薔薇のマリア(12)夜に乱雲花々乱れ

ストーリー

ルーシーという新たな仲間を迎えたクラン・ZOOだったが、そのルーシーによってもたらされた情報がZOOに激震をもたらす。
それはある一枚の写真から始まった。エルデンで新しく売り出し中のファッションブランドの宣伝用に撮られたその写真の一枚には、見覚えのある姿が写っていたのだった。
6の入れ墨。かつてトマトクンやクラン・法の番人たちの活躍によって、舞台から永遠に退場したはずの男。エルデンに暴虐の嵐を吹き荒れさせ、多くの人の心に消えない傷を刻みつけた男。それは——SIX。
ルーシーに指摘されるまでもなく、慌ただしく動き始めるZOOの面々。もちろんその騒動はZOOだけにとどまるわけもなく、クラン・昼飯時、クラン・法の番人などをも巻き込んで、一つの大きな流れとなっていく。エルデンに再び大きな嵐が巻き起こっていく・・・。
SIXの気配が表れたことによって俄然慌ただしくなるエルデンを舞台に、最新刊の物語が綴られます。

序盤はね・・・

コメディ要素や萌え要素なんかも沢山散りばめられていて、とにかく読んでいて楽しい本に仕上がっています。
何しろ訳あってとはいえ、マリアローズ、ユリカ、サフィニアという綺麗どころがファッションモデルとして写真に撮られちゃったりするシーンがあるくらいですから。しかも最初はイヤイヤ引き受けた面々ですが、写真を撮られていくうちに何かその快感に目覚めてしまったのか、段々と大変な事に・・・。

アニーはぷるっぷるした唇を舐めて撮影機を構えた。「——まずはぁー、マリアちゃん、ユリカちゃんの後ろにぃ……そっ、そこでぇー、両手でユリカちゃんをー、それそれ! いぃーよぉー、はいっ!」
「はっ……」マリアローズは我に返った。
ついアニーの指示どおりに動いてしまった。てゆうか、今のユリカを前にしたら——無理だよ。我慢できるわけないってば。何、この気持ち? すっごい、なんていうか、いとおしいんだけど。抱きしめたいんだけど。もっとぎゅっとしたいんだけど。

写真撮られるのって、気持ちいいんですかね・・・。人に聞いたところによると、気持ちいいらしいですけど。なんだか綺麗とか可愛いとか言われているうちに結構その気になっちゃうらしいですね。

でも中盤以降・・・

SIXの存在が浮かび上がってくるにつれて、和やかな空気はすっかりとなりを潜めてしまうことになります。
かつてSIXに大切なものを奪われた人々の憎悪の叫びが物語の中で激しく渦巻き始めるからです。法の番人のヨハン・サンライズ、羅叉。あるいは友人クラニィを奪われたアジアン、あるいは痛めつけられたベアトリーチェ・・・彼らのもがく姿が執拗に描かれていくことになります。
それは決して心地よい時間ではありません。誰も彼もがSIXの血を見たがっている状況の中で、力以外のものが全て無意味になっていくような感覚・・・それは残虐な血の臭いを過去から現在のものへと呼び寄せるのです。

そしてまたしても

奪われていく大切な者達、失われてはならない者達が新しい牙にかかって倒れていくことになります。

君を一度、この腕で抱けばよかった。

そうして死よりも残虐な暗闇へ進むことになる者が出てきます・・・正直、私はこの辺りの展開はある程度予想していても、それでも読み進めるのを辛く感じました。
そしてさらにそこから追い打ちをかけるようにして描かれる悪夢の一幕・・・。それは真実ある人物の夢であるのですが、あまりの痛々しさに目を逸らしたくなるようなものでした。
・・・どうしてこの作者はここまでキャラクターに対して残酷に振る舞えるのでしょうか。そして一体どれだけ奪えば気がすむのでしょうか。一体どれだけ憎悪をかき立てるのでしょうか。一体どれだけ呪いをまき散らすのでしょうか・・・私には正直理解できません。
この気持ちはこのシリーズの初期を読んだ時にも感じた気持ちです。痛い、痛すぎる・・・。読みたくなくなるくらいに、痛いです・・・。

総合

星4つかな・・・展開があまり痛くなければ5つにしたんですけどね・・・。
しかし筆がノリにのっているんじゃないかと感じる出来でしたね。最初から最後まで不規則に流動し続ける物語を、十文字青氏は見事に描ききっています。その点については高く評価したいところですね。
しかし、いよいよどこに進んでいくのか分からなくなってきました。あっちにもこっちにも不確定要素が詰め込まれている関係で、この先の展開を正確に予測することは誰にも出来ないのではないでしょうか。場合によっては、作者本人にさえも。
それは、それだけこの作品の中のキャラクターが「生きている」という事でもあります。その存在の生々しさは最近のライトノベルでは随一の出来だと個人的には思っています。

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