寝る前の一時 vol29

俺の実家に帰省中・・・。

「そーなんだよ! そこでホレイショがこう、サングラスを取って……」(奥さん)
「渋いよな〜ホレイショ!」(俺)

などと海外テレビドラマシリーズ「wikipedia:CSI:マイアミ」について二人で熱く語り合っているところに俺の母ちゃん登場。

「ふーん、何、ハムレットの話? 二人ともなかなか高尚な趣味してるじゃない」(母ちゃん)
「「…………ハムレット?」」(俺&奥さん)
「え? ホレイショってあのホレイショでしょ? ハムレットに出てくる」(母ちゃん)
「……う、嘘だぁ」(奥さん)
「いやだからホレイショと言えばハムレットだって」(母ちゃん)
「……ほぼきんぐ! 即調べるんだ! さっさとググレカス!」(奥さん)
「なんだか釈然としないが……まあいい」(俺)

という訳で事の真偽を調べるべくググる俺・・・。

「うおおお……! ハムレットにホレイショって名前の登場人物が確かにいるぞ……そもそもマイアミのホレイショの名前の元ネタの一つっぽい……」(俺)
「なんだか分からないけどもの凄い敗北感……こっちはアメリカドラマで、向こうはシェークスピア……向こうの方が偉いっぽいというか、シェークスピアなんて二人して読んでない……」(奥さん)
「ふふん……ナメんじゃないよ! 母ちゃんこう見えて昔は文学少女だったからね!」(母ちゃん)
文学少女……だと……?」(俺&奥さん)
「そうそう、沢山読んだねえ……読めるチャンスがあったら片っ端から読んだよ。名作って言われてるような作品は一通り読んだんじゃないかな」(母ちゃん)
「……『嵐が丘』とか」(奥さん)
「あー読んだ読んだ。結構好き」(母ちゃん)
「『オペラ座の怪人』なんかも?」(俺)
「そりゃ読むでしょ。映画とかも好きだし」(母ちゃん)
「……『狭き門』とかも……」(奥さん)
「えーっと、ジッドだったっけ? うんうん、読んでるね。あー思い出すねぇ……」(母ちゃん)

自動的に回想モードに突入する我が母ちゃん。どう見てもシワシワへちゃむくれのババアである。イメージ的にはラピュタに出てくる海賊のドーラを想像するとほぼ正しい。

「懐かしいね〜。女学校に通ってた昔はこう、長い髪の毛をおさげにしてねえ……胸に本を抱えちゃって。私面倒見が良かったから年下の男の子とかに凄くモテたんだよねぇ。ああ、あの頃は『赤と黒』のジュリアン・ソレルに憧れててさー」(母ちゃん)
「「いやああああああ! 文学少女とか言ったらいやあああ! イメージが壊れるううう! 嘘だああああ!」」(俺&奥さん)
「ぐっ!? ……ふぬううぅ!! 二人揃ってその態度は何だ!? この偉大なる母に向かってその言いぐさ!! キンタマ蹴り上げるぞ!?」(母ちゃん)
「「もう色々とやめてぇええええ!!」」(俺&奥さん)

二人揃ってグッタリとなった夕さりでした。年月って残酷ですね。というかうちの母ちゃん怖い。