ゴールデンタイム(1)春にしてブラックアウト
- 作者: 竹宮ゆゆこ,駒都えーじ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/09/10
- メディア: 文庫
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ストーリー
受験に受かって一人暮らしを始めてさあこれから入学式だ、という所にこぎ着けた悩めるどこにでもいそうな若者である多田万里(ただばんり)は、東京砂漠でかなり困っていた。
何故かというと、入学式も終わってこれからオリエンテーション会場に向かうところで精神的にも肉体的にも迷子になってしまったからだった。現地まで電車で行けばいいものを、同じ大学1年の人波にのってついて行けばオリエンテーション会場に着けるとか思ったのがそもそもの間違いだったのだ。ちょっとした事でつけていた学生を見失った万里は、途方に暮れていた。
そこで万里は自分と同じ事を考えて、全く同じように迷子になった人間と出会う。彼の名前は柳澤光央(やなぎさわみつお)といい、何気にイケメンだったがなんだか万里と気があったのだった。不安だったところから道連れも出来た事で一気に安心した二人だったのだが、突然襲ってきたゴージャスな暴風にいきなり張り倒されたのだった。
タクシーで彼らの前に降り立ったその女性の外見は圧倒的だった。なんか色々と一流過ぎて見とれてしまうほど美しい女性だった。手に持った薔薇の花束に負けないその立ち姿を備えたその女性は、しかし、おもむろに花束で光央をひっぱたきはじめた。それに巻き込まれてついでに万里もひっぱたかれた。突然のゴージャス台風出現に万里は訳が分からない。
すると、その絢爛様はこう言ったのだった。
「進学先を偽って、私を騙しきれると思った? 本気で逃げられるとでも? そんなわけないじゃない。嘘も誤魔化しも通用しないの。完璧な私の、完璧なシナリオに、光央を逃がす、なんてシーンはないの」
そう言われている光央の反応を万里が見たところ、ぶっちゃけこのきらびやかな女性は、つまるところ「美しきストーカー」のようであった。光央に聞くと名前を加賀香子(かがこうこ)といい、子どもの時からずっとこの調子なのだというのだ――。
ちょっとひねった設定で始まる、たらスパ神・たけゆゆによる新しい物語の一巻です。こう来るのかあ〜。
イキナリ
メインヒロインの加賀香子が重度のストーカーで凄くイタい性格、しかも主人公の万里をストーキングするんじゃなくて大学で出来たばかりの友人を激烈ストーキングしているというのがもう激しく変化球です。それと、主人公は万里なのに、彼と関係ないところで事の起こりが始まっているという所も特殊ですかね。
このヒロイン加賀香子は非の打ち所がない美人なので色々と救われている感じはありますが、こと柳澤光央が絡む話になると、もうそういうのを差し引いても性格と行動の部分で危険過ぎるという危ないキャラクターです。この危険度はコメディパワーで中和できるような生やさしいものではなくて、もうサイコホラーのレベルに達しています。
- 小学校時代からずっと「光央と結婚する」と言い続けている。
- 当然のように光央の進学先と同じ所へと進学する。
- 光央が女の子を気にしたり、気にされたりすると、ひたすらその女の子との仲を邪魔し、時には攻撃する。
- 光央を自分のモノだと言い張り、当然恋人であるとも言い張っている。
- 過去のありとあらゆる出来事が光央との「分かちがたい縁である」と思い込んでいる。
・・・ひいっ!
未だかつてこんなに洒落にならないヒロインが存在したでしょうか? これだけだったら絶対に愛せないヒロインですよね・・・大河も初期はアブナイところが強調されていましたが、あくまでコメディ的に強調されていました。打って変わってこちらはグンとリアル路線で怖いです。・・・まあそれで済まさないところがたけゆゆの上手いところではあるんですが。
話を読み進めていくと香子の「悪いところ」がバンバン出てくることになりますが、それと同時に「良いところ」も出てくるようになります(あくまで万里視点でですが)。単純にイタいだけのキャラクターではないと言うところですね。この設定が今後どんな風に物語に化学反応を起こしてくれるのか、正直楽しみです。
もひとつ
主人公の万里は実に無害で善良でなんか苦労性な感じの若者として設定されているんですが、やっぱりちょっと違います・・・というか訳ありです。何しろ彼には「幽霊が取り憑いている」んですから。しかも「自分自身の幽霊」です。
・・・魂が分身の術でも使ってるのか? と言った感じで最初は意味が分からなかったのですが、読み進めると「万里に取り憑いた幽霊」が一体何物なのか、という事が明らかになっていきます。香子についてもそうでしたが、この辺りの設定もなんとなく笑って済ませられない感じがプンプン漂っているんですよね・・・でっかい時限爆弾とでも言うか、逃げても逃げても追いかけてくる過去というか・・・。つまり全体的に前作「とらドラ!」と比較して生々しさが50%UPという感じでしょうか。
作中で、万里が怪しげな新興宗教のセミナーに連れて行かれてしまうという出来事が起きるんですが、そういうネタも微妙に際どいですよね。そういった事件が実際にあることを考えると、笑えるけど笑えない感が滲み出していると言っていいんじゃないかと思います。
まあそうは言っても主人公である万里が善良で好印象かつ勇敢な青年(ちょっと考え無しで馬鹿ですが)なので、作品の雰囲気全体も引きずられてなんとなく柔らかくなっているのが救いというかラッキーです。上でも触れたように際どくシリアス寄りな作りの話ですが、決して暗かったりする訳ではないのでその辺りは安心してください。
作品全体としてはサブタイトル通り、春っぽいほわほわ感もしっかりとある話になっています。まあ同時にブラックアウトもしているので油断できないんですけどね。
総合
星・・・4つは固い。
正直ファンなので星5つ付けてしまっても良い位なんですが、今後の面白さののびしろを考えると、導入部分とも言えるこの1巻はまあ星4つ位に抑えておくのが妥当かな〜と脳内会議で決定されました。
上では書ききれていませんが、他にも数名の中核となるキャラクターがこの1巻で登場してきます。まだちょっとしか出ていないので今後どうやって絡んでくるのか分からないキャラクターなんかもいたりしますが、結構シリアスな”謎”や”秘密”を抱えたキャラクターもいるようで・・・その辺りが今後どうやって展開していくのかが気になりますね。
とにかく、前作の「とらドラ!」が中高生向けの作品だとしたら、今作は「高校〜大学生向け」くらいにターゲットを置いているのかなという感じです。全体的に大人っぽくなっていますね。実際、舞台も大学になっていますし・・・。という訳で中高生は大学の生活を想像しながら読めばいいと思いますし、現役の人は「俺の、今と、違う……?」とか思いながら読めばいいですし、大きなお友達の場合はいつも通り「ウフフッ♥ クフッw グウッ……!? ウウウウッ……!!!」とかって感じですので痛くて痒いのを楽しみましょうかね。
イラストは駒都えーじ氏です。有名な絵師さんですね。・・・が、はっきり言って作品のイメージとこれ程あっていないイラストはそうないんじゃないか、という酷い出来です。絵師さんからすれば、まあいつも通りの仕事をしたという事なのかも知れませんが。個人的には、主人公からヒロインまでのおおよそ全員のイラストが作中の文章が与えてくるイメージと激しく乖離しているように思いました。なんでキャラクターが変に格好付けたイラストにしちゃってんの? って感じです。ちなみに本文(白黒)イラストは無いんですが、あったらあったでもっと大惨事になっていたような気がしたのは・・・私だけですかね?