ケモノガリ(2)

ケモノガリ 2 (ガガガ文庫)

ケモノガリ 2 (ガガガ文庫)

ストーリー

歴史の深い闇の中で、誰かが言った。狩りをしたいと。
鹿でもない。狐でもない。狼でもない。もっと、もっと高等でもっと狩るに足るもっと狩りが楽しめる生き物を狩りたいと。・・・歴史はその欲望に”クラブ”という名前を与えた。暗くおぞましい欲望を満たすだけの選ばれた人間だけが所属することの出来る”クラブ”。
それは闇に潜みながらひたすらに狩りを続けていた。最も高等で最も狩りをするに楽しめる獲物——人間を相手に。
しかし、その”クラブ”による非道極まる人狩りのゲームから生還を果たした日本人の少年がいた。”クラブ”の用意した殺戮の罠を時にかいくぐり、時に正面から打ち倒して、人の枠をはみ出すほどの狂気に塗れた”クラブ”に所属する”ケモノ”たちを残らず返り討ちにしたその少年の名は――赤神楼樹(あかがみろうき)。極限状態で自分の中に眠っていた殺人の才能に目覚めたのが彼であった。
そして、”クラブ”に復讐するだけの存在と成りはてた自分自身を、彼は”ケモノガリ”と名付けた。人をである事を止め、ただひたすら”クラブ”に所属する”ケモノ”を狩り殺すためだけの生き物として血塗られた道を歩き始めた彼は、手に入れた”クラブ”の会員リストを元に世界の裏側を歩き、”ケモノ”たちを狩り続けていた。
そうして彼は、一人の”クラブ”の会員に行き着くことになる。北欧の小国バレルガニアの終身永世大統領であるコリキア・リンドマンである。この”ケモノ”を狩るには一つの国に戦いを挑むことに他ならなかった。絶望的とも言える状況に身を投げ出す楼樹だったが、バレルガニアには大統領の圧政に抵抗するレジスタンスが存在していた・・・。
という感じで始まる殺戮ライトノベルですね。久しぶりの2巻です。

ぶっちゃけ

1巻でかなり無茶な展開をしているので今更驚かないという感じではあるんですが、それでもやっぱりぶっ飛んでいるなあという感じがしましたね。論理的な整合性とか実現可能性とかをある意味で小気味いいほど無視してくれます。何しろ肉厚のグルカナイフ(作中ではククリナイフって書いてたかな?)一本と弓矢だけで近代的な武装をした兵隊達をまるで虫けらのように虐殺していくのですから・・・。
しかし、そんな人殺しをしまくる主人公でも意外に気分悪くなく読んでいられるように配慮はされています。それは作中で善悪の関係が綺麗なくらいにはっきりと分かれているからなんですけどね。真っ白と真っ黒くらいの塗り分けがされています。残虐かつ非道な支配者層と、それに抵抗する人道的な組織であるレジスタンスといった案配です。
そんな感じにキャラクター達が配された舞台で、主人公である楼樹はどこまでも”ケモノ”を狩るだけのただのキリングマシーンとして動き続けることになります。ただし、彼自身は自分を善と思っている訳ではないのは確かです。そうですね・・・言うなれば邪悪な存在を打倒するために自分をより深い闇に沈めた・・・と言えば、まあ格好つけすぎですがあながち外れではないはずです。

この話は

上で書いたことから大体想像できるとおり、倫理とか正義とか合法といった問題を完全に棚上げしています。本来なら、人が死ぬ/人を殺すという行為はそれだけで十分話を作れてしまう程重たいテーマですが、そうした点には真っ直ぐに向き合っていない作品ですね。
ぶっちゃけると、現代を舞台にした「一騎当千の戦士である楼樹を主人公にした勧善懲悪の物語」だと思って読み始めれば色々と面倒なことを考えずに済むと思います。人殺しをゲームとして楽しむ連中に対しての容赦など一切不要であるという認識ですね。そうした連中は既に人を止めた”ケモノ”である。だから楼樹は”ケモノガリ”として彼らを一片の容赦もなく切り刻んでいく――というわけですね。
ところで、こうなるとちょっと不思議な感じになるのが「この話と読者の関係」というヤツでして。何故かというと、この話を楽しむ読者はこの作品を通じて人殺しの物語を楽しんでいる訳ですよね。それって・・・この作品の中の”クラブ”とクラブ会員である”ケモノ”たちとある意味において同じ立ち位置だと思うんですよ。つまり、

  • 物語の外という完全に安全な位置から人殺しを楽しむ”クラブ会員” ≒ 読者
  • 人殺しの技と狂気を持って殺人ゲームを盛り上げる”娯楽提供者” ≒ 作者の東出祐一郎

という事になるでしょうか・・・。そうすると楼樹の位置に来るはずの現実の存在は一体なんでしょうね? ・・・まあそんな感じでちょっと違った視点でこの物語を読んでみるというのもアリかも知れません。

ところで

話の方ですが、楼樹は今回レジスタンスの一員として作中に関わってくることになります。前作で登場したヒロインたちも登場しますが、あくまで遠く離れた日本から楼樹を想うといった間接的な登場の仕方です。という訳で新しくヒロインとして一人の少女が配置されることになります。名前をグレタという少女ですね。表紙に出てきているメイド姿の少女がそうです。
グレタも半ばこの話の主人公のように活躍することになります。ちょっと上手い表現が見あたりませんが、”ケモノガリ”である楼樹と”人間”の間を取り持つ存在のような役所です。グレタは登場した直後こそその身に起こった悲劇から一切の感情を無くしたような振る舞いをしますが、楼樹との関係の中で徐々に人間らしい心の動きと、自分に背負わされた使命に目覚めていくことになります。楼樹もグレタと関わっているときだけは人間的な振る舞いをすることになります。まあ、作中のオアシスとも言える存在でしょうかね。
あともう一人、シャーリーという名前のやり手の女性が出てきます。色々と訳ありっぽい行動を繰り返してくれる存在で、今後が楽しみなキャラクターの一人になりそうです。

総合

うーん、ちょっと甘いかも知れませんが星4つかな・・・。
日常系ライトノベルが一大勢力となっている中で、こういう殺伐として萌えの少ない作品で勝負しようという気概を買いたいというのと、1巻でこの作品のノリを掴んでいたので無理のある展開もすんなりと受け入れられたのでこの星の数、という感じです。
映画で言えば・・・うーん、「スターシップ・トゥルーパーズ」とかを見るような感じでしょうかね。難しく考えずに楼樹が人非人達をバッタバッタとなぎ倒していく殺戮ショーを楽しむのが正しいスタイル、という作品ですかね。上でちょっと触れたように、時々我に返ると「素直に楽しんで良いんだろうか?」という気分になったりもしますが、まあそんな気分になるのも楽しみの一つ、ということで。
イラストは品川宏樹氏です。カラー、白黒イラスト共に作品にマッチした良い仕事をしていると思います。個人的には話の内容が内容なので、もうちょっとグロ方面にシフトした絵が多くても良かったんじゃないかという気がしなくもありませんが、まあそこまで贅沢を言うのもアレかな・・・?

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