薔薇のマリア(14)さまよい恋する欠片の断章
薔薇のマリア 14.さまよい恋する欠片の断章 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 十文字青,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/07/31
- メディア: 文庫
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ストーリー
サンランド無統治王国・首都エルデン。大きな嵐が過ぎ去ったあとでもこの街が真なる意味で眠りにつくことはない。人々は日々を残酷なまでの生存競争の中に埋没させながら、この混沌の街で息づいていた。
そして、もちろんマリアローズたちの面々もその中に含まれている事は間違いなかった。街の地下に眠るアンダーグラウンドの闇を少しずつ踏破しながら、隠された財宝を求めて彷徨う侵入者(クラッカー)。それがマリアローズの所属するクラン・ZOOの本来の姿である。ある意味で日常が帰ってきたとも言える日々がそこにはあった。
そうして混沌の街は動き続ける。世界そのものも動き続ける。この”何かがおかしい”世界のあちこちで誰もが自分の中に、あるいは他人の中に、あるいは世界そのものに謎を見いだし、それを暴こうと足掻き続けていた。全てを知るものが沈黙を続けるなら、自らが赴いてその闇に光を当てるほか抗うすべがないからだった。
この世界で生きる多くの人たちの瞬間を切り取り、断片化した事実を積み上げていくことでさらにその深さを増していく秘密。彼らはどこから来たのか、彼らは何者なのか、世界はどう成り立ったのか、世界はどうあるべきなのか・・・。物語は解けることのない謎を孕みながら静かに回転する・・・。
そんな感じの最新刊、気がつけばもう14巻なんですね。
今回は
短い話を沢山詰め込んだ一冊になっていますね。断片化された真実の列挙というか、そんな感じです。
語り手が章ごとに入れ替わって様々な角度からマリアローズたちの世界を描き出しています。大きなストーリーは背後で流れていますが、基本的になんてことのない一冊というか、とにかく丸ごと伏線だったり伏線の回収だったりします。
とは言ってもメインキャラが抱え持っている謎の一部が明らかになったりして、ある意味で大事な一冊という感じもするなんとも言い難い一冊じゃないでしょうか。
しかしここまで来て改めて驚かされるのは、「薔薇のマリア」の中に登場するキャラクターの多彩さ、そしてその書き分けの見事さでしょうか。メインとは言い難いキャラクターが主役を張っていたりする章もあるんですが、飽きませんね。端っこのキャラクターまで見事に作り上げている作者の手腕は見事としか言いようがないです。
んで
そんな中でマリアローズが相変わらずつまんないこと(当人にとっては重大な事)でグズグズウダウダやっているのが妙に微笑ましかったりします。
実のところはマリアローズを中心にした大きな流れがあって、本人が知らないところではもの凄く重要な人物だったりとか台風の目になったりとかしている訳ですが、マリアローズ本人にはその自覚が全くなくて自意識的にはどこまでも小者感むき出しなんですよね。この辺り全然変化してないなあ・・・としみじみ思って読んでいたりしました。多くの人の心の中に消えない虹のようにその姿を残しているのに、マリアローズだけが自分の価値が分からずに苦しんでいる・・・そんな感じでしょうか。
でもまあ人間なんて大抵はそんなものかも知れません。まあマリアローズの悩みにはその隠された出自にも理由があるのかも知れませんが、その辺りについても今回は言及されることになります。まあ、全てが明らかになるわけではありませんが・・・。
ところで
今回は恋の話が中心になっています。
メインキャラクターの殆どの話が出会いや恋を中心に語られることになります。ユリカだったりカタリ(!)だったり、まああっちこっちでくっつく話が多いですね。アジアンは相変わらず「極限愛」とか言い続けているのでなんかもう許してやるかな・・・という生暖かい気持ちになりましたが、現実社会でいたら立派なストーカーですね。まあ危険はないみたいなので放っておこうか・・・と言ったところかも知れませんが、アジアンの脳みその茹だった感じが相変わらずキモ格好いいです。
遡って考えてみると、こういう変態にしか救えないような過去と事実がマリアローズに隠されているのかも知れません(作中ではそれを示唆するような箇所があります)が、相変わらず匂わせるだけ匂わせておいて本当の所は教えてくれないという悪質な(?)商売を作者がやってくれています。まあ不快感は不思議と無いんですが・・・財布に金が全然無いのにウナギの蒲焼きの匂いが漂ってきたときのような心境とでも言うか、そんな感じです。
とにかく胡散臭い人大集合という感じになっていますね。人外のあの人やこの人があっちこっちでザワザワしているので、これからまた大騒ぎになることだけは間違いないと思います。
総合
んー星4つかな。安定していますね。
まあ基本だらだらとしていて「本当にこのエピソードってこの話の中で必要不可欠なんかいな?」と思うところがあったりしますが、それぞれの描写が秀逸で飽きさせることなく読ませてくれます。ファンは容赦なく買いですね。
今ふと思ったんですが、作者の十文字青氏は「薔薇のマリア」の世界を使ってシェアードワールドとかやりたいんじゃないかな? なんて思ったりしました。こう言っては何ですが、単行本数十冊で終わりにするにはこの物語の世界観は広すぎて深すぎるように思います。エルデンの街は魔界都市”新宿”ばりに魅力的ですし、超常の存在達はポリフォニカシリーズ以上に謎めいていて奥行きを感じさせます。
・・・なんと言いますか、「薔薇のマリア」完結後に、世界設定を公開して作品を募ったら結構な数が集まるんじゃないかという気がします。んー、ポリフォニカというかクトゥルー神話体系のノリかも知れませんが、まあどっちにしたって面白そうです。あるいはこの世界設定を元にして作者のライフワークにしてもらうとか・・・楽しそうですね。
イラストはBUNBUN氏です。表紙の色使いが「ハッ」とする程魅力的ですね。安心のクオリティです。今回は人物画が多いですが、まあ書かれている内容を考えれば仕方が無いかも知れません。やる時にはやってくれる絵師さんですので、今後にも期待しています。