中の下! ランク1.中の下と言われたオレ

中の下!  ランク1.中の下と言われたオレ (富士見ファンタジア文庫)

中の下! ランク1.中の下と言われたオレ (富士見ファンタジア文庫)

ストーリー

聖☆ジュウゾー学園はかなり変わった学校だった。とにかく変わった学校だった。生徒の学力や運動力などは重視せず、普通の学校では決して重視しないものを一番に掲げていたのだ。
すなわちそれは「恋愛力」。男だろうと女だろうとイイ女(男)をつかまえられなければ価値なし! と切って捨てているのだった。

「ここに今年度、二年生の生徒を対象として、我が校伝統『カップル試験』を実施することをお知らせするザマース!」

こんな具合にイカれた校長の宣言を聞きながら、生徒の一人である瀬木成道は密かに闘志を燃やしていた。試験期間一年の長きに及ぶこの『カップル試験』で、生徒のトップにランキングされる「ヴィーナス」と呼ばれる女生徒とカップルになることが出来れば、ほとんどの願いを聞いてもらえるという特典があるからだった。そして成道にはどうしても叶えたい願いがあったのだ・・・。
という訳で、自分をイケメンと信じて疑わない成道は早速ヴィーナスとカップルになるべく動き出したのだが、もちろんそうは問屋が卸さないのだった。

「貴方の男としてのランクは『中の下』です」

自分が超カッコイイという事を全く疑っていなかった成道はいきなり挫折を味わうことになるのだが、まあイケてると思っていたのは成道本人ただ一人で、端から見ればぶっちゃけただのイタい勘違い少年だったので、本人以外は特に困らなかった。
しかし成道はめげなかった! ヴィーナスは公表されないのだが、入念なリサーチの結果きっとこの娘だ! とアタリをつけていた少女・瑞元絽美に対して果敢にアタックを開始する!
この話はそんな成道の苦闘(?)を記録したお話です・・・って、変な話だのう・・・ファンタジア大賞の金賞受賞作らしいですが。

いやあ

賞を獲った作品だという事であらすじやらを一切確認しないまま購入した訳ですが、最初はもの凄い地雷を踏んだかと思いましたよ。
何しろ主人公の成道がキモイ・イタイ・ヤバイの三拍子揃っている超KY少年であったからでして、流石に一冊丸ごとこの塩梅で勘違いイケメンとおつきあいするのは不可能なんじゃないかと思ったからですが。なにしろ、

「よーし! 今日も全方位スキなしの、キング・オブ・イケメン男子だぜ!」

とかって口走ってしまうくらいですから。トイレでヘアスタイルとか弄くり廻しながらね。
でも・・・こう、昔を思い出してみると、なんか、いましたね・・・こういう野郎がクラスに一人くらいは。まあこの成道ほど酷くは無いにせよ、なんだか、こう、自分を思いっきり「イケメン」と勘違いしちゃっているような振る舞いをしちゃってる奴が・・・。
そういう奴って大抵ある時を境に、何かに突然目覚めたようにクネクネと動き出すんですよね・・・見させられる側としては気味悪いったら無かったですが、あれも青春に潜む病気みたいなものなんでしょうかね・・・今頃こじらせて死んでないといいんですが。

という感じですので

これは読むに耐えないか〜? と思ったんですが、オヤオヤ・・・? 読んでいくうちになかなかどうして主人公の成道くん、悪くないんじゃ? なんて思い出しました。
いや、思い込みの激しい所は変わっていないんですが、「中の下」宣言後の行動を見ていくと、

「ほう……? なかなか見所があるじゃねえか小僧……」

とかそんな気分になるんですよね。イケメンの幻覚を見なくなってからも彼は持ち前の・・・なんだろうね? 根性? 気合い? なんか違うな・・・を全開にして『カップル試験』に全力で挑んでいくことになるわけです。
とにかく成道は勘違いバカでナルシストのイタイ奴なんですが、悪人じゃあないんですよね。いや、悪人じゃないどころか結構な好漢じゃないかと思える行動を取るんですよね。
そんな塩梅なので、気がついたらイタイ主人公成道の恋の応援をしてしまっているんですよね・・・不思議な本です。

それに

周囲を固めるキャラクターがまたなかなかに良いんですよね。
主人公の悪友であるダメ生徒・石田、何か間違っている(本当の)イケメン高校生・黒川、ミステリアスで成道に対して不思議な接し方をする少女・妹尾雪菜、お偉いさんとこの傍若無人美少女・恵比寿莉子、お金が神さまのシリアスダメ教師・真弓梨佳・・・などなど、それぞれが良い味をだしています。
特にユニークだなあと思ったのが訳あって成道と友人になる黒川くんですね。内面も外見も誰もが認める完璧なイケメンな彼ですが、とある理由から憎めないキャラクターになっています。ああなるほど、そういう方法でもキャラクターに人間味って持たせられるよね・・・! これはちょっと目の付け所が良いんじゃない? とか思いました。
まあ彼に限らず、他のキャラクターもどことなく人間くさくて悪くないですね。コメディベースなので誇張はされていますけど、なにか身近な印象を受けるキャラクターばかりだったような気がします。

総合

星4つ。面白かった。
恋の行方がどうなるのかちっとも分かりませんが、先の読めないラブコメディとして十分楽しめそうな気配がします。訳の分からない試験と試験のルールに右往左往することになる成道ですが、試験が終わる頃には一皮も二皮も剥けた本当のイケメンになっているような気がしなくもないです。まあ茨道なのは間違いないでしょうが・・・。
成道がアタックする事になる絽美も可愛らしくて優しい女の子ですし、ちょっと複雑な距離感の妹尾の動向も気になる所です。トンデモなキャラクターがトンデモな学校でトンデモな試験をする話ですが、読んでいるとなにやらフワフワとした楽しい気持ちになる話でしたね。続きが出ることが決定しているみたいなので、期待して待ちましょう。
絵師はごまえ氏です。カラーイラスト、白黒イラスト共に無難な仕事ぶりのような気がしますね。割り切った印象で描かれた表紙絵はなかなかに人目を引くのではないでしょうかね。

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