シュガーダーク 埋められた闇と少女
- 作者: 新井円侍,mebae
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/11/28
- メディア: 文庫
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ストーリー
下っ端の兵隊あがりで塹壕を掘ることばかりやって来た一人の若者がいた。名をムオルという。彼は今や上官殺しの罪を背負った囚人だった。しかしムオルはその罪がえん罪であることを知っている。自分は何者かに罪を着せられたのだということを。
しかし彼の主張も空しく彼は有罪になり、そしてどことも知れぬ寂れた土地に連行されたのだった。そしてその地で彼は一つの仕事を言い渡される。それは、墓穴を掘ること――彼が連れてこられたのは得体の知れない空気の渦巻く墓地だったのだ。
穴を掘るのは得意だったが、彼はこんな所で自分の人生が終わることに到底耐えられなかった。そしてムオルは脱走することを心に決めるのだが・・・そんな矢先、闇夜の墓地で自らを「墓守り」という一人の少女と出会う。彼女の名はメリアと言い、何故こんな所で墓守りをやっているのか不思議な程に美しい少女であった。
ムオルは脱走するためにメリアに近づき、彼女を利用しようとしたのだが、墓地に隠された秘密、そしてメリアの謎を知った時、彼の物語は本当の幕を開ける・・・。
という感じの話でしょうかね。スニーカー大賞の大賞受賞作だそうです。
うーむ・・・
なんというか、盛り上がるのに時間がかかる話だなー! というのが第一印象ですね。
一般的なライトノベルであれば読者を物語に引き込むために、序盤の方になんらかの仕掛けを用意しておく事が多いような気がしますが、この話は最初から最後までずーっと一定のリズムで話が進んでいきます。なんというか・・・例えば音楽とかって曲の頭の方に耳に残りやすいサビを持ってきていることが多いじゃないですか。でもこの本ではそういう「読まれやすい/人を惹きつけやすい」要素が一切ないという感じです。最後の最後まで読み進めないと物語の一番美味しいところを味わえないという意味でですけどね。
結果として物語の完成度は高いような気がしますが、読み終えるのには結構努力が必要な気がします。序盤から中盤を乗り越えるのにエネルギーが必要というか・・・そんな感じですね。
話は
実にシンプルで、墓堀人として連れてこられた少年ムオルが、墓守人であるメリアと出会い、そして墓に埋められている「ザ・ダーク」という人ならざる存在について知り、そしてこの墓地で一体何が起きているのかという事を淡々と綴っていくという感じになります。
ムオルの主観視点で物語は語られ、彼の心の在り方の変わりようが丁寧に描かれていくんですが・・・何しろムオルの内面の変化以外の刺激が殆ど無いので、刺激的な展開に慣れきったライトノベル読者には微妙に辛い話じゃないでしょうかね。
決して出来が良くないと言うつもりはありませんが、面白く読めたか? と聞かれたらやっぱり「NO」と答えざるを得ないと思います。ただし非常に丁寧に作られた話であるという事は認めざるを得ないですかね。「盛り上げて楽しませよう」という印象は殆ど受けませんでしたが「自分が書くべき物語を完璧に書き上げてやろう」という作者の意気込みみたいなものは作中から感じる事が出来ました。
いずれにしても
そんな話なので、登場人物は実に少ないです。
主人公であるムオル、謎の墓守りのメリア、そしてトリックスター的に現れて場をかき回すカラスという謎の人間を除いて、他のキャラクターは殆ど出てきません。結果的にムオルの内面やムオルから見た時のメリアの有り様などは非常に詳細に書かれますが、それ以外の不要と判断された情報や、あるいはムオルにとって理解不可能な情報などはビックリするくらい書かれません。
どの位そうした情報が少ないかというと、ムオルが連れてこられた共同墓地以外の描写が殆ど無い、という辺りで分かってもらえるんじゃないかと思います。・・・一冊丸ごと墓場から出ない話なんて普通ならまず出会わないような気がするんですけどね。ですので読者はその不足部分を自分の想像力で埋めるほかないという感じになります。そうした「不要部分を思い切ってそぎ落としている」という意味では実に無駄の無い作りですが、そうした「完成度の高さ」=「物語としての楽しさ」ではないことは皆さんご承知の通りだと思います。
総合
なんとも複雑な星3つですね。
完成度の高さで言えば確かに大賞受賞作というのも頷けるなあ・・・とは思うのですが、じゃあ読んでいて面白いか? と言われたら「特別面白くはない」と言わざるを得ませんね。読み進めれば物語そのものは魅力的ですし、登場人物も良く書けていると思うのですが、この本くらい途中で投げ出したくなる話は久しぶりでしたね。美しく作られているけどストーリーが退屈な映画を見たような気分です。
なんというか、興味は無かったけど名作と言われていたので「取りあえず押さえておかなくちゃ」という奇妙な義務感を背負ってジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」をムキになって全部見た、とかそんな感じです。マニアックな例えですみませんけど・・・。
イラストはmebae氏です。絵に関して言えば「非常に良い」という評価をしますね。カラーイラストも美しいですし、本編内の白黒イラストも丁寧で手抜きが一切無いのではと思わせる仕事ぶりです。他の絵師もみんなこの位丁寧だったらなあ・・・なんて思いました。