ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ

ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ (ハヤカワ文庫JA)

ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ (ハヤカワ文庫JA)

ストーリー

ジョン・アスタロットは焦っていた。騎士養成学校でひたすらに努力はしてきたものの、卒業を控えて未だに職が決まっていないからだ。
貧乏貴族の三男坊である彼は、騎士団に取り立ててもらえるような強力なコネを持っていなかったのである。自分よりも成績の悪い連中がコネを使ってさっさと騎士になっていくのを羨ましく思いながら、もう辺境の国境警備兵(すっごい孤独)になるか傭兵(すっごい死ぬ)になるしか道はないかも知れないと半ば諦めていた。
そして卒業の日、これが浮き世との別れになるのかと思いながら卒業式後の謝恩会に(壁の花として)出席していたジョンに、青天の霹靂とも思える出来事が起きる。主席卒業生であり、美しくフワフワしたブロンドの天才魔女マリーアンナ・メリクリスにダンスを踊って欲しいと言われたのだ・・・!
実は最後に彼女を一目見たいという思いで(つまり前から片思い)この謝恩会に出席していたジョンは、その申し出を一も二もなく受け入れる。そして彼らは慣れないダンスを踊ったのだった。
ダンスが終わり、フワフワの彼女に今まで以上に虜になってしまったジョンは、熱に浮かされたようにマリーアンナに一つのお願いをしていた。

「マリー、俺と結婚してくれ!!」

貧乏貴族の三男坊で先行きの分からないジョンがプロポーズしたところで断られるのは目に見えている。しかし、その後マリーアンナの取った行動はジョンの予想を遥かに超えて、そしてそれが次なる大騒動を起こすことになるのだった!
という感じで始まるファンタスティックラブコメディーの1巻です。

いやあ本屋でね

ライトノベルやらその他の本を一通り物色して、まあたまにはハヤカワの棚も巡回しておくか・・・と思ったら久しぶりに水玉螢乃丞氏の表紙絵が目に入りまして、オヤオヤなんじゃらほい? どこかの海外ファンタジー作品でも出たのかな? なんて思って手に取ってみたら桝田省治氏の名前が見えるじゃないですか! という訳で即ゲットしたわけです。偶然ってあるもんですね。
出版される事を知らなかったのに出くわしてしまうなんて(しかも平積み分が無くなったら再入荷の無いような小さな本屋で、ですよ)、もうこれは読む運命に違いないと思ってしまったとしても誰も私を責めはすまいと思うのですが。
・・・なんというか、本に「縁」を感じる瞬間ってありますよね。読もう読もうと思っていてもタイミングが悪くて読み損ねる本があるかと思えば、偶然に偶然が重なってひょっこり自分の手元に来る本があったり。そういう意味で言えばこの本は私と「縁」があったんでしょうね。

ところで

桝田省治氏は小説家としてのデビューは2006年だそうですよ。経験年数だけで見たら片手で余る訳ですが、正直メキメキと文筆家としての能力を伸ばしていると思います。そして話も・・・面白いんです。
物語を書くという事に関して、文章のテクニックというのは磨けるけど、発想や構成といった部分はやっぱり元もと持っていた部分の力というのが大きいんだなあ・・・なんて事をしみじみ思ってしまいました。漫画で言えば絵は練習すれば上手くなるけれども、話を作る能力はそう簡単に上手くはならないというのに似ていますね。
桝田省治氏は、多くの小説家志望の人が苦労するドラマチックな物語を作るという能力を先に持っており、後から文章を書く能力が付いてきたという典型的な例なんじゃないかと思います。まあ以前も決して下手とは思いませんでしたが、全体的に完成度が上がっているのを感じました。具体的にここがこうだから・・・とは言えないんですが、全体を通してそう思いましたね。

で、お話ですが

話の展開も面白いんですが、ジョンとマリーもそれ以上に魅力的です。
なんだかんだ言ってジョンは実直かつ勇敢でいい奴ですし、なんだかんだ言ってマリーは知的で機転が利き・・・そしてちょっとエッチです。結婚したらカカア天下になるのは目に見えているという感じがしないでもないですが、誰も損をしないので誰も困りません。それに読み進めていくと想像以上に二人の組み合わせがお似合いなので、安心して話を読んでいられます。
で、ジョンとマリーがどうなるかというと親に色々と反対された結果、結婚資金として二人で¥一億を用意しなければいけなくなり、手っ取り早い方法として賞金稼ぎという仕事をやっていくことになります。ジョンは愛と勇気と根性で、マリーは知恵と魔法とちょっとしたズルで賞金稼ぎをすることになります。
二人は気がついたら何故かレースに参加していたり、なんだかそれなりに大きな陰謀に巻き込まれてしまったりする訳ですが、それがどういう風に決着するのかは是非話を読んで確認してみてください。

総合

ガッチガチの星4つ。
マイナスに思える部分が全くと言っていいほど無い作品ですね。適度に和風の混入した世界観もある意味で親切ですし、登場するキャラクターもそれぞれ良い感じです。それなりに分量がある本なのですが、気がついたら読み終わっていました。
個人的にはその・・・○○があまりにも不憫なような気がするのですが、まあへこたれていないようなので取りあえずは一安心ですかね。でも最後にはちゃんと幸せになって欲しいとか思いました。やり口はどうかと思いますが、動機はその・・・まあある種の純情であるからして・・・ねえ?
最後には、と言っていることから想像出来るかも知れませんが、ジョンとマリーの物語はこの1冊では終わりません。どうやら道のりはそれなりに険しそうですが、何気にちゃんと続きを書いてくれてちゃんと完結させてくれる作者なので、安心して待ちたいと思います。・・・全5巻位かな〜? なんて思いますが、どうなんでしょうね?
上でも書いていますが絵師さんは水玉螢乃丞氏です。安心のクオリティというか、作者が直接依頼したというだけあってもう色々と完璧です。表紙絵を見て気に入ったら手にとってレジに直行して問題がないと思いますよ。そのまんまの作品ですからね。