鋼鉄のアナバシス 死神と呼ばれた少女
鋼鉄のアナバシス 死神と呼ばれた少女 (AXIS LABEL)
- 作者: 内田弘樹,藤沢孝
- 出版社/メーカー: イカロス出版
- 発売日: 2009/07/17
- メディア: 新書
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ストーリー
時は1945年。場所はウクライナ。
東部戦線の煙り渦巻く地へと向かっていた新人戦車兵のアキラ・クリューガーは、戦地へと向かうその列車の中で運命と出会う。それはワンピースに身を包んだ一人の美しい少女の姿で現れた。少女の名はアリス・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ。
列車のチケットに端を発したちょっとした行き違いを理由にしてアキラに難癖を付けるアリス。そしてそれに反発するアキラ。それは、何事も無ければ他愛ない時間として過ぎ去ってしまうはずの一場面だった。しかし――運命の歯車は廻る。アキラたちの乗る列車が通り過ぎようとしていた街・キエフで捕虜による反乱事件が起きたのだ。
その事件にとっさに反応したのは軍人のアキラではなく少女のアリスだった。彼女に引きずられるように降り立ったキエフの街でアキラが見つけたのは、一つの巨大な鋼鉄の猪だった。それは――戦車。アリスはそれに乗り込み反乱の鎮圧をしようとする。不可能事に近いその行動に付いていけないアキラだったが、アリスの方はまるで「慣れきっている」かのように戦場へと適応していた・・・。
架空の第二次大戦のヨーロッパを舞台にした、戦車を中心にして語られる戦記物の1巻です。
これねえ・・・。
随分前に誰かにコメントでオススメされた記憶があって(すまんが誰だったかすっかり忘れてしまった!)、ずーっと気になっていたのをつい先日手に入れまして。それでやっと読んだんですけどね・・・。
これは読まないともったいないんじゃないかな!?
私は残念ながら二次大戦中の兵器方面に興味を強く持ったことは無いし、第二次大戦の東部戦線が一体どういうものだったかもほとんど知りません。が、それでもこの話を読むのには困らないし、つまらなくもないというか、ぶっちゃけ面白いです。
とにかく作りが丁寧ですね。主要となるキャラクターの紹介もきっちりとされるし、戦時下の軍隊組織やその周辺組織に関する描写も手を抜かないし、自国の軍隊(主人公たちはドイツ軍です)だけでなく、敵対する組織の内情や感情的な部分まで過不足無く書かれています。
それに加えて細かい解説の代わりともなっている戦車の・・・なんていうのコレ? 図解というか、各部名称とかを丁寧に描いた絵がついてますし、各章の始めには作中で使われる用語の解説も付けられています。とにかく「軍事方面に強くない人間にも楽しんでもらえるようにしよう」という努力がちゃんと見える本になっているのは非常に好感触ですね。現地語で丁寧にルビが振られた地の文も良い感じです。
話の中には幾つかの軍事的に「ありえない」要素が入りこんでいるようですが、それはこの物語をつまらなくするものではないと思います。まあ私はマニアじゃないので、実際どこら辺がどの位まで史実や現実と異なっているのか、ディティールまでは分からないんですが・・・。
なんていうのかな
軍隊方面におもいっきり舵を切ったタイプのライトノベルという事になるんでしょうね。
軍事的な部分については嘘や誇張を可能な限り止めてあくまでもリアリティを主役にしていて、それの味付けとしてライトノベル的なボーイミーツガールと誇張されたキャラクターと「世界の謎」がある・・・という感じです。
そのバランスがとても良いんじゃないかと思いました。これ以上リアル方向に傾くと堅苦しくて軍事マニア(ミリオタって言うのかな?)しか読めない本になりそうだし、これ以上ラノベに傾くと軍事マニアからそっぽを向かれそうな所を絶妙のバランスで走り抜けているというか、そんな印象を受けました。参考までにちょっと文章を抜き出してみますが・・・。
アリスは車体の上で、両手を腰に当てて言った。
「じゃあ、あたしが戦車長と砲手を兼ねるわ。あんたは操縦手と装填手ね。無線手は無線を使わないから不要だわ。あんたはパンターを動かして、こっちが撃ったら砲弾を装填するだけでいい」
「お前、こいつを二人で動かすつもりなのか!?」
撃発スイッチを押すと同時に、主砲弾の薬莢尾部の火管が作動、装薬が起爆する。一五キログラムの装薬は一瞬にして燃焼し、膨大な運動エネルギーを発生させる。弾丸重量二八キログラムの被帽付徹甲弾は、このエネルギーに押し出されて加速、螺旋状の溝(ライフリング)が刻まれた砲身を駆け抜ける。高速回転する徹甲弾はジャイロ効果により直進性高められ、秒速九二〇メートルの速度で砲口を飛び出し、目標へと真一文字に突進する。
こんな感じです。どうですかね? 伝わります?
うーん、そうですね・・・最近のライトノベルだったらMF文庫の「疾走れ、撃て!」とかを楽しんで読める人ならこちらも十分楽しめるんじゃないでしょうか。この作品の方が世界の描写は遥かにリアルですけど、骨子になっている「少年と少女」と「戦い」という部分が変わらないからです。
キャラクターは
結構沢山出てくるんですが、違和感らしい違和感を感じませんでしたね。
アリスに何らかの謎があることは分かりましたが別に超人ではありませんし、主人公のアキラもなかなかに使える方の兵隊ですがまだまだ経験不足。戦場という血なまぐさい場所を舞台にしてはいますが成長物語として読めるので、感情移入は容易だと思います。
まあぶっちゃけアリスを某セカンドチルドレンのラングレーさんと見て、アキラをやる気のある某サードチルドレンの碇さんと見れば、物語に入りこむのは非常に容易いです。見た限りではアリスは非常に良質なツンデ・・・いやまだデレ期に入っていないので何とも言えませんが、まあ将来性はかなり買えると思います。いや買いです。ゲルマン魂ここにあり・・・ってまあちょっと違いますけど。
しかもアリスはアキラ向けのお色気イベントも多数用意しているので、CG回収がきっと楽しいと思います。少女キャラクターは他にもティナ・フェーゲラインとパウラ・ケンプフという個性的な少女が出てくるんですが、彼女たちもこれからひょっとしたら色々期待させてくれるかも知れません。いや、色々と泥沼のような色恋沙汰とかに発展してくれると嬉しかったりします。主に私が。
ただ・・・やっぱり戦争の話なので、主人公たちが色々とイヤな感じのするフラグとかをバリバリ立ててくれたりするんです・・・出来ればみんなに幸せな未来を用意しておいて欲しいものです。が、この話が「殺し殺される」という関係でしか成り立たない戦場という舞台で語られるものである以上、そう簡単に優しい未来はやってこないんでしょうねぇ・・・。
総合
いやちょっとコレ読んでみない!? という星5つ。
戦車にミニスカ美少女ってもうそのまんま男のロマンじゃねえの!? 東京モーターショーの車の展示スペースに際どい服着たコンパニオンがいるのは伊達じゃないのよ!? とか思うわけですが、ある意味でこの組み合わせはなんかこー、興奮しますね!
いや本当になんなんでしょうね!? ナイフと美女とか銃と美少女とか、なんかそういう組み合わせに妙に興奮するのってね? まあその辺の理由はよく分かりませんが、この話が磨き上げられた陸戦兵器と強くて甘くて柔らかい美少女で構成されている以上、読まねばならないのだけは間違いないと思います。まあ値段は1000円近くするのでちょっと高いですが・・・な〜に、昼飯を2回も抜けば買えるんだから買うと吉。
イラストは藤沢孝氏ですね。上手いと手放しで褒めるわけにはいかない感じですが、殺伐としがちな作品を穏やかな印象に変えているのは間違いなくイラストの力ですね。特にお色気シーンを決して逃さない感じはいっそ清々しさすら覚えましたよ・・・。
追記
そう言えば書き忘れたんだけど、346ページ上段5行目の「パウラ」は「ティナ」の間違いだと思う。こういうのって何気に発見しづらいよね・・・。