幻想譚グリモアリス3 誓えその名が朽ちるまで

ストーリー

巨大企業の跡取りの立場を持ちながら、一人の妹と地味な生活を続ける少年・桃原誓護(ももはらせいご)は、今やただの学生ではなくなりつつあった。それは人の身では裁ききることの出来ない罪人を裁く役目を負った教誨師グリモアリス)と呼ばれる少女・アコニットの友としての立場が強くなってきたためである。
彼女は冥府に住まう人外の頂点に君臨する麗王六花の一人、花烏頭の君と呼ばれる身分を持つ娘だった。結果として誓護は、こればかりは何処でも変わらない冥府での勢力争いに巻き込まれていくことになる・・・。
そして遂に冥府の魔の手は誓護の大切な妹である祈祝(いのり)にまで伸びることになる。妹を連れ去られ、さらにはアコニットまでも冥府の敵対勢力に拉致された誓護は、魔力を退ける魔道書《アイギス》だけを手にその知恵を持って人のまま冥府へとその戦いの舞台を移すことになる。
異能ファンタジーの3巻です。緊張感がいや増しに増してます。

いきなり

ピンチな展開なのでビックリしたというかなんというか。
主人公の誓護ですが、今まではそこそこ笑えるエピソードなどが織り込まれていたりして息抜きらしい部分があったのですが、それが今回はありませんでしたね。2巻のオドラ戦からの連戦という形になっています。
しかも目に入れても痛くない程可愛がっている祈祝を誘拐されての戦いですから、大変でないはずがないというか、それに加えてアコニットまで囚われの身ですから、どっちを取れば良いんだ、というジレンマに誓護は陥ることになります。
しかしその辺りは流石というかなんというか、色々な味方を今までの作品で手にしていますので、なんとか精神を再建して戦いに赴くことになるのですが・・・いや、友人や協力者に恵まれましたねえ・・・誓護は。特にオドラやステラ、あるいは軋軋といった面子にフォローされて、なんとかやっているという感じでしょうか。

で、

ぶっちゃけ面白いのかどうなのか? ということで言えば面白いです。ちょっと難アリ・・・といえそうなのが世界観や設定の複雑さというところでして。
まず、グリモアリスという存在から始まって、入り組みまくった冥府の力関係、あるいは冥府の住人がそれぞれ持っている異能についてだとか、特殊なポジションについている閾界の住人であるステラ達の存在であるとか、あるいは祈祝を攫った潜在的な敵の勢力・・・などなどです。
とにかく智恵の戦いになるのが基本のスタンスなので、こうした設定をある程度理解しながら読まないと訳が分からなくなりますね。一応登場人物紹介などがついていたりはするんですが、実際のところ登場人物の多さを全くフォローしきれていないばかりか、新キャラも惜しげもなく投入するので記載漏れが普通にありますし、それに加えて各人の立場が複雑怪奇なので追いかけるのが大変です。
一巻からもう一度一気読みでもすれば読んでいてもう少しすっきりするのかも知れませんが・・・。

でも

それでも読ませてしまうのですからやっぱり面白いのでしょう。
複雑怪奇な設定はあるのでしょうが、見せるところは見せる、不要なところは適当に切る、その辺りの判断というか調整に関するバランス感覚が優れているという印象を受けます。
たまに設定に凝りすぎて物語そのものが振り回されてしまっているような作品があったりしますが、この話は設定の複雑さと物語の楽しさが良い塩梅で調整されているんじゃないでしょうか。気がつけば「次はどうなってしまうんだろう?」という気分でページを捲っているのです。う〜ん、こういうバランス感覚の本は実はあんまりないんじゃないでしょうかね・・・。

総合

星4つつきますね・・・。
複雑怪奇でオレオレ設定な所も多々あるのですが、それでも作品全体で見るとオリジナリティに溢れつつ読者を楽しませることを忘れていないという出来になっています。
今回の敵は「蘭躑躅(らんつつじ)の君」と呼ばれるアザレアという高貴な女性ということになりますが、それも一筋縄では行かない複雑な事情が絡んでいるわけでして、最後まで読むと「こういう展開になるのか! 確かにライトノベルかもしんない!」みたいな気分になるんじゃないかな〜とか思ったりします。うん、なんだかラノベだという事を忘れるようなところがあるというか・・・いや、本当に不思議な本ですねこのシリーズ。

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