ヘヴィーオブジェクト

ヘヴィーオブジェクト (電撃文庫)
ヘヴィーオブジェクト (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-10-10
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おすすめ平均 star
starあと一工夫あれば……
star安心して下さい。いつもの鎌池先生です
star現実に起こせないことは物語で起こせばよい

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ストーリー

近未来世界において、世界情勢、とりわけ戦争に関する様相は一変していた。核に耐え、核を越える戦闘機械が出現したためである。
全長50メートルを超える巨大さ、かつ核の直撃にすら耐えるその大型兵器を人は「オブジェクト」とだけ呼んだ。そして戦争における実際の戦いそのものはオブジェクトを操縦する人間「エリート」一人によって行われる物となっていた。ほとんどの他の兵士達はオブジェクトの整備などを行う後方支援を行うだけの存在と化していたのだ。
そして今一つの戦場に一人の少年がいた。名をクウェンサーという。エンジニアとしての出世コースに乗るために、危険を承知で前線に赴きオブジェクトの整備を手伝う一人として活動していたのだ。そしてもう一人ヘイヴィアという若者もいた。こちらは貴族の跡取りとして名を継げるだけの実績を得たいがために兵隊になったのだった。
そしてこの二人にとって戦争は危険ではあるものの他人事だった。戦争そのものは最早人の関与できるレベルでは存在し得ず、オブジェクト同士の戦いになり果てていたのだった。そして彼らは今日もオブジェクトの整備施設で気の抜けた軍隊生活を送っていた。
しかし、そんな彼らの軍隊での生活はあることを機会に一変する。自軍の「エリート」が操縦するオブジェクトが敵オブジェクトに破壊されたのだ。結果として蹂躙されることになる兵士達。・・・だが、クウェンサーだけは圧倒的な兵器であるオブジェクト相手に引くことをしなかった。先日偶然にも出会った「エリート」の少女・ミリンダを見捨てることが出来なかったのだ。
結果としてクウェンサーは生身で巨大兵器・オブジェクトとの戦いを行うことになる。なし崩し的に同行することになったヘイヴィアとたった二人で・・・という導入で始まる近未来SF(的)アクション作品です。

前日につらつらと

書きましたけど・・・本当にツッコミどころ満載な一作です。
つーか真面目にツッコミどころを列挙するのがすでに面倒になるくらいには山盛りです。かつてないドンブリ勘定っぷりに呆然とするくらいです。もっと酷い言い方をすると戦争のイロハどころか「父さんにも殴られたことないのに!」な小学生が戦争について書いてしまっている位にお笑いです。まあコメディ作品だと思うので、許される部分はあるでしょうけど・・・。
正直、私なんかよりSF方面や軍隊方面に詳しくて考察する時間のある人に「ツッコミどころ一覧表」を作って欲しいですね。その位無茶苦茶です。誰かやってくれませんか? マジで。お金と心に余裕がある方(特に心の余裕の方が大事)、お願いしますよ。
少なくとも断言できるのは、この小説が戦争をネタにしているわりにはリアリズムの欠片も存在しません。一言で言えば、

近未来軍事SF作品だと思っていたら、実は「魁!!男塾」だった。

というところでしょうかね。実は民明書房が出版元なんじゃないかという・・・。

禁書目録シリーズも

大概と言えば大概なので、相変わらずの鎌池和馬クオリティと言えばそれまでなんですけど・・・ねぇ・・・。
まあ基本主人公たち不死身ですんで核兵器の直撃を受けても破壊されないのがオブジェクトという存在らしいですが、それと同じくらいには主人公達は丈夫です。とにかくとっても頑丈に出来てます。というか「この二人は太陽が爆発しても『危ないところだったゼ!』と言いながらちゃっかり生き残るための特殊な訓練を積んでいます」とかテロップを流さないとマズイレベルです。
逆に敵兵は人間以下の固形物ですんで。その辺りは作者も意図的にやっているんでしょうが、本当にゴミ屑以下の扱いですので、爆発で飛び散ってバラバラになっても「なんだ散らかってるな」くらいの位置づけです。真面目に考えたら負けです。
いやもう本当に戦争ネタ好きやらメカ好きやらSF好きはこんな作品相手にしたらダメですよ。それほど軍事行動や戦略、戦術について詳しくもない私でさえあっちこっち気になってしまうくらいですから、詳しい人が真面目に読んだら多分焚書したくなります。

見所・・・?

は、まあ雑兵二人がほとんど無いに等しい武器を片手にオブジェクトという「核兵器の優位性を駆逐するほどの能力を持った」巨大兵器と戦い、これを撃破していくところでしょうかね。
つーかそれ以外は清々しいくらい無いです。それっぽく見せるための用語やら設定はあちこちにありますが、正直記号以上の意味はありません。でもライトノベルにおいては固いリアリティよりも「それっぽさ」の方が大事にされる部分があるので、ライトノベルとしては十分成立するはずです。その辺りの割り切り方については見事なものがありますね。
ちなみに主に登場するのは野郎二人なんですけど、この二人、発言ではあんまり区別がつかない感じです。一応クウェンサーの方が主役という事になるんでしょうが、そんな事どうでもいいような気がします。この二人が悪ふざけノリで無敵兵器をドッカンしていく(「破壊していく」と表現したくないところがポイントです)という部分のみが大事なのであって、それ以外は考えても無駄です。
ちなみにヒロインのミリンダもちょいちょい出て来ますが、超重要軍事兵器であるはずのオブジェクトを使って嫉妬心を表現したりする時点で、やっぱりシリアスに取り合うのはNGです。

総合

星2つ・・・。
なんで俺この本に金払ったんだろうか・・・? などという思考が頭をかすめなくもないですが、ライトノベルとしてはアリなので星は1つにはならない、といった所じゃないでしょうか。
もの凄〜く劣化したメタルギアを想像してくれればこの作品になるのかなあ・・・? でもこっちは「リアリティ皆無&全編強制ムービーシーン」というメタルギアシリーズから大脳を除去したんじゃないかと思えるような恐ろしい劣化の仕方をしているので、比較すること自体がもうメタルギアシリーズに対する侮辱のような気がするところが恐ろしいですね。
というかこの作品読んで思ったのは、

ライトノベルの主たる読者層に受け入れられる軍事ネタや近未来SFをやろうとしたら、ひょっとしてここまでやらないとダメなのか・・・?」

という一種の諦念とでも言うべきものでしょうか。もし人気が出ちゃったら何気にショックかも知れません。
でもま、ライトノベルバーリトゥードのリングみたいなものなんで、とにかく勝てば官軍なのは間違いないですから、まあ今後の売れ行きを生暖かく見守ることにしましょうかね・・・。

感想リンク