とらドラ9!

とらドラ!〈9〉 (電撃文庫)

とらドラ!〈9〉 (電撃文庫)

ストーリー

雪山の事件は過去となり、またいつもの日常が竜児たちに戻ってきていた。
でも、今までとは少しだけ違う急かされるような日々。それは冬の深まった時のこと。進路、将来、未来——そんな自分の先にある暗闇に想いを馳せなければならない時期がやってきたのだった。
しかし、あの衝撃的な大河の呟きを聞いてしまった竜児は、一歩も動き出せないままでいた。好きも嫌いも大切も心配も・・・心に沢山の荷物を抱え込んで、ただ立ちすくんでしまうような毎日。そんな日々は容赦なく彼らを押し流していって・・・。
・・・激動の雪山事件の後、変わり始めた彼らの姿を描いた物語は、やっぱり油断も隙もない——! 衝撃の9巻です。

ああ

もうなんと言えばいいのか分からなくなってきましたね。
この話の最初の頃こそラブコメというカテゴリーに入れて安心していられましたが、今回はそういう単純な分類は出来そうにありません。切ない、苦しい・・・いや、序盤から中盤にかけては侘びしいと言ってしまうか、あるいはやるせないと表現するしかない展開です。
もう少し・・・青春が彼らに優しく降りそそいでくれたら良かったのに。

竜児は胸を撫で下ろしながらも、医者の特有の言い回しや用語を聞いているうちに、鼻先に『あのにおい』が漂ってくるような気がしていた。柔らかい、老人や病人が食べられるように溶かしたぐずぐずの薄い茶色の食べ物に洗浄液が混ざったような、あのちょっと気持ちの悪くなるような生暖かい空気が、こんなところにまで追ってきたと竜児は思った。

私も、そのにおいを知っています。そのにおいを人が何と呼ぶのかも・・・知っています。

とにかく

今回竜児が新たに抱える苦しみは、確かに少年特有のものですが、同時に少年が抱え込むのは難しいものになり果てていきます。

大切ならば大切なほど、大切な奴に自分のためにはなにもさせたくない。だから痛みは見せられない。この心の中身をわかってほしくない。
わかりあえないことをつらいとばかり思っていた。わかりあえないこの世界で、それでもつながる術を見出して、それを喜びという糧にして生きていくのだと思っていた。わかってほしくない、なんていうことが、この世にあるとは知らなかった。

なんて、つらい。なんて、悲しい。若さ故の無力に怯え、若さ故の想いに潰れ、若さ故の無知に悲しむ。
・・・一体誰が、一体何が悪いのでしょう? 少しも上手くいきそうにない毎日の持つ重さに喘ぐ竜児の苦しさは読む人の胸を打つに違いありません。生活という「うすのろ」がいなければ——そう願うのはきっと誰も同じなのでしょうか。
機械仕掛けの神がどこかから降りてきて、何もかもを上手く収まるべき所に収めてくれないだろうか——? そんな気持ちを抱かずにはおれません。

そして

重すぎる荷物を前に竜児が途方に暮れる傍ら、

「——寂しくて寂しくて寂しくて、寂しくて。本当に、寂しくて、仕方がないよ」

誰かはその聡明さ故に身動きが取れなくなり、

「……わかった。じゃあ、……じゃあ、頑張る。もうちょっとなんとか、頑張ってみる」

誰かは暗闇からの必死の抵抗のように呟く。
もう、恋の歌を甘く歌う季節は通り過ぎてしまったのですね。舞台は今まさに冬。凍てついた空気の中に氷の刃を潜ませて、物語は深く深く潜っていきます・・・青春の、暗闇へと。

総合

星5つ・・・というか、もうなんと言えばいいのか分かりません。遂に言葉を失いそうです。
並び立つ竜と虎の前に立ちはだかったのはかつて無い強大な敵と言っていいであろう——現実。それが留まることを知らない時と共に、無情なまでの力で彼らの上を通り過ぎていきます。こうなったらもう、読者としては息を顰めて彼らを見守るほかありません。
でも・・・でも、それでも私は期待しています。きっと、きっと、きっと、駆けだした彼らの先に、自分が見ることが出来なかったあの地平を託してしまうのです。
それは間違いなく一方的で身勝手で・・・憎まれそうな想いなのですが・・・でも、その位の夢を見たって、いいでしょう?

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