死なない男に恋した少女

死なない男に恋した少女 (HJ文庫)

死なない男に恋した少女 (HJ文庫)

ストーリー

飛び降り三十二回。毒物服用十五回。動脈裂傷四十五回。首吊り二十五回。ガス吸引十三回。
それは十七年の人生の中で彼が経験したはずの死の記録。何度も繰り返されたそれは自分の異常性を確認するための行動だった。すなわち、彼は決して「死なない」。過酷な虐待を繰り返された幼少時を生き残ったのもその異能故だった。彼の名前は乃出狗斗(のでくぎと)。外見だけ見ればどこにでもいそうな高校生である彼は、その実限りなく異常な存在だった。
そんな彼は深夜の公園で一つの出会いを体験する。世間を賑わせている連続殺人鬼「午前零時の殺人鬼」と呼ばれる人殺しに偶然出くわしたのだ。不死身である事以外は特別な能力を持つ事のない彼は、手慣れた殺人鬼の手口に抵抗するまもなく全身にナイフをメッタ差しにされて「殺された」。殺されながら彼が見た犯人の顔は、まだ十代と思われる少女の姿をしていた――。
そしていつものように「死なない」まま翌日を迎えて何事も無かったかのように学校へ登校した彼は、新しくやってきた転校生の少女の顔を見て愕然とする。彼女の名前は桐崎恭子(きりさききょうこ)――紛れもなく昨晩自分を殺した殺人鬼の顔だった・・・。
という状況の中で始まる奇妙で不気味なライトノベルです。なにやら結構巻数を重ねているみたいなので読んでみました。久しぶりのHJ文庫です。

際どいなあ・・・

面白いとかつまらないとか以前の問題として、ヒロインが連続殺人鬼という設定は正直微妙なのだけは間違いないですね。つまり普通に「犯罪者」な訳ですから。作中の設定とは言え、複数の人間を自分の欲望のために殺してきている存在だという事です。
当人曰く、

「私は今世間で騒がれているような猟奇的な殺人嗜好を持つ犯人――いわゆるサイコキラーと呼ばれる種類の人間とは違うと、少なくとも自分では思っている」

とのこと。
とにかく彼女は「人を殺したい」訳ではなく「人を切ったり刺したりしたい」という異常性を持っているのだという事が明らかになります。殺人が目的という訳では無く、肉を切り裂きたいという異常な衝動に抗えずに行動してしまい、その結果として人が死んでしまう・・・と。しかし彼女はその人を切り裂くと快感でイってしまうのだと。その欲求は性衝動のように止めることができないものであるという事も語られます。
・・・いや、どう贔屓目に見ても普通の快楽殺人者でサイコキラーシリアルキラーです。本当にありがとうございました。という感じなのですが、その点を除けば比較的普通のメンタリティを持っている少女でもあります。

「どう言い訳をしようが、自分をどんな鎖で縛ろうが、私は最低最悪の犯罪者だ。そんなことは分かっている。……でも、止められなかった。止めることができないんだ」

なんとも困った独白ですね。扱いづらい設定のヒロインなのは間違いないでしょう。薬物依存症で禁断症状が出るようなものなんでしょうかね?

そんな

異常性欲を自覚してしまった人間が社会から逸脱する際に持つジレンマとでも言いましょうか。やりたくない、でも止められない――
というどうにもならない現実に直面していた彼女が出会ったのが、幸運にも「決して死なない少年」だった訳です。ただ肉を切り裂きたい彼女にとっては最高の存在であり、換えの効かない唯一無二の存在とも言えるでしょう。

「仮令貴様が私を好きではなくとも、傍に居ることを許してくれ。貴様に恋人が出来たなら、共にいる時は邪魔をしない。だが私が貴様を必要とした時、それに応えてくれると確約してくれ。貴様と一緒に居ることが許されるなら、私はもう絶対に他の者を殺さないと誓う。頼む。私には――」
膝をつき、オレの手を握ると、桐崎恭子は必死な目で願った。
「私には、貴様が必要なんだ」

長くなりましたが、彼女のこの言い分を納得出来るか出来ないかで物語を読めるか読めないかが決まるでしょう。捕まっても出所したらまた同じ事を繰り返してしまう・・・それが恐ろしいと彼女は言います。
が、そうは言ってもあくまでも「人殺し」であり未だ裁かれていない「罪人」であり顕在化している脅威でもある「危険分子」である少女を物語のヒロインとして受け入れられるかどうか? という事です。
私の場合は何故か平気でしたけどね・・・恐らく私にとってこの設定が余りにもリアリティが無かったからでしょう。作品全体が醸している雰囲気もそれに一役買っているかも知れませんね。まあネタがネタなので手放しで「面白い」と言える気分にはならないところはありますが・・・。

話としては

そんな二人の関係を軸に、恭子の「模倣犯」の登場とその凶行を止めるために二人が奔走することになる・・・という感じで進みます。
もちろん他にも大事な人間関係の一人として久遠りんという少女が出てきます。恭子が「本能的な社会的悪」だとしたら、りんはその真逆の存在である「本能的な社会的善」として描かれます。究極のお人好しというか、気がついたら善行を積んでいるという感じですね。
そんな二人が狗斗を挟んで・・・なんというか微妙に対峙することになるのですが、それがどんな展開を見せるのかは読んでのお楽しみといった所でしょうか。
最終的には社会に潜む組織的な悪なども出てきて物語を盛り上げていくことになります。人殺しの少女と死なない少年というかなり特殊な設定を活躍させるにはちょっとその裏設定は説得力に欠ける・・・という気がしますが、まあライトノベルではこのぐらいが丁度良いかも知れません。

総合

うーむ、星3つかな・・・取りあえず2巻も読んでみようという気にはなりましたが。
決してつまらなくはないですが、やはりヒロインが現役の人殺しという設定は読む人を選ぶ設定でしょうし、生理的嫌悪感や不快感を持つ人も多いのではないかと思います。恭子というキャラクターについては結構丁寧に内面の描写がされるので、私はあまり不愉快には感じなかった口ですが、それでも敷居が高く感じたのも事実です。どんなに心情的に共感出来ても、やっぱり人殺しは人殺しな訳ですしね。
が、その辺りがまあ大丈夫だという人や、ちょっと気にはなるという人は読んでみても損しないかも知れません。あくまでもライトノベル的ではありますが、人を殺すという事について比較的真面目に取り組んでいる作品ではありそうです。少なくとも「敵を倒した! やった!」という感じで流れていかないのは確かっぽいです。基本的にシリアス風味ですし・・・まあ読んでの楽しさは保証しかねますが、まあ、こんな作品もありかなと思います。何かと言えば「すぐ彼氏を刺す彼女」という設定が気になる方はどうぞ、という感じですかね。
イラストはぷよ氏です。なんというか・・・もの凄く残念な感じの表紙になっちゃってるような気がします。インパクトに欠けるというか・・・平面的というか・・・もう一つ魅力を感じない絵でしたね。描いているシーンはなかなか悪くないとは思いますが・・・。

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