さくら荘のペットな彼女

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

ストーリー

水明芸術大学付属高等学校に通う神田空太は、さくら荘という下宿風の学生寮に住んでいる。キッチン、ダイニング、風呂が共同という古式ゆかしい物件だ。ただしこのさくら荘、学校では悪名高い方で有名だった。とにかく問題児とされる人間だけが集められているからだ。
空太の場合は拾った猫が捨てられないために以前住んでいた寮を追い出されたのだったが、他の連中はひと味違う。芸大付属というだけあって特殊な才能を持った生徒が少数精鋭という感じで入学してくるのだが、それらの一部が揃いもそろって人格破綻者だったのだ。才能は溢れているけど普段の行動に問題(警察にやっかいにならない方向で)がありすぎる生徒が集められているところ――それがさくら荘だった。
奇人変人の集まったさくら荘を出て行くというのが空太の目下の目標。しかし拾ってきた猫は相変わらず(実際には7匹にまで増えてしまっていた。それだけ猫が捨てられていたのだ)どうにも出来ないままで今日もさくら荘で暮らしていた。
そんなある日、さくら荘を管理している教師から頼まれ事をされる。「椎名ましろ」という名前の少女を駅まで迎えにいって欲しいというものだったのだが・・・まひろはさくら荘の新しい入居者だった。端正な面立ちに儚げで庇護欲をかき立てられるまひろの姿に空太はしばし目を奪われる。その日から空太の青春はさらに奇妙な方向に転がり出すのだった。
という感じで始まる青春学園ストーリーの1巻です。

正統派

といえば言えなくもない設定でのライトノベルですね。さくら荘は住人こそ学生で固められているので正体不明の人物こそいませんが、かなり変人揃いです。

  • 神田空太――主人公。2年生で猫を7匹飼っている。弱っている存在を見捨てられない性格らしい。さくら荘から出て行くことを画策中。
  • 上井草美咲――3年生でアニメ制作の天才だが、羞恥心とか常識とかが大幅に欠落している空太の人生の侵略者で、ある時以外は花まるな程元気娘。
  • 三鷹仁――3年生で脚本家を目指して活動しているが、それよりなにより女遊びが絶えない困った人。美咲とは幼なじみの関係。
  • 赤坂龍之介――2年生。優秀なプログラマーで既に仕事を請け負ったりしているが重度の引き籠もりで部屋から出ない。
  • 千石千尋――美術教師兼さくら荘監視人。しかし実態は合コンに明け暮れている婚活女。
  • 椎名ましろ――新しくさくら荘の住人になった千石の従姉妹で2年生。一見普通に見えるどころか普通以上の美少女だが・・・?

というラインナップですね。「めぞん一刻」的オープニングと言えば大体想像はついてしまうような気がしますが。悪人はいないけれどもはた迷惑な連中が揃っている感じですね。そういや五代くんも管理人さんが来るまでは「一刻館から出て行く!」って大騒ぎしてたな・・・。

で、なにが問題か

というと、新しく来たましろが他の連中を凌ぐ生活破綻者だった事が判明したからで、どんな感じかと言うと、

「服を着ろ! つうか、なんで裸なの! そういう種族なの!?」
「どうしてかしら」

「椎名って、どういう人生を送ってきたんだよ?」
「絵を描いてきた」
「他には?」
「絵を描いてきたの」
「…………」
「絵を描いてきたわ」

という感じで「絵」を描くことにかけては世界で認められるほどの天才だけどそれ以外が綺麗に抜け落ちているという塩梅です。
結果として日常生活がまともに送れないので、空太が「他に世話を出来る人間がいない」という理由でましろの世話係というのを押しつけられる事になるわけです。

まあ話の方は

序盤はドッキリお色気イベント付きのラブコメという印象で進むんですが、中盤から後半にかけては空太の人生の目標とか進路とか恋愛とかいった所を絡めてそれなりにシリアスな展開になっていきます。でもどこか緊張感が抜けている感じで、シリアスというより・・・青春? って言った方がいいかも知れないですね。まあそういう展開です。
こういう話って登場人物を上手く作らないとすぐにつまらなくなってしまうんですが、この話は結構上手く回避していますね。おかしな人間ばかりで理解不能なタイプをそろえたかと思いきや、それぞれのキャラクターが意外な素顔なんかもチラチラと見せてくれたりして、飽きさせません。
なんというんでしょうか、強烈な才能があるかわりに欠点があるというだけではなくて・・・ちゃんと人として魅力的な所を持っているという感じですね。ただの迷惑な隣人では終わらないと言えばちょっとは伝わるかも知れません。個人的にポイントが高かったのが三鷹仁――野郎キャラかよ!――だったりするんですが、ただのナンパ野郎かと思いきやそうでもなくて・・・とにかく奥行きがちゃんとあって悪くなかったですね。

総合

星4つ、いや3つ・・・かなあ・・・。
青春ドタバタ物でありつつもそれなりにシリアスな問題を抱えた登場人物達によるすったもんだの日常劇はなかなかに楽しかったです。が、もう一つ何か足りないというか・・・多分ですが、それって「この作者にしかこんな話は書けない!」という限定感? というか固有感? という奴でしょうかね。それが少し足りなかったかな〜とかそんな感じです。
・・・この感じって何気に大事ですよね。この限定感――「面白さのエッセンス」とでも言いましょうか――が物語に数滴入ってくるだけで作品の印象ってガラリと変わりますから。料理でもありますよね? そういう大事な隠し味。比較するのは良くないと思いますが、田中ロミオとかが標準装備しているあの調味料です。でもこの話も悪くはないし先もそれなりに期待できそうだったので、もし次が出たら買ってみようとは思いますね。期待age。
ところで残念なのがイラストですね・・・。決して下手ではないと思うし、作品に合っていないとまでは言いませんが、いかんせん「絵にするシーンを間違っている」という印象が拭えません。描きやすいところだけ描いたというか・・・。あと「手抜き」という印象も受けたんですが、これは多分アレだ、今思いついたんだけど「挿絵イラストと漫画の一コマを混同している」という奴だ、きっと。なんというか・・・頑張って欲しいです。

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