機巧少女は傷つかない

機巧少女は傷つかない〈1〉 Facing

機巧少女は傷つかない〈1〉 Facing "Cannibal Candy" (MF文庫J)

ストーリー

ロンドンからリヴァプールに向かう列車の中に一組の男女がいた。しかし、一方は人間ではなかった。少女の方は人間に限りなく似てはいるものの自動人形――機巧魔術よる生命体である。
彼らが向かっているのは英国の頂点に君臨する魔術学府であるヴァルプルギス王立機巧学院。そこで開かれる人形使いの頂点を決定する戦いである「夜会」に参加するためだった。「夜会」に出場し、それを極めて「魔王」と呼ばれるトップを獲る――それを目指す人形使い赤羽雷真と、それに従う人形の夜々の二人だった。
ヴァルプルギス王立機巧学院に無事に到着した二人であったが、「夜会」には誰でも参加できるわけではない。雷真はその参加資格を出場予定者から奪い取るために、学院内で私闘を開始する。彼らが戦いをふっかけた相手は次期「魔王」有力候補で竜を従えた人形使いシャルであったが、その戦いが思わぬ方向へと事態を運んで行き・・・?
という感じでスタートする、人形魔術の進歩した20世紀初頭という世界観で語られるファンタジックバトルノベルの1巻です。

ん〜

同作者によるグリモアリスシリーズみたいな「フラグメント」という描写の制限はないのに、相変わらず断片的な描写が続いているように感じるのは、気のせい・・・ではないような気がするな。なんというかこの作者の芸風というかクセみたいなものなんでしょうかね。そのせいかどうかは分かりませんが、なんとなくミステリっぽい印象を受けます。あくまでなんとなくですけど。
でも描写全体を俯瞰して見ると安定しているとは思えますね。断片的、という風に表現している通り、勢いというかリズム感という意味ではあまりよろしくはないんですけど、苦痛には感じないというか・・・。あー、このテンポの微妙なズレ(一般的なライトノベルと比べた場合の)が、なんか独特だなあとは思いますね。
私はこのリズムが結構好きな方ですが、MF文庫にありがちな他のシリーズのようにさらっと読もうとするとなんとなくつっかえるような感じがするかも知れません。なんとも不思議な感じです。

話の方は

学園魔術バトルという感じでいいと思います。
主人公である雷真とその雷真にベタ惚れの夜々が色々とドタバタやって大騒ぎという感じですね。この二人がお笑いも担当しますが、主題はシリアスな話という感じですね。

「『西欧一の学校』はもうすぐそこです」
にこにこと嬉しそうに、少女は少年にくっついた。
「その学校は全寮制なんですよね?」
「そうだ」
「ひと晩中、ふたりっきりで過ごすんですよね?」
「そうだが……」
「眠れぬ夜が続きそうですね♡」
「いや俺は眠るからな? 妙な真似したら追い出すからな?」
「…………っ!?」

・・・お人形から一心な愛情を注がれ、しかも人様から誤解を受けるような発言を夜々がしまくる関係で、主人公の雷真くんは基本的に周囲の人間から変態扱いをされたりします。それの一体どこがシリアスなんだ・・・とかお思いでしょうが、ベースはシリアスなんです。何しろ殺人事件っぽいものに巻き込まれたりすることになりますし、馬鹿くさいですけど締めるところは締めるという感じでしょうか。
・・・なんとなくこういう扱いをされるキャラクターに既視感を感じたりしますが、まあおおかたの予想通りな感じです。でも別に違和感があるわけでもないので別に不満はないですかね。
で、夜々と並び立つ感じになるもう一人のヒロインであるシャルはいわゆるアレです。お嬢系ツンデレです。

「で……」
「で?」
「デート……、してあげてもいいわよ?」

まあ色々と裏があったりするんですが、ウブな娘であることは間違いありません。相方の竜であるシグムントは非常に冷静かつ知的な性格をした竜なのですが、その主はまだまだ子供という所でしょうね。
基本的にこの3人を中心にして話が進んでいく感じになるんですが、いきなり巻き込まれた学園で起こる異常な事件に彼らがどうやって立ち向かうか、読んで確認してみてください。

ただ・・・

ちょっと気になったのが、この本一冊で見た場合の完成度(完結度?)の低さかも知れませんね。
タイトルにいきなり「1」と振られていることから分かるように続きが出ることが確定している関係で、この一冊では回収されない露骨な伏線が大量に張られることになるのです。まあそうした部分は今後の楽しみに取っておこうという風に捉えればいいんですけど、この一冊でそれなりの楽しさというか・・・解決される感じ? を楽しもうとするとちょっと消化不良な感じになると思います。
一応話としてはこの一冊でもきっちり盛り上がってきっちり決着はするので、言うほど投げっぱなしという感じではないのですけど、前のシリーズがなんとなく「ページ数的に伏線を回収しきれない」という悲しい事態に陥りそうな気配が濃厚にする関係で、このシリーズではそうした悲劇が起こらないように祈りたいというか、無駄な(だったらいいな)心配をしてしまっているというのが本音かも知れません。・・・伏線は回収するまでが遠足ですからね?
・・・とにかく作者の人にはMFの新天地で頑張って欲しいものです。

総合

うーん、もうちょっとで星4つかなあという星3つ。
キャラクター作りや物語の展開、世界観の構築などは見事な安定感を見せていると思いますが、もっと話が熟してこないと高い評価はあげられないかなあ・・・という気分です。つまらないという事はありませんが、やっぱり回収されない伏線の多さが気になりますね。
特にMF文庫って一冊あたりの文字数が他の文庫と比べて少ないような気がするので、どうしてもこの一冊だと消化不良な感じが出てしまうような気がします。でもまあ2巻が出たら買いますけどね。一言で言えばスロースタートな印象というところでしょうか。
イラストはるろお氏です。カラーイラストも美しく、白黒ページもなかなかに悪くないような気がします。でも本音を言えばもうちょっと戦闘シーンの絵とかを増やして欲しかったなあ・・・という気分ではありますね。豊富な戦闘シーンがあるのに絵になっているのがほとんど女の子ばかりというのは何気に寂しいです。

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