していた。表向きは一般の生徒として。実際は——<A>(エー)と呼ばれる特殊な能力を持った特別な生徒として。
<A>とは極まれに現れる特殊な能力を持った人間の事であり、それぞれが全く異なる能力を持っている。灰史はまさしくその<A>の一人であり、その持っている能力は「限りなく完全な不死」というものだった・・・。
天臨学園はそんな特殊な力を持った<A>の受け皿としての顔を持っており、数名の<A>が実際に通学している裏の顔を持った学園だったが、学園の秘密はそれだけにとどまらなかった。
天臨——その名の示す通り、天臨学園は「天を臨む地」にある学園であり、超常的な力によって存在している人知を超えた学園でもあったのだ。<A>という謎の人類、天臨学園そのものの持つ謎、そして八尋の会という謎の組織・・・そうしたバランスの上に成り立つ物語世界は、一人の転校生を迎えることで動き始める。
蔵有珠美瑠アーデルハイト(くらうすみる)。一人のお嬢様が混ざることで起こるトラブルという化学反応が今、始まる。

予想に反して

とても濃いです。
表紙と口絵イラストから受ける印象は、

「ありがちな学園異能ブコメか・・・?」

という感じだったのですが、読んで見るとこれが結構印象が変わりますね。
上のストーリーでもちょっと触れていますが、何しろ意外な設定・・・というかはっちゃけた世界観の元で話が作られている関係のためです。
じゃあ学園異能ブコメじゃないのか? と言われれば「違う」と即答できるんです。つまりもっと簡単にぶっちゃけますと、

学園異能アクションラブコメ」+「学園そのものが異能」

という感じになってしまうんです。
<A>という特殊な力の事もそうですが、とにかく「天臨学園」そのものが充分に異能なんです。もうどのくらい異能かというと、校舎が変形して巨大ロボになって空を飛ぶとかそんな感じで異能です。
いやこれはたとえ話ですので実際に変形したりする訳ではないですけどね。

ただ

その辺りは上手いこと扱っていまして、<A>意外は「学園そのものが異能」という事実に気がつかないという作りになっています。
つまり一般の生徒にとって天臨学園は普通の進学校の一つである訳ですね。でも少数の<A>にとってはそうではない訳です。
で、その<A>の生徒達は誰も彼も変人揃いなのですが・・・まあ主人公である灰史くんは比較的常識人ですね。というか彼がまともでなかったらこの話、どこに行ってしまうのか誰にも分からなくなるに違いありません。

灰史くんは

どちらかと言えばお堅い正義感という感じですね。
古めかしくて・・・そうですね、騎士道精神みたいなものを持っていると感じさせる少年です。

「どいつもこいつも、今は授業中だぞ! 席に戻れ、席に!」

・・・別に委員長体質という訳ではありませんが、規律正しく、バランスのとれた正義感の持ち主ですかね。

で、蔵有珠美瑠ですが

偏ったお嬢様だけど悪人ではない・・・という困った人でしょうか。
国がひっくり返るほどの金持ちの家で大事に育てられた結果汚れを知らないので、悪気は無いけれども自分の信じる正しさを人に押しつけがちなところがある少女です。押しも強いですね。

「おじいさまは言いました。己の信じる正義のためならば、己の全てを賭けるべき、と」

なんだかガッチンガッチンに感じますがそれだけの少女ではなく、意外に柔軟なところや、少女らしい可愛いところもあったりします。

ですが、まあ・・・

本当にこの話、盛り込まれている要素が多いのでこの位の文字数ではぜんっぜん説明しきれません!
他の登場人物も結構魅力的ですし、起こる出来事もなかなかに刺激的なんですが、何せてんこ盛りです。「今日魚河岸で仕入れた魚全部をぶち込んだマジギレ海鮮丼特盛り」とか例えてもあながち間違いではないくらいに特盛りです。
そうですねえ・・・普通のライトノベルなら<A>という能力者の設定だけで話を作れると思いますが・・・それをしなかったところがこの本の魅力であり、欠点でもあります。
とにかく「特盛り」ですので、序盤、話の大筋がまだはっきりと分からないときはなんだかガチャガチャとした印象を受けます。しかし、そこを無事に乗り切り、一通りの要素が出切る中盤(!!)辺りまで読み進められれば、なかなかに楽しいという印象に変わるのではないでしょうか。

総合

星4つ付けておきます。
全体的に設定の多さ、登場人物の多さ、出来事の多さから読みづらく感じる所が多かったのも事実ですが、読み終わってみたらなかなかに面白かったという印象が勝ったからですね。まあ頑張っている感じがしましたのでサービス込みなところもありますが。
よく分からないけどゲームのメガテン系の「濃さ」を好きな人ならこの本も結構好きになれるかも知れないね〜・・・なんて思いつつここまで書き進めてきましたが、作者の著作リストに「ペルソナ3」とか書いてあって「さもありなん」とか思いましたね。
でも一つだけ「絶対マイナス」だと思ったのがタイトルですね。なんですか「ななてん。」って・・・。そのまま字をあてれば恐らく「七天」なのだと思いますが、それだと分からないから平仮名にしたって感じですかね?
でもねえ・・・作品の雰囲気と余りにも違いすぎるのでこれはダメだと思います。つーか表紙に書かれている通りに「SEVENTH HEAVEN(セブンスヘブン)」で良かったんじゃないかなあ? どー思います?