リビングデッド・ファスナー・ロック2 バニシング・ツイン

ストーリー

その村では、呪いを受けた胎児は生誕を拒み、子宮で首を吊るという——。
そうした存在は「ハカナシ」と呼ばれた。その者たちは母体に「死」そのものを置き忘れてくるために、不老不死の存在として異常な生を受けてこの世に現れるのだ。そして物語の舞台となる綾咲市では、その昔より言い伝えられてきた「ハカナシ」が現実に存在する街であった。
そしてその「ハカナシ」の存在は、綾咲市で敏腕刑事としてならしていた御室咲弥の人生を一変させることになる。現実から一歩足を踏み出した、死を越えた異常が存在するこの世界の裏側へと足を踏み入れることになったからだ。真実を知った者として警察組織から離れることになった彼女は、「LA-BAS」という特殊な組織に所属することになった。
そこで御室は新たに「ハカナシ」が関与しているのではないかという殺人事件に遭遇する事になる——。
奇怪な設定がもたらす重苦しさが独特な雰囲気を醸し出している伝奇ノベルの第2弾です。

うーん・・・

全体的に良くできていると思うんですよね・・・でもパッとしない・・・というのが本音です。
正直力作と言ってしまってもいいような気がするんですが、何かスパイスの欠けた料理のようにシャッキリしませんね・・・というような事を1巻の時の感想に書いているんですが、今回はその理由についてもう少し考えてみようと思います。
で、色々考えた結果、おそらく「演出」が拙いんじゃないかという結論に到りました。台本は悪くない、役者も揃っている、舞台装置は大道具小道具含め良くできている、でも見せ方がまずい、というところでしょうか。
パーツだけ見れば魅力的なキャラクターが揃っていると思うんですが、その演技指導がなっていないので、登場するキャラクターの魅力を引き出し切れていないという感じですね。結果として感情移入もしにくかったです。

特に

それが顕著なのが主人公の一人である御室咲弥ではないでしょうか。
訳ありで世界の裏側に足を踏み入れることになる彼女ですが、キャラクター自体はとても良い感じに作り込まれているのに、読み終わってみると印象的な場面があまりに少ないことに気が付きます。料理のしようはいくらでもあったはずなのに、素材の味を殺してしまっている感じがしますね・・・。
他のキャラクターについても同じように言える所があるかも知れません。登場するキャラクターの数は多いんですが、もう一つな見せ方をされているので、やっぱり印象に残りにくいですね。助演の人たちがイマイチだと当然主演の人も引き立たない訳で・・・結果として全体がパッとしないという事になってしまっていると思います。

まあそれでも

しっかりと練られたどっしりとした文章と世界観のお陰で、最後まで読めるんですけどね。途中で放り出したくなるような事はないです。
でも言い方は悪いですが、CGそのものが売りになってしまっている映画を見たような気分ですね。それなりの分量があってもちゃんと読む気にはなるだけの作り込みはされているけど、残念ながら心に残らない・・・といういわゆる「もったいない作品」です。
最近読んだ中ではベスト3に確実にランクインする「もったいなさ」ですね。何かもう一つ、ちょっとした切っ掛けがあれば大化けしそうな気配がプンプンと漂っているんですが・・・うーむ、どうしたらいいもんだかねえ・・・。
なんというかもうちょっとキャラクターの見せ方を割り切った方が良いような気がします。キャラクターの誰も彼もを平等に扱おうとして失敗しているというか・・・。これは例えばですが、敢えて御室咲弥を傍観者的なポジションにおとして(あるいは活躍シーンを次巻に回して)、もう一人の主人公である館花梨理に完全にスポットライトを当てるようにするとか・・・。まあ小説書いた事もない人間がこんなこと言っても説得力皆無ですけどね。

総合

星・・・3つ・・・かなあ? もう少しで安心の星4つになりそうなんですが、今のところこの星の数です。
でも次の3巻が出版されたら買ってみようとは思う星3つですね。なんというか、かる〜い文体があっちにもこっちにもあるライトノベル界では比較的珍しい濃い文章なので、読んでいるだけでそこそこ楽しいのです。しかも濃いわりには読みやすいという作者の技量を感じさせる出来になっていることもポイント高いです。
安倍𠮷俊氏のイラストもムードがあって良い感じですし・・・なんというか頑張って欲しいですね。個人的にはとっても応援しているので次に期待しています。うん、そんな感じかな・・・。