アンシーズ 〜刀侠戦姫血風録〜

アンシーズ 〜刀侠戦姫血風録〜 (アンシーズシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

アンシーズ 〜刀侠戦姫血風録〜 (アンシーズシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

ストーリー

火群ヶ棚学園に転校してきた木ノ崎トモは、転校当日の学校で異常な状況に遭遇する。
人気の無くなった教室に突然現れた金髪碧眼の少女と、彼女が抜き払った一本の長剣、そしてその娘を狙う全身鎧を着た何者か――そして突然に始まる斬り合い。ここはただの学校で、そしてただの教室だったはず。それが一瞬のうちに超常的な戦場になってしまった!
呆然とするトモに対して、ヒカルと名乗った少女はあることを要求する。

「ぐだぐだしてんなっ! 抜刀しろぉっ! てめぇの男を抜きやがれぇぇぇぇっ!」

・・・後で聞いたところによると、この学園は刀競大武会という大会に参加しており、彼女たちはその頂点を求めて戦うアンシーと呼ばれる存在なのだと言う。トモが見た通り、彼女たちは自分の「男」を刀という形に変えて戦いを繰り広げる――結果として、「男」そのものである「刀」を抜いている時に彼らは女になるのだった。
そう、火群ヶ棚学園はれっきとした男子校なのである。そしてアンシーとなっている生徒がこの学園には数多くいるようなのだ。もちろんアンシーでいることにリスクが無いわけではない。基本的にアンシー同士の戦いは刀による斬り合い潰し合いであるし、そしてそれ以上に刀を折られたアンシーは「男に戻ることが出来なくなる」のだという・・・。
奇妙な状況、奇妙な能力、奇妙な戦い。そんな学園に突然放り込まれたトモと、アンシーたちの戦いを描いた、美少女(?)武闘ライトノベルの1巻です。

いやあ

私TS物(トランスセクシャルもの)、まあいわゆる性転換物のライトノベルって苦手なんですが、これは読めましたねえ・・・。
なんといいますか、性転換している野郎共(つまりアンシー)が大量に出てくるんですけど、その見せ方が上手いんですよね。どう上手いかと言いますと、アンシーになる前の男の姿を一切出さないという作品作りをしているので、その・・・ちょっと男っぽい言葉遣いをする少女として見てしまえるんですわ・・・。
例えば上のあらすじで出てきているヒカルというアンシーは、本編中一度も男の姿では出てきませんし、他のアンシーについても同様ですね。例外的に主人公のトモは普通に少年として出ずっぱりですけど、アンシーに変身すると美少女になることが確認されていますし、なんかそれはそれで悪くないかな〜と・・・。
まあ中にはリキオウマルという実に男らしい(漢らしい?)名前のフリフリロリータ美少女な人も出てくるんですが、この人だけは残念ながら外見は小柄な美少女なのに実は完全に♂で、精神的には女です。まあ、いわゆるオカマ、という事になりますか・・・。

「おいおい、手芸部のリカちゃん泣かせてる男がいるぞ!」「うわ。あの制服、あの名門?」「男同士の悶着か……」「いや、でもな。手芸部のリカちゃんと言えば、倒錯しているとはいえ我々に憩いを与えてくれる数少ない癒しの存在だぜ」「それもそうだな。やはり、あの男」「ゆるせんな」「やるか?」

男子校ってこんななの!? いやあっ! 男子校怖いっ!

それに

ミツウというアンシー(つまり男)なんて、男なのに、男のはずなのに、なんというかですね、わ、悪くないな・・・とかちょっとだけ、もちろん本当にちょっとだけ、思ったりしました・・・。クールビューティといいますか、穏やかに見えて情熱的というか・・・。
まあアンシーになった男は完全に女になり、「刀を折られた」りしちゃった場合には肉体的にも精神的にも社会的にも常に100%の女になってしまうので、別に変態的な事では無かったりするような気がしますが、えー、なにか言い訳をしたくなるような気分ではあります。
まあこんな事ばかり書いているとまるでコメディ作品のように思うかも知れませんが、実際にはそんなことはありません。舞台設定やキャラクターなどはかなりぶっ飛んでいますが、基本はシリアスなバトルアクションライトノベルで、死にそうになったり血だらけになったりする過酷な物語です。男性から女性に変わってしまうという要素も決してコメディ的に扱われる訳ではなくて、基本的にはアイデンティティに関わる深刻な要素として扱われます。
でもまあ上で引用しているようなコメディ部分とシリアス部分の割合が上手いとは思いますね。

ただ・・・

なんというか急ぎすぎているというか、説明不足というか、納得出来ないと感じる部分が多かったのも確かですね。
なんでそんなにムキになって数多くのアンシーたちが命がけで戦うのかという理由もイマイチピンと来ませんでしたし、主人公の心の動きなんかもちょっとうっとうしく感じたり、変化が唐突に思えた部分もあったように思います。基本的にキャラクターは良いと思いますし、一度慣れてしまえば突飛な設定も「そういうものだ」と受け入れるのもそれ程困難ではないと思いますが、もう少し上手いやりようがあったんじゃないかなあ・・・なんて思いました。
なんですかね、もうちょっと緩やかに話を進めたらもっと完成度の高い話になったんじゃないかとか思うんですが、まあ新人の1作目ですし、とりあえずインパクトを与えて読者の心を掴まないといけないという事もあるかとは思いますので、仕方がないのかな・・・というところでしょうか。

総合

星3つかな・・・もう少しで星4つにするんだけどねえ。
TSものが苦手な私でも楽しんで読めたので、多分面白い話なんだと思います。そういうのが元もと好きな人ならかなり楽しめるんじゃないですかね。この話は、アンシーという超常の存在によるシリアス武闘体育会系物語を作りたかった結果生まれたんじゃないかと思うんですが、微妙にそれには失敗していて別のそれなりに楽しい物語になっているような変な印象を受けました。
うーん、なんだか奇妙に不安定な印象がある物語でしたね。意味不明で原理不明な要素が大量に出てくる部分を勢いで納得させようとしているので、ちょっとスピードが落ちるとグラグラとするんじゃないかと思います。それがなければなあ・・・という事で「もうちょっと丁寧に」という事が言いたくなったのかな、なんて思いました。でも2巻が出ているようなので、買って読んで見ようとは思います。・・・星は3つでしたが、少なくとも「先に期待が出来そうだ」とは思ったという事ですかね。
イラストは久世氏ですね。カラーイラストは結構好きですが、白黒の方が・・・動きなどが的確に捉えられている感じで悪いという訳では無いんですけど、全体的に手抜き感がするというか、背景がほとんど白いというか・・・うーむ、微妙・・・。

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