空色パンデミック1

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)

ストーリー

「ピエロ・ザ・リッパー! ジャスティスの仇はここでとらせてもらうわ!」

仲西景は、高校受験当日、遅れていた電車を待っている駅のホームでいきなり仇呼ばわりされてしまった。
呼びかけてきたのは見目麗しい少女だったが、口走っている内容はどう考えても普通ではなかったのだ。そしてもちろん自分はピエロ・ザ・リッパーなどという謎の怪人っぽい存在でもない。あっけに取られた景だったが、少女が立ち去ったところで側にいた女性からある説明をされたことで全て納得したのだった。
突発性大脳覚醒病。通称「空想病」の説明をされたからである。
妄想というのは多かれ少なかれ誰もがするものだが、この空想病患者はそれが極まった形で発現するのだ。現実の認識が正しくできなくなり、自分の空想の世界観を現実に拡大解釈してしまい、それを現実そのものとして振る舞ってしまう。しかも常時その状態になっているわけではなく、発作的にそうした現象が起きてしまうという、なんとも困った病気である。
しかもさらに困ったことにこの発作は予兆なく起き、発作を起こしている最中の記憶が断絶するということもないので、罹患している本人にしてみれば自分の恥ずかしい妄想などを所構わずご開帳してしまうという極めて困った病気だった。つまり「我に返ったときに」とても恥ずかしいのである。
そんな「空想病」にかかっている少女・穂高結衣と、何故か関わりを持ってしまった少年・仲西景のちょっと変わった青春ストーリー。えんため大賞の優秀賞受賞作だそうです。

良い方向に

予想を裏切られた感じだったかな〜というのがまずありますね。
いわゆる「痛い」妄想、というと最近だったら田中ロミオの「AURA」を思い出すと思うんですが、この作品は似たような思春期の「痛い」妄想を扱いつつもあれとは全く違う作品に仕上がっています。なにしろ病気という設定ですから、いわゆる「痛い」部分はあるもののあくまで穏やかに進んでいくんです。
どこが穏やかかというと、まず患者自身が自分の病気を自覚していることと、さらには「空想病」に対応するための社会システムが既に出来上がっていて、患者にはしっかりとしたフォローがなされているというのが大きいですかね。ですので読み進めていった時の感触としては有名な「サトラレ」を読んだ時の感じに近いでしょうか。
読み始めは「なんか無理がある展開なんじゃないかなあ……」と感じたところが、「ああなるほど、こういう背景があるからああした振る舞いになったわけね」という感じで補完されていく感じは悪くありません。

序盤こそ

突拍子もない印象を受ける登場人物が多いのですが、メインキャラクターたちは話が進むにつれ無理なく不足部分が埋められていって、人間的な輪郭を持つようになります。それが顕著なのがヒロインである結衣と、もう一人の重要人物である青井晴です。
主人公の景とは高校受験の時に面接で一緒になった時以来の付き合いとなる彼ですが、とてつもなく突拍子もない登場のしかたをします。何しろ高校の面接で、

「僕は女装を好みます」

と断言するような所があるからです。外見は線の細く中性的で整っているのですが、「女子の制服が可愛いから」という理由で高校を受験した強者です。ですがそれ以外は至極まともかつ知性的で、主人公である景の良き友として大事な位置を占めることになります。
つまりは最近アレな「男の娘」という奴な訳ですがまあそこには色々と理由もあるわけで・・・このキャラクターほど女装しているという事実を素直に受け入れられたキャラクターは今までいませんでしたね。というかぶっちゃけとてもイイです。この話で一番のお気に入りキャラかも知れません。

物語は

「空想病」を発症した少女とごく普通の少年のボーイミーツガールという事になると思いますが、展開もスムーズかつ自然で読ませますね。
所々再考の余地がありそうな細かい設定や描写も無い訳ではありませんが、物語の空気を損なってしまうようなものではありません。特に設定の中にある「空想病」の3種の型である「自己完結型」「劇場型」「天地創造型」というのは上手く出来た設定じゃないですかね。これが物語に適度な不自由さを与えていて面白いです。
加えて、一歩間違えれば本当に「痛い」話になってしまいそうな所を、落ち着いた語り口と人間的な厚みを持ったキャラクターによって上手く引き締めて、青春ストーリーとして成立させているという感じがしますね。

――世界を守るか。君を守るか。

これは物語序盤で発せられる荒唐無稽な問いかけではありますが、この荒唐無稽さがどうやって普通の物語へと回帰していくのかを楽しんでみて欲しいです。

総合

星4つですね。
不思議なくらい不快感の無い話で、読んでいて心が洗われるような気持ちがしました。一見派手なライトノベルの流行に乗っかっているようで、その実全く乗っていないという興味深い話です。もう一歩話をシリアスに推し進めて、さらに固い文体と設定にすればライトノベルレーベルでなくとも出版できそうな感じ、といえばなんとなく伝わりますかね。なかなかにおすすめなのでサイフに余裕のある方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
絵師さんは庭氏ですがこれはもうバッチリで、絵が作風に合っているし白黒イラスト含めて良い感じです。漫画のコマと挿絵を勘違いしている絵師さんをしばしば見かける中、この絵師さんはその違いをちゃんと分かっているような気がするというか・・・上手く言えませんけどね。とにかく派手さはありませんが良い仕事していると思います。

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