時載りリンネ!(5)明日のスケッチ
- 作者: 清野静,古夏からす
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/07/01
- メディア: 文庫
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ストーリー
ぼくの隣の家には、普通の人とはちょっと変わった一家が住んでいる。でもぼくはその家に住んでいる一人の女の子と大の仲良しだ。女の子の名前はリンネ。
で、どこが変わっているかというと、リンネの家は「時載り」と呼ばれる一族で、普通の食べ物ではなく本を読むことが食事の代わりになる不思議な人たちなんだ。しかも「時載り」にはさらに不思議な所があって、本を読んで力を溜めると、ほんの僅かの間だけ時間を止めたりすることが出来るんだ。
これだけでも十分変わっているのだけど、リンネは最近時載りの中でもさらに特殊な「時砕き」という役目を負うことになったんだ。「時砕き」時載りの中でも7人しかなることが出来ない役目を負っている。奇しくもリンネはその大役を任されることになったのさ。
そんな大事な役目を負わされてリンネが可哀想? ・・・いや、リンネに限って言えばそんなことは絶対にないよ。何しろ毎日のようにドキドキワクワクすることを探しているような元気印の女の子なんだ。もちろん本人には秘密だけど、ぼくの自慢の友達だよ。
今回ここに書かれる物語は、リンネが偶然出会った素敵な父娘との楽しい日々と、時砕きの先輩である未到ハルナさんとの交流の時間だよ。で、これを書き記しているのはぼく、久高だ。
という訳で短編集を挟んでの久しぶりの長編ですね。読んでいながら感想を書くのが随分と遅れてしまいました。
やっぱり
読むこと自体が楽しい本ですね。言葉の音を追いかけているだけで心の中の淀みのようなものが北の冷たく済んだ風に吹き払われていくような気持ちがします。爽やかな空気に触れて自分まで透き通っていくような、そんな気持ちです。
ふと窓ごしに空を仰げば降りしきる雪はいっそう激しさをつのらせており、外気と室内の寒暖差によって生じた霜はまるで岩肌に浮いた塩のようにガラスの表面に歯を立て、冬枯れた楡の枝越しのぞける箕作邸の三角屋根を淡く滲ませている。
イメージを喚起させる言葉の羅列、その一つ一つの言葉の美しさと確かさがこの本をそれだけで楽しいものにしてくれています。・・・正直そのせいでちょっとだけライトノベルとしては取っつきにくいのですが、一度先まで読み進めてしまえばきっとこの作品の持つ魅力に取り付かれてしまうでしょう。
ところで
今回はリンネに幾つかの出来事が平行して起こることになります。
一つは偶然街で出会った時載りである鷹見父娘との触れあいですね。そこでリンネは「絵のモデルになる」という貴重な機会を得ると同時に、リンネを本当の姉のように慕うようになるしおりちゃんという少女と親睦を深めることになります。いつでも心の扉が夏に向かって開かれているリンネにとって、この出来事で心が弾まないはずがありません。
二つ目は遥かに先輩の時砕きである未到ハルナとの時砕きとしての訓練ですね。今までも時砕きとしてやってきたリンネですが、今回改めてハルナに稽古をつけてもらえることになります。期待半分、不安半分の出だしと言ったところでしょうか。
そして三つ目はリンネのお父さんを捜して諸国を巡っていた楠本南涯——久高のお爺さんですが——が、長い旅から帰ってくることです。久高のお爺さんですが、実のお爺さんのようにリンネが慕う相手です。
どの出来事もリンネの心を揺らして、それぞれ不思議な模様を描くように影響し合って、物語を織り上げていくことになります。
今回は
色々な謎が明らかにされると共に、同時に新しい謎が提示されることになります。そして新しい危険も。
「逸脱者」と呼ばれる時載りでありながらその力を悪用しようとする集団ですね。その集団は鷹見父娘にも、リンネの父である箕作剣介が行方知れずになっている理由にも、そしてハルナがリンネを鍛えようとする理由にも関わってくることになります。
この「逸脱者」というのがこのシリーズ通しての敵になることは明らかですね。リンネと久高はまだまだ子供なのですが、その勇気と知恵と力を振り絞り、リンネは新しい力を手に入れて敢然と敵に立ち向かっていきます。
今回のラスト付近は結構シリアスな展開なのですが、それでも決して重苦しくならないのはやはりリンネと久高とこの物語自体が持つ浄化力とでも言うべきものの結果でしょうかね。
総合
星・・・5つにしてしまおうかしらん。
一般的なライトノベルと比較した場合、ちょっと難読漢字が多かったりして、本を読み慣れていないとその雰囲気を掴みづらい所があるかも知れませんが、是非とも十代の少年少女に読んで欲しいですね。国語の勉強にもなると思いますし、なにより物語が素敵です。
あとちょっと気になったところと言えば・・・本文中で「つと」という言葉がかなり多用されていることでしょうか。こういうのって一回気になりだしてしまうとどこまでも気になってしまうんですよね・・・まあ、古風な文体それ自体がこの作品の持ち味といえば持ち味なので、あんまり考えないでおきましょうか。
古夏からす氏のイラストも本編との相性ばっちりだと思いますし、これからも末永く続けて欲しいシリーズですね。