9S(10)true side

9S(ナインエス)〈10〉true side (電撃文庫)
9S(ナインエス)〈10〉true side (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-09-10
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star人類の危機

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ストーリー

海星事件以降も世界の動きは速い。しかしそんな中、中心人物の一人である峰島由宇はひきこもっていた。文字通りくさっていたのだ。
後悔することには事欠かない出来事を抱えた彼女の明晰な頭脳は、新たな火種を作るかも知れない自分と折り合いをつけることが出来なくなっていたのだ。しかし、そんな由宇の心をあざ笑うかのように峰島勇次郎の遺産が新たな事件を引き起こす。それは、遠くロシアの凍土で静かに進行していた。
ロシア当局からADEMに持ち込まれた一つの映像が奇怪な存在をとらえていた。ガラスのように透明な体、血管のようにその体を走る赤いライン、そして体の中央には輝く赤い球体・・・ロシアの奥地から送られたその映像には、この事態に警告を発する一人の謎の女性と一緒に、常識でははかりきれない奇怪な生物が映っていた。
無機物生命体。放置された峰島勇次郎の遺産の一つである「分子間力制御装置」の暴走が、数限りない試行錯誤の果てに地上に現存する生命とは全く異なる進化を辿り、一つの生命体として活動を開始していたのだった。そして、その生命体たちは凄まじい勢いで地上を蹂躙しつつあった・・・。
その事態に対して動き始めるADEM。そしてまたADEMとは全く関係ないところで坂上闘真も動き出していた。彼には由宇を救い出したいというどうしても果たさなければならない目的があったのだ。闘真は行動を共にしていたクレールを連れて、遠くロシアの地へと足を踏み入れる・・・。
久しぶりの新刊ですね。でも待たされただけの事はあるような気がします。

実は

この「9S」というシリーズは個人的に思い入れのある作品でして。
私は十代のころライトノベルを読みまくっていて、そして二十代に入るかはいらないかの辺りで一回読むのをスッパリ止めてしまっているんですが(お陰でその時期の本についてはほとんど知りません!)、それをまた引き戻してくれた作品の一つがこの「9S」だったのですね。
なんというか・・・私は朝日ソノラマからこの世界に入った口なんですが、そんな私からすると当時の(「スレイヤーズ!」とかが人気だったかな?)作品のノリについていけなかったというのがありまして、その頃の印象を最近まで引きずっていた事になります。
でも、なんとなく書店で手に取ってみたこの「9S」シリーズは、私の中に根付いていたライトノベルに対する偏見を拭い去ってくれるのに十分な作品でした。程よく散りばめられた謎、魅力的で人間くさいキャラクター、そしてSF的なアイテムの数々・・・読み始めたときどうにも胸のときめきが抑えきれなかった記憶がありますね。それだけこの作品を鮮烈に感じました。

という訳で

新作が出るのを楽しみに待っていたわけですが・・・うーん、刊行の間が開きすぎだよお・・・というのが正直な本音です。
まあ読んで見れば不満を払拭するだけの出来であるんですが(特に序盤の無機物生命体がただの物体から生命体として進化していく過程が書かれた辺りなんて読んでいてウキウキしました)、やっぱり刊行ペースが遅いのは痛いかなあ。
内容が内容ですから書き上げるのに時間がかかるのは十分に理解できるのですが、それでも「とうま」を変換すると「当麻」になってしまうというのが現状でして「闘真」にするのにワンクッション必要になってしまうというもどかしさがあります。
でも繰り返しますが魅力的な作品ではあります。また1巻から読み直そうかなあ・・・なんて思っています。

で、今作ですが

前巻までの事件が一区切りついたので、新章突入ということになっています。
上のストーリーでも触れた通りですが、今回は人間以外のものが敵の中心になりそうです。まあ実際の所は峰島勇次郎の遺産を我がものにしたいという人間の欲望やら政治的駆け引きなんかも当然含まれるわけでして、そうした水面下の綱引きでも相変わらず楽しませてくれます。
特に今回はクレールに関係した重要人物が登場することもあって、嫌が応にも色々な期待が膨らみます。そしていつのまにかクレールを手懐けている闘真も何気に上手くやっているなア・・・なんて思ったりしました。
それから今回は色々と訳あって「あの」すちゃらか人間・八代の活躍シーンが多かったり、何故かその八代と行動を共にすることになる「ある人物」が妙な関係を構築していて、色々と勘ぐりたくなる感じではあります。八代が羨ましいような、羨ましくないような・・・まあそういう相手ですね。このコンビがなかなか悪くないです。

総合

星4つかな。うん、この星は固いですかね。
他のライトノベルシリーズと比べると何気に難しい部分があるような気がするんですが(SF寄りな部分がありますし)、個人的には作者の説明が上手いこともあっていわゆる取っつきにくさというのはほとんど無いような気がします。それに理屈一辺倒ではなくてライトノベル的に不要な部分はきっちりとそぎ落としているという感じも受けますね。作者の自己満足に終わっていないと言えば伝わるでしょうか。
難しいものを難しくならないように分かりやすく書く、というのは出来そうで出来ない所ではないでしょうか。という訳で今後もこのシリーズは追いかけていくことになりそうです。なので次の話もなるべく早くお願いしたいところですね。
ただ一つ大変残念なのが、イラストレーターが山本ヤマト氏ではなくなってしまったことですね。この絵師のチェンジは何気に痛いですね・・・。新しい絵師は増田メグミ氏ですが、カラーイラストはなかなか良い感じなんですけど、本編内の白黒イラストで表現力がイマイチな気がします。特にキャラクターのかき分けが。うーむ、頑張って欲しいものです・・・。

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